2010年4月29日木曜日

光アクセス網はどうなる? ・・・総務省 vs. NTT


総務省がブロードバンド普及計画を前倒し

OHM」2010年4月号の「NTTは光アクセス網を開放すべき!」に、光アクセス網は電気やガスと同様な社会インフラとして、1地域については1社がネットワークを構築し、他社に利用させるようにすべきだと書いた。

上記記事に、総務省は昨年12月に発表した「原口ビジョン」で、2020年までに全世帯にブロードバンドを普及させるという目標を掲げたと記したが、その後今年3月にはこの計画を5年前倒しし、2015年までに実現すると発表した。総務省は短期間に力を集中して本計画の実現を図ろうとしているようだ。その後の展開を見てみよう。

総務省とNTTの対立がエスカレート

上記記事に、NTTの光アクセス部門の分離を図ろうとする総務省の動きに対し、NTTが拒否反応をあらわにしていると記したが、この両者の対立はその後エスカレートしているようだ。

4月13日の日経新聞は、総務省の作業部会がNTTの光アクセス網を分離し、他の通信事業者も利用できる環境を整えることを検討する予定だと報じた。これに対し、NTTの三浦社長は「分離した会社はもうからない設備事業をやる意欲がわかない」と反対しているという。

そして4月21日の同紙は、前日の作業部会の様子を報じている。それによれば、「NTTの光インフラ事業の完全分離が必要」と主張するソフトバンクの孫社長に対し、NTTの三浦社長は「分離は時間とコストがかかり、ブロードバンドの普及を阻害する」と反論したそうだ。また同社長は「海外の株主は分離に危機感を持っている」とも唱え、有識者の間にも「国がNTTに分離を強要すれば企業価値が下がり、株主代表訴訟や国家賠償訴訟を起こされるリスクもある」という意見もあると報じている。

普及には魅力あるサービスが重要

NTTも「(光の利用の)普及が進まないのは(光回線の)中を通るサービスがないからだ」と言っているという。しかし、「したがって、光アクセス網の開放にはあまり意味がない」と言えるだろうか?

現在すでに、全人口の90%を超える地域で、光アクセス網が利用できる状態になっているという。しかし、実際に使っているのは全世帯の30%程度だ。したがって、光アクセス網の利用を普及させるには、アクセス網が未敷設の地域に新規にアクセス網を敷設することよりも、既敷設のアクセス網の利用を促進することの方が当面の大きな課題なのは確かだ。

そして、既敷設の光アクセス網の利用率が低い理由には、料金が高いこともあるだろうが、光ならではの魅力のあるサービスが少ないことが大きいのも確かだ。

光アクセス網を使ったサービスには、インターネット接続、映像配信、電話などある。しかし、光の高速性を最も生かすものは映像配信だ。そして、人々は、他のものは置いておいても、テレビやビデオには十分カネと時間をつぎ込んで楽しむ。したがって、光アクセス網の利用の普及には、光アクセス網での映像配信が、アンテナやケーブルテレビでテレビ放送を受信したり、ビデオレンタル店でDVDなどを借りてきたりするよりも安く、便利にすることが重要である。

そのためには、光アクセス網上で、複数の映像配信事業者に競争させるのが一番早い。光アクセス網を一社が独占して映像配信していれば、無競争状態になり、価格やサービスの改善は望めない。また、そうかといって、光アクセス網自身の提供を複数の企業に競争させるのは、社会全体として重複投資になり望ましくない。

したがって、NTTが主張する「光が普及しないのはサービスが不足しているためだ」というのは正しいが、この問題を解決するためにも光アクセス網の開放が必要なのだ。

NTTの株主にも利益をもたらすはず

折角大金をかけて敷設した光アクセス網も、現状のように利用の普及が進まなければNTTの株主に利益をもたらさない。光アクセス網の開放により、それを利用したサービスで競争が起き、価格やサービスの質が改善されれば、光アクセス網の契約者が増え、NTTの株主にもその利益が還元されるはずだ。

光アクセス網を開放すれば、たしかに映像配信とかインターネット接続とかのサービス提供業でのNTTのシェアは下がるかもしれない。しかし、通信事業者の事業の核である光アクセス網自身の収益は増大する。従来も、通信網の提供とそれを使ったサービスの提供は、通信事業者とインターネット・サービス・プロバイダなどのように、別の企業が分担してきたものが多い。

したがって、現在のNTTの光アクセス網をどういう形で分離するにせよ、現在のNTTの株主が正当な権利を継続して保持するようにすれば、決して現在の株主が不利益をこうむることはないはずだ。それどころか、今までの投資を生かし、将来の利益につなげるためには、NTTやその株主にとっても光アクセス網の分離・開放が最良の策ではないだろうか?

2010年4月28日水曜日

「NTTは光アクセス網を開放すべき!」のご紹介

OHM」2010年4月号に掲載された上記の記事が小生の運営するウェブサイトに再録されました。

[概要] 総務省は全世帯にブロードバンドを普及させようとしている。そのためには全世帯に光ケーブルを引く必要がある。それを実現するには、NTTの光アクセス網を分離して他社に開放するのが実際的だ。―――>全文を読む

[追記] 本ブログの「光アクセス網はどうなる?・・・総務省 vs. NTT」(2010/4/29)にその後の状況があります。

2010年4月7日水曜日

「グーグル対中国」の報道への疑問

“google.cn”はどうなった?

本ブログの「グーグルと中国の対決はどこへ?」 (2010/3/13)に、グーグルが今年1月12日に検索結果の自主検閲をやめると発表したことを記した。本件はその後どうなったのだろうか?

一般の報道では、自主検閲をやめるとの意向を表明しただけで、検閲を中止し、天安門事件などにからむ用語の検索結果を表示するようにしたとは伝えられていない。しかし、上記のブログに記したように、3月13日には “google.cn”で “Tank Man”の検索ができたので、少なくとも一時期は自主検閲が撤廃されていたようだ。

その後3月22日に、グーグルは “google.cn”の訪問者を香港のサイト “google.com.hk” にリダイレクトすると発表した。これは中国の法規制に触れることなく、実質的に中国本土から検閲なしで検索ができるようにするものだ。 “google.cn” で直接検索できるようにすると違法行為とみなされ、いくら国際世論のバックアップがあっても、グーグルが処罰される恐れがある。そのため、グーグルは中国本土と法規制が異なる香港にリダイレクトするという手段を取ったのだろう。

これに対し、中国政府がどう対処するかが注目された。Wikipediaの “List of websites blocked in the People’s Republic of China” の履歴によると、 従来ブロックされていなかった “google.cn”がブロックされたと、3月28日に書き換えられた。そして、3月30日には北京や深圳で “google.cn”も “google.com”も使えなくなったとのブログ情報もある。また、4月1日の日経新聞は、「場所や時間によって香港版サイトへ接続できない場合もある」と報じている。

これらの情報から、中国政府は3月末頃 “google.cn”をブロックしたものと思われる。日本では現在でも、“google.cn”は香港サイトにリダイレクトされるが、中国本土ではもはやこのリダイレクトは意味がなくなってしまったようだ。

過去の実態を見ても、中国本土内でのブロックの状況は、場所と時期によってずいぶんバラツキがあるようだ。グーグルは “Mainland China service availability” というウェブページに、各サービスの日々の使用可否の状況を掲載している。これによると3月21日以降、連日ウェブ検索が「使用可」になっている。場所によっては使えたのかも知れないが、情報の精度をもっと上げる必要がある。

全世界のグーグルのサイトに対するアクセスは?

では、全世界に180ある “google.cn”以外のグーグルのサイトへの中国本土からのアクセスはどうなのだろうか? たとえ “google.cn”にアクセスできなくてもこれら外国のサイトへのアクセスができれば、それを使っていくらでも検索ができる。検索対象サイトを、中国語のサイトに絞ることもできるし、また “google.com”の場合は、検索ページの表示に中国語を使うこともできる。

ところが、これらの外国のサイトの中国本土からのアクセスの可否がはっきりしない。前出のWikipediaやブログ情報にも記載がないし、小生が目にした限り、ニュースでも報じられていないようだ。

これらのサイトへのアクセスが可能なら、実質上、中国本土からも自由に検索ができるので、この情報も是非調査して正確に報道してもらいたいものだ。これは外国からインターネットで調査することはできないが、中国各地に特派員を派遣している大きな報道機関にとっては容易に調べられることだ。

自主検閲か、政府によるブロックか?

検索サイト自身がブロックされていて使えないものを別にして、検索できない原因には二通りある。

一つは、検索結果のページに検索対象のページが表示されないものだ。前回のブログに記したように、中国のBaiduで “Tank Man”が検索できないのはこれだ。これは検索サイトの自主検閲による。

もう一つは、検索結果のページには検索されたサイトが表示されるが、それをクリックしてもそのサイトが表示されないものだ。そのサイトが政府機関によってブロックされている場合はこうなる。

ところが、記事を読んだだけでは上記のいずれなのかはっきりしないものが多い。

例えば、前出の4月1日の日経新聞の記事には、「無事に香港版のサービス画面にたどり着いても、中国政府の神経を逆なでするような単語を入力して検索すると『閲覧できません』との結果が表示されるケースが多い」とある。『閲覧できません』と表示するのが検索サイトなのか、検索結果をクリックした後のブラウザなのか不明だ。香港版は自主検閲はしてないはずなので、これは検索されたサイトを中国本土でブロックしているためだと推測されるが、記事だけからはどちらが原因か不明だ。

あまり頭を使わなくても、何が起きているのかはっきり分かるように書いてもらいたいものだ。