2016年12月4日日曜日

「クラウドもどき」にご用心!


クラウドが減少!

米国の非営利団体CompTIAが本年9月、最近のクラウドの利用状況の調査結果を発表した(1),(2)。年7月に米国の500社について調べたものだという。その一部を紹介すると、アプリケーション・ソフトについてクラウドを使っている企業の割合は次の通りだそうだ

いずれの分野についても、クラウドを使っている企業数が2014年に比べて減少している。他の分野についても同様だ。

同社によれば、クラウドを利用する企業が減った分、自社のシステムを使う企業が増えているという。なぜなのだろうか? 

「クラウドもどき」の利用が減少

ComTIAによれば、その理由は、IT ベンダーが厳密にはクラウドではないシステムまでクラウドと称して拡販し、ユーザー企業もクラウドの適用範囲を広げてきたが、ユーザーが次第に利口になってその適用範囲を絞り込むようになったためだという。

確かにクラウドの流行が始まった当時、ITベンダーは営業活動を有利にするため、何でもかんでもクラウドにしてしまう傾向があった。こうしてクラウドと似て非なる「クラウドもどき」が世の中に横行した。

例えば、ユーザー側で使われていたソフトをほとんどそのままセンター側で動かし、サービスを提供するようなものである。これだとセンターにユーザーの数だけソフトのコピーを用意する必要があり、コスト低減の効果があまり期待できない。

また、クラウドの利点としてITベンダーが宣伝したものの中には、実は従来のシステムでも実現できたものも多い。

例えば、「クラウドを使えば開発期間が短い」 というのはパッケージソフトの利点と同じだ。また、「クラウドを使えば軽量経営が実現できる」というのは、レンタルサーバやアウトソーシングの利点と同じである。

したがって、クラウドのセールストークには気を付ける必要があった。筆者は、今から6年前に、『クラウド』と聞いたら眉に唾を!」という記事でこの点を指摘した(3)。  

クラウドの定義があいまい

こういう「クラウドもどき」が横行した大きな原因に、クラウドの定義があいまいだったことがある。

米国政府は早くからその弊害に気づき、2009年に商務省の国立標準技術研究所(NIST)がクラウドの定義の明確化を始めた(4)。

これは、クラウドと似て非なるものをクラウドと称することを排除し、真にクラウドの特長を生かせるもののみをクラウドと称するように規定したものだ。こうすることによって、クラウドと称していてもその利点を享受できないシステムが現れることを防ごうとした。

の概要については、2011年「米国政府のクラウドへの取り組み」という記事で紹介した(5)。その定義では、クラウドは概略次の要件を満たすことが求められている。
(a) サービス提供者の人手介入なしにサービスが始められること。
(b) インターネット等の標準ネットワーク経由で各種端末からサービスを受けられること。
(c) サービス提供者が提供する資源が複数のユーザーで共用されること。(マルチテナント)
(d) 資源の利用状況を常時監視し、その結果によって提供資源が自動的に増減されること。

逆に言えば、契約にセールスマンとの面談が必須なもの、専用回線でサービスを提供するもの、ユーザーごとにソフトのコピーを用意したもの、割り当てられる資源が固定しているものは真のクラウドではない。たとえクラウドと称しても、それは名前だけで、クラウドの特長を十分には生かせないからだ。

「バズワード」にご用心

情報産業では、いろいろな技術用語が過去に一時的に大流行した。データベース、MIS (Management Information System)、ダウンサイジング、オープン化、等々である。これらの言葉は、いったんはやり出すと、時代に乗り遅れまいと、新聞、雑誌、ITベンダー、ユーザー企業などみんな使い出し、巷にあふれかえった。こういう技術用語の流行語は「バズワード(Buzzword)」と呼ばれる。

このバズワードはもともと正確に定義づけられていないため、ITベンダーは自社製品を何でもかんでもこれらの流行語に結びつけて、いかにも時代の最先端を行く製品のように印象付けようとした。

「クラウド」はこういうバズワードの一つである。似たような概念は、1960年代以来、ユーティリティ・コンピューティング、アウトソーシング、データセンタ、レンタル・サーバなど、いろいろな名前で呼ばれてきた。したがって、現在のクラウドを真に経営に役立てるためには、現在のクラウドが過去の類似サービスとどう違うのかを正しく認識する必要がある。

今回のCompTIAの調査結果でクラウドの利用者が減ったのは、この認識が甘かったことを示しているのだと思われる。

現在、バズワードとしてはやり出しているものには、IoT (Internet of Things)AI (Artificial Intelligence)、ビッグデータ、VR (Virtual Reality)、AR (Augmented Reality)などいろいろある。これらについても、過去のバズワード同様、「本物」の他に「もどき」が多数現れるだろう。クラウド同様、「もどき」に騙されないよう、ご用心、ご用心。

[関連記事]

(1) "Press Releases - Companies Becoming More Measured in Use of Cloud Computing Options, New CompTIA Study Finds", Sep. 27, 2016, CompTIA
(2) "Trends in Cloud Computing", CompTIA
(3) 酒井 寿紀、「クラウド』と聞いたら眉に唾を!」、OHM、2010年5月号、オーム社
(4) "The NIST Definition of Cloud Computing", NIST
(5) 酒井 寿紀、「米国政府のクラウドへの取り組み」、OHM、2011年1月号、オーム社

2016年10月29日土曜日

やっと日本でもビットコインの扱いが明確に!?

 
ビットコインが消費税非課税に!

2016年10月12日の日経新聞によると、財務省と金融庁はビットコインの売買に消費税を課税しない方向で調整に入ったという。年末の自民党の税制調査会で正式に決定するそうだ(1)。

税制上、ビットコインを含めた仮想通貨を「モノ」とみなすか「通貨」の一種とみなすかが世界中で議論されてきたが、日本政府は従来「モノ」とみなしてきた。そのため、明文化されていたわけではないが、その売買には消費税が課税されるというのが、税理士などの一般的な見解だった。

しかし、仮想通貨はもともと現在の通貨の代替え手段として考案されたものなので、 これを「モノ」とみなすのには無理があることを、小生は前から指摘していた(2)。その後、諸外国では「通貨」としての扱いが広がり、上記記事によると、現在G7でビットコインに消費税を課しているのは日本だけということだ。

金融国際化の時代に、日本だけ別の道を歩むことはデメリットが大きい。そういう意味で、今回の政府の方向転換は好ましいことだ。しかし、日本はどうしてこんなに時間がかかってしまったのだろうか? 日本の問題を前にも指摘したが、再度振り返ってみよう(2)。
  
トップの認識の差

日本が諸外国に対して法的整備が遅れた原因の一つは、金融・財政のトップの認識の差にあると思う。

前にも指摘したように、2013年に、当時の米国のFRBのバーナンキ議長は、「仮想通貨は将来、迅速で、安全で、効率のよい決済手段を提供するようになる可能性がある」と述べ(2)。

一方、日本では2014年初めにビットコインの取扱機関であるマウント・ゴックスが破綻した際、麻生太郎財務相・金融相は、「こんなものは長く続かないと思っていた。どこかで破綻すると思っていた」と述べた(3)。

また同氏は、2016年2月5日の衆議院予算委員会で、秋元司議員の「日本だけが今、仮想通貨の交換に対して消費税がかかっている。・・・そろそろ日本も世界の潮流に合わせて消費税をかけない、非課税にする、この措置はいかがなものでしょうか」という質問に対して、「まだ日本だけがということではない・・・(安全面などの)点も十分に勘案したで必要な環境整備を進めてまいりたいと考えております」と答弁している。具体的方向性については何も触れてない(4)。

欧米では、トップが方向を示し、それに従って下が動く。それに対し、日本のトップは、調整役としては秀でているかもしれないが、明日の社会について明確なビジョンを持っている人は少ないようだ。ビジョンがなければ、君臨はできても、自ら社会を変えていくのは難しい。
  
まだ鎖国中?
 
日本が遅れたもう一つの原因は、日本の金融・財政関係者がビットコインについての諸外国の動きを把握してないように思われることである。

2014年3月5日の日経新聞の1面に、「政府が取引ルールを示すのは主要国で(日本が)初めて」とあったのであきれたことがある。確かに当時はまだ各国政府とも試行錯誤中で、国によりまちまちだったが、2013年頃から次々と方針を打ち出していた。この記事の情報を流した人も書いた人もこういう状況を知らなかったのだろうか(5)?

こういう鎖国時代のような状況では、激変する世界にまともな対応ができるわけがない。
  
キャピタルゲインの扱い等も明確化要 

今回の記事が取り上げているのは消費税だけだ。しかし、税制上の明確化が必要なのは、仮想通貨のキャピタルゲインに対する課税などもある。 

仮想通貨を安心して取引に使えるように、税制全般にわたる扱いを明確にする必要がある。

[関連記事]

(1) 「ビットコイン 通貨と同じ位置づけに」、日本経済新聞、2016年10月12日
(2) 酒井 寿紀、「続:成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年5月号、オーム社 
(3) 「ビットコイン破綻すると思っていた』」、朝日新聞、2014年2月28日夕刊
(4) 「第190回国会 予算委員会会議録 第8号、衆議院、2016年2月5日
(5) 「仮想通貨に取引指針」、日本経済新聞、2014年3月5日  

 

2016年10月21日金曜日

NHK、電子書籍を抹殺!?


最近の人は本を読まなくなった

本日(2016年10月21日)の朝7時台のニュースで、NHKの総合テレビが最近の読書の傾向を取り上げていた。

先ず、数人の学生を集めてインタビューしていたが、ものを調べる時はインターネットを利用することが多く、本で調べることは少ないとのことだった。辞書、百科事典、旅行案内、園芸など、何でもウェブで調べられる時代になったので、これは当然だろう。

そして、本を読まなくなったのは嘆かわしいことだと、対策に乗り出した企業や学校の事例を紹介していた。立派な図書室を整備して、その利用を奨励し、利用した人を記録して評価するようにしているという。

しかし、この約10分間ほどの報道で、「電子書籍」という言葉は1回も出てこなかった。これを非常に奇異に感じたのは私だけだろうか?

本には2種類ある

本には「調べる本」と「読む本」があるように思う。

辞書や百科事典、年鑑や図鑑、旅行案内、料理や園芸などのハウツーもの、病気の対処法などは「調べる本」だ。必要な時に必要な個所だけ読めばよい。現在はほとんどの情報がウェブで公開されているので、本を買う必要は激減した。

一方、小説や政治・経済・社会・歴史などに関する本は、通常初めから終わりまで読み通す「読む本」だ。

これらをきちんと区別しないインタビューでは実態がよく分からない。「調べる本」が利用されなくなったからといって慨嘆するのは、今や時代錯誤だ。
  
「読む本」には「紙の本」の他に「電子書籍」が現れた

そして「読む本」には、近年、従来からの「紙の本」に加えて「電子書籍」が現れた。

この「電子書籍」のインタビューでの扱いがはっきりしない。聞く方も答える方もあまり意識してないのかも知れない。

しかし、「紙の本」も「電子書籍」も、提供媒体が違うだけで内容は同じなので、本を読むことに違いはない。本が読まれなくなったことを嘆くなら、これら両方を合わせたものについて論ずる必要がある。

「紙の本」がいくら減っても、その分「電子書籍」が増えているなら、まったく問題ないはずだ。紹介された企業や学校の実態は不明だが、「紙の本」の利用促進の代わりに「電子書籍」の利用を促進してもいいわけだ。
  
政府や報道機関は「電子書籍」の普及に力を入れるべき

「電子書籍」に対する、出版社、取次店、書店、印刷・製本業者などの抵抗は強烈なようだ。これらの事業者は「紙の本」でメシを食ってきたので、「電子書籍」に抵抗するのはある意味で当たり前だ。

しかし、利用者の立場に立つと、「電子書籍」のメリットは非常に大きい。
(1) 「紙の本」より安い。古今東西の古典が無料で読める。
(2) 保管スペースが要らない。
(3) スマートフォンさえあれば、世界中どこにいても続きを読める。 
(4) 分からない言葉、知りたい関連事項などを即座にウェブで調べられる。

したがって、「紙の本」と利害関係が薄い政府、報道機関などはもっと「電子書籍」の普及に力を入れるべきだ。そうしないと、日本は他の国に負けてしまう。

2016年9月23日金曜日

アップルが日本のガラパゴス化を助長!?


アップルがFeliCaをサポート!

今月(2016年9月)、アップルがスマートフォンの新製品「iPhone 7」を発表した。他国向けと違い、日本向けのiPhone 7だけは、JRの乗車券などに使われているFeliCaをサポートするという。

電車やバスに乗るにも、買い物をするにもFeliCaを愛用している「おサイフケータイ」のヘビーユーザーは、今後iPhoneでも、おサイフケータイと同じことができるようになると喜んでいるようだ。しかし、これを手放しで喜んでいいのだろうか?

しかし、どうして日本向けだけ違うものになったのだろうか? 歴史を振り返ってみよう。
  
どうして日本だけ別仕様に

ICカードに書かれている情報を、離れたところにあるリーダ/ライタから読み書きする技術が1990年代から検討されてきた。その技術にもいろいろあるが、概ね10cm以下の距離で使われるものは近接型通信(Near Field Communication)と呼ばれている。

このNFCに使われる規格が、不幸にして海外と日本で違うものになってしまった。

日本では、ソニーが開発したFeliCaが普及し、JR東日本のSuicaを始め、全国の交通機関で使われている。そして、SuicaなどのICカードで、コンビニ、スーパー、自販機などで買い物もできるようになった。またセブン&アイ・ホールディングスなど、多くの小売業者も、同じ規格のプリペイド・カードを発行している。

一方海外では、ISO/IEC 14443 Type A/Bという別の規格が国際標準になり、ロンドンの地下鉄などで使われている。また、VisaやMasterCardなどのクレジットカードの大手が、同じ規格のポストペイド・カードを発行している。

FeliCaもType A/Bも同じ周波数の電波を使い、似ている点が多いが、FeliCaはラッシュアワーの改札口でも問題なく使えるよう、処理時間が短い。 

こういう状況の下で、NFCが携帯電話やスマートフォンでも使えるようになった。日本では「おサイフケータイ」がFeliCaのICカードの代わりに使えるようになり、海外では、NFC機能付きのスマートフォンがType A/Bのカードの代わりに使えるようになった。

こうして、日本と海外では、ICカードでもスマートフォンでも、別の規格が使われるようになってしまった。

日本にも、Type A/Bが使える小売店が若干あるようだが、その数はまだ少ないようだ。そのため、スマートフォンでFeliCaが使えないと、FeliCaをサポートしているサムスン、ソニーなどに日本の市場を取られてしまう恐れがある。これがアップルが日本でだけFeliCaをサポートするように理由だと思われる

ユーザーにとって望ましい姿は?

アップルの今回の選択は、日本での当面のシェアを維持するためにはやむを得ないものだったかもしれない。だが、ユーザーにとっては、本来どういう姿が望ましいのだろうか?

来日する外国人にとっては、自国で使っているスマートフォンなどの端末をそのまま日本に持ってくれば、 電車やバスに乗ったり、買い物をしたりできれば便利だ。クレジットカードを1枚持っていれば、全世界で買い物ができるのと同じである

来日外国人が、2015年に初めて年間2,000万人を超え、その数は2020年の東京オリンピックに向かってさらに増えると思われる。積極的に来日外国人の数を増やして、インバウンド消費の増大を図ることが、日本の経済の発展ためにも重要である。

海外に出かける日本人にとっても、日本で使っている端末を持って行けば、全世界の交通機関や商店で使えることが望まれる。交通機関では困難だと思うかも知れないが、Type A/Bに対応するスマートフォンを持って行ったら、ロンドンのバスに問題なく乗れたという報告もある(1)。 

国内・海外共通化の可能性は? 

上記のような望ましい姿を実現するためには、全世界でNFCの規格が統一されていればよい。しかし、現状ではその実現は困難だ。日本の交通機関のNFCをType A/Bに変更することも、VisaやMasterCardのNFCをFeliCaに変更することも、もはやできないだろう。

だとすれば、端末もリーダ/ライタも、Type A/BにもFeliCaにも対応できるようにするしか解決策はない。これは技術的に可能だろうか?

iPhone 7を分解調査した報告によると、それに使われているNXP製のNFC制御用半導体は日本向けも他国向けも同じで、Type A/BとFeliCaの両方の機能を持っているという。どっちの機能を使うかは、ソフトで切り替えているのだそうだ(2)。

また、Type A/B、FeliCa両方に対応するリーダ/ライタをパナソニックやソニーなどが既に販売している。

このように、Type A/BでもFeliCaでも使える機器は既に揃っていて、あとはビジネス上の判断だけなのだ。
  
今後の期待

上記のように、技術的な準備はできているので、日本でも早くType A/B、FeliCa両方に対応するリーダ/ライタが小売店の店頭に設置されることが期待される。

そうすれば、来日外国人は自国で使っているNFC端末を使って買い物ができる。

プリペイド方式を使う時は、買い物をする時点で、日本の携帯電話回線経由でインターネットに接続されてなくても、後刻Wi-Fi経由などでインターネットにつないだときにチャージできればよい。

外国人の客が多い店舗やレストランにとっては、Type A/Bも扱えるリーダ/ライタを用意することが、近い将来必須になるだろう。

また、日本人にとっても、普通のクレジットカードを使う時と同じように、日本でも海外でも、VisaやMasterCardのNFCで支払いができるようになる。日本でしか通用しないFeliCaのクレジットカードの普及には限界があるだろう。

こういう将来を予想する時、アップルの今回の発表はどういう意味を持つのだろうか?

確かに、日本の現状を見ると、iPhoneでのFeliCaのサポートはやむを得ない判断だと思われる。しかしこれは、日本でのType A/Bのリーダ/ライタの普及を遅らせ、Type A/Bのクレジットカードの普及を遅らせる可能性がある。そして、来日外国人や頻繁に海外に出かける日本人にとって不便な状態を長引かせる恐れがある。

ひと言でいえば、アップルの今回の選択は、NFCについての日本のガラパゴス状態を長引かせることになりかねない。

アップルも状況が変われば対応を変えるだろう。その時には、日本向けのiPhoneはType A/BとFeliCaの両方に対応するようになるだろう。iPhone 7のハードウェアは、元々それが可能な作りになっているからだ。

[関連記事]

(1)  「ロンドンバスが「payWave/PayPass」でも乗車可能に!」、日経メッセ、2013年11月22日

(2) 「iPhone7のNFCチップは海外版も日本版と同じFeliCa対応と判明!」、iPhone Mania、2016年9月19日

2016年8月26日金曜日

モバイル端末のセキュリティにご用心!


身に覚えのない「送信不能」メールが2,000件

本年(2016年)6月、2日半にわたって、小生のメールアドレスに約2,000件の「送信不能」のメールが届いた。インターネットのメールシステムが発信した、小生のメールアドレスから送信されたメールの宛先が存在しない」というメールである。ひどい時には、1時間に70通以上も届いた。

小生が送ったと称するメールはみな英文で、「私はカワイイ女の子。今晩一人で寂しいのでお話しましょ。この電話番号にメッセージをチョーダイ。私のヌード写真を送ってあげるよ」などというようなものばかりだ。送信先は、アメリカ、フランス、イギリス、台湾など、世界中に広がっている。送信元がどこかは分からないが、崩れた英語の調子や、「電話チョーダイ」という電話番号の国番号やエリアコードから米国と思われる。

宛先が存在しないというメールだけで約2,000件あったのだから、宛先が存在してちゃんと相手に届いたメールは1~2万件あったのではなかろうか?

パスワードが盗まれた?

他人のメールアドレスを勝手に使ってメールを送信する方法には2種類ある。

一つは、他人のメールアドレスの送信サーバのパスワードを盗んで、勝手にメールを送信するものだ。いわば、送信サーバの乗っ取りである。

もう一つは、他人のメールアドレスを使って、別の送信サーバから送信するものだ。

今回の場合は、小生が使っているメールサーバの運営事業者に確認したところ、送信サーバが使われた痕跡があるというので、前者、つまりパスワードが盗まれ、送信サーバが乗っ取られたのだ。これはパスワードを変更した途端「送信不能」メールの受信がピタッと止まったことで確かめられた。

タブレットが怪しい?

では、どこからパスワードが盗まれたのだろうか?

小生がメールに使っている機器は5台ある。

バックアップ用の旧機種も含めて3台のパソコンを使っているが、これにはセキュリティ・ソフトが入っていて、ここから盗まれる可能性は低い。

スマートフォンにも無料のセキュリティ・ソフトが入っている。

ところが、タブレットにはセキュリティ・ソフトを入れてなかった。これは、タブレットで使える無料のセキュリティ・ソフトがなかったためと、モバイル端末では銀行や証券会社との取引、オンライン・ショッピングなどをしないことにしていて、これらに必要なパスワードを入れてなかったためである。

したがって、送信サーバのパスワードはタブレットから漏れた可能性が一番高いと思っている。

当たり前のことだが、カネが絡む処理は一切しなくても、メールを使えば、メールサーバのパスワードが入れてある。ガードしてなければ、これは盗まれる可能性がある。

こうして、うかつにも世界中の人にスパムメールをバラまくのを手助けしてしまったようだ。

モバイル端末のセキュリティにご用心!

現在、 スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末で、銀行や証券会社との取引、オンライン・ショッピングなどを行っている人は多い。その場合、モバイル端末にもパソコンと同等のセキュリティ対策が要求される。

いや、モバイル端末は盗難・置き忘れなどのリスクが高いので、要求されるセキュリティ対策はパソコン以上である。

2016年8月4日木曜日

「格安スマホ」を使ってみて・・・従来が「格高スマホ」!?


フアウェイ(華為)のスマートフォンを購入

女房が、娘や孫と「LINE」をやりたいと言うので、スマートフォンを買ってあげることにした。買ってあげると言っても、技術的なことはまったく「分からんチン」なので、全部小生がお膳立てをすることになる。女房は出てきたものをただ食べるだけだ。手間はかかるが、女房のボケ防止には少しは役立つかも知れない。

わが家では、光回線も、インターネット接続も、レンタルサーバもNTTコムを使っているので、スマートフォンの回線は同社がNTTドコモから回線を借りて提供しているMVNOを使うことにした。料金はデータ量によって違うが、3GB/月までで1,800円/月(税抜)だという。同社の光回線を使っているとさらに200円/月の割引があるそうだ。

小生が入院中にスマートフォンのYouTubeで落語を聴いていた時も、1週間で1GBもいかなかったように記憶しているので、毎月これだけ使えれば女房には十分だろう。

端末はフアウェイ(華為)社のHuawei Y6にした。Androidの世界では韓国のサムスンに次いで世界第2位の生産量に達している中国の新興企業だ。 ちなみに、同社を日本で「ファーウェイ」と書いている記事があるが、カナ表記としてあまり適当ではない。「フアウェイ」の方がより原音に近い。

価格は13,800円(税抜)だった。さらに2,000円値引いた時期もあったらしいが、残念ながら時期を逸したようだ。機能には制約があるようだが、女房には十分だろう。

内蔵のSDメモリが8GBだけなので、16GBのSDカードを買って増設した。こうしておけば写真や楽曲を相当入れても問題ないだろう

16GBのSDカードをamazonのサイトで捜したがなかなか見つからない。現在はもっと大容量のものが主流だ。容量は大きくてもいいのだが、ビデオでも大量に入れない限りそんなには必要ない。

やっと16GBのSDカードを500円台で売っている店を見つけて買った。昔の値段を知っている者にとっては、驚異的な安値だ。半導体と、それと競合するディスクのビジネスに従事している人達は大変だろう。 

ショップが使えない!

スマートフォンの設定は結構手間がかかるが、MVNOが扱っている「格安スマホ」となると、MVNO業者、そこに回線を卸しているキャリア、端末のメーカーとその販売店が絡むので、なおさらだ。その上、今まで使っていた電話番号を継続して使用するMNPを使おうとすると、従来のキャリアまで絡んでくる。

しかもMVNO業者や格安スマホのメーカーはろくに説明書を用意してなく、詳細はウェブで調べるようになっている。パソコンがない人には大変だろう。

MVNOにはショップがない代わりに、コールセンタには力を入れているようだ。しかし、コールセンタには電話がなかなかつながらず、また、コールセンタを効率よく使うためには、利用者にもある程度の知識が要求される。キャリアのショップのように端末を持参すれば何でもやってくれるというわけにはいかない。 

今まで、街を歩くと立派な店舗を構えたキャリアのショップが数多くあり、来客で混んでいた。こうしたショップの維持費はすべて携帯電話やスマートフォンの利用者が間接的に負担していたわけだ。従って、ショップの無料サービスをあまり利用しない人にとっては、通信費や端末代が割高になっていたわけだ。 

spモードメールがなくなった!

女房は従来、携帯電話で「iモードメール」という「@docomo.ne.jp」のメールアドレスで送受信するメールを使っていた。 小生は「iモードメール」は使っていなかったが、小生が使っているスマートフォンでは、「@docomo.ne.jp」のメールを引き続き「spモードメール」という名前で使えるようになっている。

事前にろくに調べもせず、同じことが今回のスマートフォンでもできるのだろうと思っていた。ところがドコモは最近メールをガラッと変えたことを知って驚いた。これはMVNOに限らず、ドコモが直接提供している回線でも同じである。

最近のスマートフォンでは、「spモードメール」ではなく「ドコモメール」を使うようになっているという。これは従来と同じ「@docomo.ne.jp」のアドレスでメールを送受信できるが、大きな違いは、Gmailなどと同じクラウド型で、ドコモのセンタにメールボックスやアドレスの台帳がある。

そのため、スマートフォン、タブレット、パソコンなど、どの端末からでもメールの送受信ができる。では、ドコモの回線を全く使ってなくても「ドコモメール」が使えるかというと、少なくとも1台はドコモの回線を使っていないと、このメールは使えない仕掛けになっている。

どうせクラウド型メールに移行するなら、全世界で膨大な実績があり、将来他の回線や端末に移行する時も最も問題が少ないと思われるGmailに移行することにした。

アドレス帳/電話帳の移行は、ドコモショップのツールを使えばある程度自動でできたのかも知れないが、古くなったデータの大掃除を兼ねて、人手でGoogleのアドレス帳/電話帳に移した。

こうして、メールについてはドコモと縁が切れた。

メールはネットワーク上の一つのアプリケーションだ。アプリケーションを選ぶときは、できるだけネットワーク・インフラから独立したものを選ぶべきだ。その方が、将来ネットワーク・インフラを切り替える時の自由度が増す。

デファクト・スタンダード製品が世界の主流!

日本で開発・生産されているスマートフォンには「ワンセグ」や「おサイフケータイ」の機能があるものが多い。アップルやサムスンなど海外の製品には元々これらの機能がないが、日本の市場向けにこれらの機能を追加したものもある。

小生が使っているサムスンのスマートフォンにも「ワンセグ」が付いているが、画質が悪くほとんど観ていない。先日相撲の千秋楽の結びの一番を近所のアイスクリーム屋で観たぐらいだ。いっしょにいたアメリカ人がこの映像はどうやって届くのだと興味津々だった。「ワンセグ」は見たことも聞いたこともないようだった。

 「ワンセグ」は最近「フルセグ」として画質を向上させようしている。しかし、テレビ映像のインターネット配信も始まっているので、こういう形での配信に将来性はあるのだろうか?

 「おサイフケータイ」は、他の国ではNFC (Near Field Communication)という別の仕様でスマートフォンに取り込まれている。日本では「おサイフケータイ」をNFCに統合させよとしているが、全世界で受け入れられるかどうかはこれからの問題である。

 フアウェイのスマートフォンには「ワンセグ」も「おサイフケータイ」もない。これが現在の全世界のスマートフォンのデファクト・スタンダードなのだ。

日本の企業は、これらの機能を追加して、海外製品に対する差別化に力を入れてきた。しかし、世界の10分の1に届かない市場だけを対象にした製品が、全世界を対象にしている製品と競争するのは難しい。追加機能を設けるなら、全世界に通用するものでなければならない。

従来が「格高スマホ」!?

上記のように、「格安スマホ」が安い理由は、
 (1) ショップがないこと。
 (2) 全世界のデファクト・スタンダードによっていること。
が大きいように思う。

今後はこれがスマートフォンの主流になっていくものと思われる。その時には「格安スマホ」は死語になり、従来のスマートフォンは歴史の一時期に存在した「格高スマホ」になるのではなかろうか?
 

2016年3月2日水曜日

仮想通貨が「モノ」から「通貨」に!?


「モノ」か、「通貨」か?

ビットコインに代表される仮想通貨については、これを貴金属や宝石のような「モノ」の一種として扱うべきか、それとも、円やドルのような「通貨」の一種として扱うべきかという議論が続いてきた。

「モノ」として扱えば、その売買は一般の商品の売買と同じように、消費税や付加価値税などの課税対象になる。一方、「通貨」として扱えば、こういう税金はかからないが、キャピタルゲイン課税対象になる可能性がある。こうして「モノ」か「通貨」かで、税金上の扱いが変わり、管轄する政府機関も変わってくる。

仮想通貨は、そもそも現行通貨の代替品として考案されたものなので、これを「モノ」として扱うには無理があることを前に記した(1)。しかし、日本などの政府は、これを「通貨」の一種として認めることをかたくなに拒んできた。こんな得体の知れないものに金融行政をかき回されることを是非とも避けたいと思ったからだろう。

しかし最近、金融庁は従来のスタンスを変更した。 

金融庁がスタンスを変更 

金融庁の金融審議会が2015年12月に発表した報告書によると、同庁は、今後仮想通貨を通貨の一種として扱い、金融行政の規制の対象にするという(2)。

具体的には、仮想通貨と通常の通貨の交換を行う取引所を登録制にし、取引所には、利用者の本人確認、取引記録の作成と保存、疑わしい取引の当局への届出などを義務付けるということだ。

2016年の通常国会に資金決済法の改正案を提出し、成立を目指すということである。 

外圧が決め手?

金融庁、2014年にビットコインの取引所であるマウントゴックスの不正が露見した際も、仮想通貨の規制を強化する動きを見せなかった。にもかかわらず、今回規制強化を推進しようとしているのはなぜだろうか?

1989年のG7サミットでFATF (Financial Action Task Force)という機関が設立され、麻薬犯罪組織によるマネーロンダリングやテロ組織による資金集めを阻止する活動をしている。このFATFが2014年6月に、仮想通貨がマネーロンダリングやテロ組織の資金集めに利用される恐れがあると警告を発した(3)。

それを踏まえて、2015年6月ドイツで開催されたG7サミットで、仮想通貨の規制強化によってテロリストへの資金供給の遮断を図る必要があるという首脳宣言が出された(4)。

金融庁が、今回、従来あまり積極的ではなかった仮想通貨の「通貨」としての規制強化に乗り出したのには、この安倍首相も出席したサミットの決議が大きく影響したのではないかと思われる。

日本政府の方針が外圧によって大きく変わるのは、幕末に黒船の来航で開国が進んだ時代からあまり変わってないようだ。 

「モノ」としての扱いも継続? 

こうして日本でも仮想通貨が通貨の一種として扱われるようになるようだ。しかし2016年2月29日の日経新聞によると、仮想通貨の売買に「モノ」として消費税が課税されるのは従来のままだという(5)。

通貨の一種として扱うということは、日本円の世界から見れば、仮想通貨を外貨の一つと見るということだ。したがって、仮想通貨の売買に消費税を課税するということは、外貨の売買に消費税を課税するということになる。これは明らかにおかしい。

国税庁は、税金が取れるものには何でも課税して、税収を確保するのが仕事かもしれないが、より高い財政・金融行政全体の見地から判断する必要がある
 
現在の日本には根本的に欠けているものがあるようだ。

将来の望ましい姿の考察を!

小生が2年前に執筆した記事で、米国のバーナンキ前FRB議長の、「仮想通貨は将来、迅速で、安全で、効率のよい決済手段を提供するようになる可能性がある」という見解を紹介した(1)。

また同記事で、米国のカーパー上院議員の、「過剰な規制によって、ゆりかごの中の赤ん坊を殺すようなことをしてはならない」という意見にも触れた(1)。

一方、マウントゴックスの破綻に際し、意見を求められた麻生太郎財務大臣は、「こんなものは長く続かないと思っていた。どこかで破綻すると思っていた」と述べたという(6)。

仮想通貨は、従来なかったまったく新しい決済手段の可能性を提示した。そのため、これを含めた財政・金融の将来の望ましい姿を真剣に考察する必要がある。

もちろん、現在いくつかの国が行っているように、「全面禁止」も選択肢の一つである。しかし、徴税機関などの一組織にすべての判断をゆだねていい話ではない。

日本では、バーナンキ前議長やカーパー議員のような話がさっぱり聞こえてこないことを非常に残念に思う。

(1) 酒井 寿紀、「続:成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年5月号、オーム社
(2) 金融審議会、決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告」、2015年12月22日、金融庁 
(3)  FATF, "Guidance for a Risk-Based Approach  Virtual Currencies", June 2015
(4) 「2015 G7エルマウ・サミット首脳宣言(仮訳)」、2015年6月8日、外務省
(5) 「ビットコイン非課税化の議論 税収か国際競争力か」、2016年2月29日、日本経済新聞
(6) 「ビットコイン「破綻すると思っていた」 麻生財務相」、2014年2月28日(夕刊)、朝日新聞 

ビットコインを中心とする仮想通貨全般の現状や問題点については下記もご参照下さい。

(7) 酒井 寿紀、成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年4月号、オーム社
(8) 酒井 寿紀、続々:成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年6月号、オーム社

2016年2月4日木曜日

「AI(人工知能)は人間を超えるか?」のご紹介

(株)エム・システム技研の「MS TODAY」2016年1月号の上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要]
コン ピュータの誕生以来AIは進歩を続け、最近ではチェスや将棋の名人を破ったり、クイズ番組で賞金王を破ったりしている。今後もAIの進歩は続くだろう。しかし、近い将来にAIの能力が人間を超える「特異点」が来て、社会に混乱をもたらすという予想は当たるだろうか?
--->全文を読む