2016年9月23日金曜日

アップルが日本のガラパゴス化を助長!?


アップルがFeliCaをサポート!

今月(2016年9月)、アップルがスマートフォンの新製品「iPhone 7」を発表した。他国向けと違い、日本向けのiPhone 7だけは、JRの乗車券などに使われているFeliCaをサポートするという。

電車やバスに乗るにも、買い物をするにもFeliCaを愛用している「おサイフケータイ」のヘビーユーザーは、今後iPhoneでも、おサイフケータイと同じことができるようになると喜んでいるようだ。しかし、これを手放しで喜んでいいのだろうか?

しかし、どうして日本向けだけ違うものになったのだろうか? 歴史を振り返ってみよう。
  
どうして日本だけ別仕様に

ICカードに書かれている情報を、離れたところにあるリーダ/ライタから読み書きする技術が1990年代から検討されてきた。その技術にもいろいろあるが、概ね10cm以下の距離で使われるものは近接型通信(Near Field Communication)と呼ばれている。

このNFCに使われる規格が、不幸にして海外と日本で違うものになってしまった。

日本では、ソニーが開発したFeliCaが普及し、JR東日本のSuicaを始め、全国の交通機関で使われている。そして、SuicaなどのICカードで、コンビニ、スーパー、自販機などで買い物もできるようになった。またセブン&アイ・ホールディングスなど、多くの小売業者も、同じ規格のプリペイド・カードを発行している。

一方海外では、ISO/IEC 14443 Type A/Bという別の規格が国際標準になり、ロンドンの地下鉄などで使われている。また、VisaやMasterCardなどのクレジットカードの大手が、同じ規格のポストペイド・カードを発行している。

FeliCaもType A/Bも同じ周波数の電波を使い、似ている点が多いが、FeliCaはラッシュアワーの改札口でも問題なく使えるよう、処理時間が短い。 

こういう状況の下で、NFCが携帯電話やスマートフォンでも使えるようになった。日本では「おサイフケータイ」がFeliCaのICカードの代わりに使えるようになり、海外では、NFC機能付きのスマートフォンがType A/Bのカードの代わりに使えるようになった。

こうして、日本と海外では、ICカードでもスマートフォンでも、別の規格が使われるようになってしまった。

日本にも、Type A/Bが使える小売店が若干あるようだが、その数はまだ少ないようだ。そのため、スマートフォンでFeliCaが使えないと、FeliCaをサポートしているサムスン、ソニーなどに日本の市場を取られてしまう恐れがある。これがアップルが日本でだけFeliCaをサポートするように理由だと思われる

ユーザーにとって望ましい姿は?

アップルの今回の選択は、日本での当面のシェアを維持するためにはやむを得ないものだったかもしれない。だが、ユーザーにとっては、本来どういう姿が望ましいのだろうか?

来日する外国人にとっては、自国で使っているスマートフォンなどの端末をそのまま日本に持ってくれば、 電車やバスに乗ったり、買い物をしたりできれば便利だ。クレジットカードを1枚持っていれば、全世界で買い物ができるのと同じである

来日外国人が、2015年に初めて年間2,000万人を超え、その数は2020年の東京オリンピックに向かってさらに増えると思われる。積極的に来日外国人の数を増やして、インバウンド消費の増大を図ることが、日本の経済の発展ためにも重要である。

海外に出かける日本人にとっても、日本で使っている端末を持って行けば、全世界の交通機関や商店で使えることが望まれる。交通機関では困難だと思うかも知れないが、Type A/Bに対応するスマートフォンを持って行ったら、ロンドンのバスに問題なく乗れたという報告もある(1)。 

国内・海外共通化の可能性は? 

上記のような望ましい姿を実現するためには、全世界でNFCの規格が統一されていればよい。しかし、現状ではその実現は困難だ。日本の交通機関のNFCをType A/Bに変更することも、VisaやMasterCardのNFCをFeliCaに変更することも、もはやできないだろう。

だとすれば、端末もリーダ/ライタも、Type A/BにもFeliCaにも対応できるようにするしか解決策はない。これは技術的に可能だろうか?

iPhone 7を分解調査した報告によると、それに使われているNXP製のNFC制御用半導体は日本向けも他国向けも同じで、Type A/BとFeliCaの両方の機能を持っているという。どっちの機能を使うかは、ソフトで切り替えているのだそうだ(2)。

また、Type A/B、FeliCa両方に対応するリーダ/ライタをパナソニックやソニーなどが既に販売している。

このように、Type A/BでもFeliCaでも使える機器は既に揃っていて、あとはビジネス上の判断だけなのだ。
  
今後の期待

上記のように、技術的な準備はできているので、日本でも早くType A/B、FeliCa両方に対応するリーダ/ライタが小売店の店頭に設置されることが期待される。

そうすれば、来日外国人は自国で使っているNFC端末を使って買い物ができる。

プリペイド方式を使う時は、買い物をする時点で、日本の携帯電話回線経由でインターネットに接続されてなくても、後刻Wi-Fi経由などでインターネットにつないだときにチャージできればよい。

外国人の客が多い店舗やレストランにとっては、Type A/Bも扱えるリーダ/ライタを用意することが、近い将来必須になるだろう。

また、日本人にとっても、普通のクレジットカードを使う時と同じように、日本でも海外でも、VisaやMasterCardのNFCで支払いができるようになる。日本でしか通用しないFeliCaのクレジットカードの普及には限界があるだろう。

こういう将来を予想する時、アップルの今回の発表はどういう意味を持つのだろうか?

確かに、日本の現状を見ると、iPhoneでのFeliCaのサポートはやむを得ない判断だと思われる。しかしこれは、日本でのType A/Bのリーダ/ライタの普及を遅らせ、Type A/Bのクレジットカードの普及を遅らせる可能性がある。そして、来日外国人や頻繁に海外に出かける日本人にとって不便な状態を長引かせる恐れがある。

ひと言でいえば、アップルの今回の選択は、NFCについての日本のガラパゴス状態を長引かせることになりかねない。

アップルも状況が変われば対応を変えるだろう。その時には、日本向けのiPhoneはType A/BとFeliCaの両方に対応するようになるだろう。iPhone 7のハードウェアは、元々それが可能な作りになっているからだ。

[関連記事]

(1)  「ロンドンバスが「payWave/PayPass」でも乗車可能に!」、日経メッセ、2013年11月22日

(2) 「iPhone7のNFCチップは海外版も日本版と同じFeliCa対応と判明!」、iPhone Mania、2016年9月19日