2010年3月31日水曜日

「Androidがスマートフォンの市場を席巻!?」のご紹介

「OHM」2010年3月号に掲載された上記の記事が小生の運営するウェブサイトに再録されました。

[概要] グーグルのOSであるAndroidを採用したスマートフォンが続々と登場している。その理由としては、誰でも自由にハードウェアを作れること、OSを自由に変更できることなどがある。スマートフォンの市場でのAndroidのシェアは大きくなると思われるが、Androidにも問題はありそうだ。―――>全文を読む

(注) 本記事は本ブログの「Androidがスマートフォンの市場を席巻!?」(2010/1/6)をベースにしたものです。

2010年3月16日火曜日

ウィルコム再生計画の疑問点


2社に分割して対応

PHSの通信事業者であるウィルコムは、「PHSはどうなる?」 (2009/11/12)に記したように、昨年夏以来経営苦境に陥っていた。そして今年1月には、「ソフトバンクがウィルコムを獲得!?」 (2010/1/18)に記したように、ソフトバンクが支援に乗り出すと一部で報道された。

この3月12日に、ウィルコム、アドバンテッジパートナーズ、ソフトバンクが連名で、ウィルコムの再生計画を正式に発表した。(1) この計画の関係者の調整に当たった企業再生支援機構も、同日、同機構による支援の顛末を発表した。(2)

発表によると、次世代PHS (XGP)は、ソフトバンク、アドバンテッジパートナーズ、その他の企業が出資する新会社に移管することになったという。ウィルコムは現行のPHS事業に専念することになる。

アドバンテッジパートナーズはウィルコムにも出資するが、ソフトバンクはウィルコムには出資しない。つまり、ウィルコムは新会社ともソフトバンクとも資本関係を持たない。

ウィルコムでは従来、現在のPHSの基地局をXGPにも活用するとともに、現PHSのユーザーをXGPで引き継ぐことを計画していた。この従来の計画は、PHSとXGPを資本関係がない別会社が担当することになるとどうなるのだろうか?

PHSのユーザーをどうするつもり?

PHSのユーザーを取りこぼしなくXGPに移行させるには、XGPの展開と歩調を合わせてPHSの新サービスを計画的に縮小する必要がある。また、端末機器やアプリケーション・ソフトのベンダーにも両者の並行サポート期間を経て、順次XGPに力を注いでもらわなければならない。これらのPHS、XGP間の調整は、両者が別会社では極めて困難になる。

企業再生支援機構の発表資料には、「PHS事業については・・・3G MVNO回線(他キャリア回線活用)への切替促進等によって顧客基盤の維持・促進を図る」とある。(2) また、同機構は記者会見で、「XGPなしでもウィルコムが再生できるか?」との質問に対して、「XGPがなければウィルコムは再生しないというわけではない」と答えている。(3)

これらの点から同機構は、現在のPHSのユーザーをXGPに移行させる必要性をあまり感じてないようだ。しかし、他の携帯電話の回線を使ったMVNOでは、PHSの最大の特徴であるマイクロセルのメリットがなくなる。現在、PHSは医療機関などで広く使われているが、これはマイクロセルの特長である電磁波の弱さを生かしたものだ。したがって、他の回線を使ったMVNOでは、現在のPHSの市場を引き継ぐのは困難になる。

XGPはどうなる?

企業再生支援機構は、事業再生計画の説明で、PHS事業について5行にわたって説明した後、XGP事業については、「他方、XGP事業は、スポンサーが出資する新会社に移管する予定である」と1行だけだ。(2)

そして、同機構は記者会見で、XGPの免許を返上するという選択肢が採られなかった理由として、「ソフトバンクの関心が高かった。わざわざ返上するよりも続けてもらう方がいいと考えた」と説明している。(3)

また、同機構がPHS事業の再生上、XGPの必要性を認めてないのは前述の通りだ。

今回の再生計画で、同機構の念頭にあるのはもっぱらPHS事業だ。同機構の立場としては当然かもしれないが、XGPについては免許返上の選択肢もあったと、はなはだ冷淡だ。XGPについてはソフトバンクなどに任せるとのスタンスである。

ではソフトバンクはどうか? 

同社は、今回の再生計画発表の取材に、XGPのサービス開始時期について、「我々だけで決められる話ではない(が、)2011年度ごろには開始したい」と言っている。(4) まだ明確な日程計画は立ってないようだ。

昨年春には、ウィルコムはXGPの商用サービスを2009年10月に開始すると言っていた。これがもし2012年3月になれば、2年半の遅れだ。ソフトバンクはXGPの推進にあまり熱意があるようには見えない。

すでに、北欧では昨年末に第4世代のLTEのサービスが始まり、今年末には日本でもNTTドコモがLTEのサービスを開始する予定だ。2012年には世界のモバイル通信の市場が大きな変化を遂げていると思われる。PHSの後継市場からも期待されなくなった現在、果たしてXGPに出番はあるのだろうか?

ソフトバンクの真の狙いは?

ソフトバンクは、今回の再生計画に乗り出した狙いは「通信基地局展開のスピードアップとコスト削減」だと言っているという。「ウィルコムが現在基地局を設置している場所にソフトバンクモバイルの基地局を設置したい。・・・ウィルコムは日本全国に約16万の基地局を設置しており、この場所を活用して通信エリアを強化したい考えだ」という。(4)

しかし、ソフトバンクの狙いは果たしてこれだけだろうか? ソフトバンクは、前述のように、XGPの推進にはあまり熱意がないように見えるが、XGP用の2.5GHzの周波数帯は喉から手が出るほど欲しいはずだ。同社は2007年にこの周波数帯の免許を総務省に申請したが、選に漏れた。それが今回図らずも手に入るのだ。

同社は、次世代のLTEを含めたサービスの拡大に、この周波数帯を活用したいと考えているのではないだろうか? 

(1) 「ウィルコムの再生支援に関する基本合意書の締結について」、2010年3月12日、ウィルコム、アドバンテッジパートナーズ、ソフトバンク
(2) 「株式会社ウィルコムに対する支援決定について」、2010年3月12日、株式会社企業再生支援機構
(3) 「ウィルコムが会社更生手続き開始、XGP事業は別会社に」、ケータイWatch、2010年3月12日、Impress Watch
(4) 「ソフトバンク、ウィルコム支援の狙いは『通信基地局展開のスピードアップとコスト削減』」、cnet Japan、2010年3月12日、朝日インタラクティブ

[後記]

上記の「同社は、次世代のLTEを含めたサービスの拡大に、この周波数帯を活用したいと考えているのではないだろうか?」との推測は、後日その通りだったことが判明した。「ソフトバンクが中国方式を採用!?」(ブログ、2010/5/3)をご参照下さい。
(12/8/12) 

2010年3月13日土曜日

グーグルと中国の対決はどこへ?

グーグル vs. 中国政府

今年1月12日、グーグルが中国政府に挑戦状をたたきつけた。

グーグルは従来、インターネットの検閲について中国政府の要求を受け入れてきた。具体的には中国での検索サイト “google.cn”の検索結果から、中国政府に指定された反政府活動などの言葉を含むサイトを除外してきた。しかし、昨年12月中旬、中国が発信源のサイバー攻撃を受けたため、今後はこの自主検閲を取りやめるという。そして、場合によっては中国の検索サイトを閉鎖し、北京の事業所も撤収するという。

これは、グーグルおよび中国にとってどういう意味があるのだろうか?

消された “Tank Man”

中国政府が流布されるのを最も忌み嫌っているインターネット情報に、例えば “Tank Man”の映像がある。

1989年6月の天安門事件の際、長安街を進む人民解放軍の戦車の隊列の前に、ただ一人徒手空拳で立ちはだかり、戦車の上によじ登ったりして、長時間にわたって戦車の進行を止めた男がいた。この男が “Tank Man”として世界的に有名になり、その英雄的行動がたたえられている。

この事件の一部始終を外国人記者が撮影した映像が、インターネットで世界中に流されている。

検索サイトの Googleで “Tank Man”を検索すると、約14万のサイトが表示される。米国の “google.com”、日本の “google.co.jp”、フランスの “google.fr”、ドイツの “google.de”など、どのサイトでも、検索に使用する言語が違うため表示される順序は違うが、ほぼ同様の検索結果が表示される。そして現在は、中国の “google.cn”でも同様に14万以上の検索結果が表示される。(3月13日現在)これは今年になってグーグルが自主検閲をやめたためだろう。

ところが、中国で最も利用率が高く、政府の検閲方針に従っているといわれる「百度(Baidu)」の中国の検索サイト “baidu.com”では、 “Tank Man”というキーワードで検索しても関連のあるサイトは1件も表示されない。同じBaiduでも日本の “baidu.jp”では、約1,520件のサイトが表示されるので、Baidu自身が “Tank Man”の情報を持っていないわけではなく、中国のサイトで検索できないのは明らかに自主検閲の結果だ。

実在した “Tank Man”が消されたのかどうかは不明だが、中国国内のインターネットからは消し去られた。

しかし、中国国内の “baidu.com”などで検索できなくしても、国外の検索サイトを使えばいくらでも検索できる。Googleでは国外のサイトでも検索画面の表示に中国語を使えるので、中国のサイトだけ検索できなくするのはほとんど無意味だ。Googleなどがやってきた自主検閲は実はあまり意味がなかったのだ。

本当に検索できなくしようとするなら、国外の検索サイトへの接続を遮断するしかない。

“Great Firewall”の現状

国外の問題サイトは何も検索サイトだけではない。BBC、CNN、New York Timesなどの報道機関のサイトも、チベットの暴動など、しばしば国民に知られたくないニュースを流す。また百科事典のサイトのWikipediaは中国の検閲の状況や人権問題を詳説した記事を掲載している。そして、Facebook、MySpaceなどのソーシャル・ネットワークのサイトはしばしば反政府運動の連絡の道具に使われる。

そのため、これらのサイトは、過去に何度もブロックされたり、一時的にそれが解除されたりしてきた。

「万里の長城(Great Wall)」に対して、これは “Great Firewall”と呼ばれている。両者とも外敵を寄せ付けないための防護壁だ。

今日現在の中国での “Great Firewall”の状況は分からないが、中国で使われている “baidu.com”で検索したところ、上記のサイトはすべて表示される。(3月13日現在)ということは、現在はこれらのサイト自身が中国で閲覧できる可能性が高いと思われる。もし “Great Firewall”によって閲覧できなくなっているのなら、“Tank Man”のサイト同様、検索結果からも除外すべきで、検索結果に残っているのは片手落ちだ。

ただし、過去に何回もブロックしたり、解除したりを繰り返してきたので、 “baidu.com”の対応に混乱があることも考えられる。

いずれにしても、従来中国政府は上記のように、国外の「有害情報」に対して鎖国を続けてきた。しかし、この “Great Firewall”は完璧なのだろうか?

完全な「情断」は不可能!

世界中に検索サイトは多数あり、Googleの検索サイトだけでも各国に対応して180ある。これらを全部ブロックするのは容易ではない。

そして、たとえ検索サイトや報道機関のサイト、著名な人権団体のサイトなどはブロックしても、14万以上ある “Tank Man”のサイトなどをすべてブロックするのは不可能に近い。

その上、これらのサイトをすべてブロックしたとしても、中国国内から国外のサイトを見に行く方法はいくらでもある。企業内ネットワークで国外の事業所とつながっていれば、“Great Firewall”に邪魔されることなく、国外の事業所経由でインターネットに接続できる。また、国外のサイトが、“Great Firewall”で監視されている正面入り口ではない裏口を用意すれば、いくらでもそのサイトに導き入れることができる。

要するに、“.cn”以外のドメインへのアクセスを全面禁止にしない限り、水際作戦での情報の断絶、つまり「情断」は不可能だ。しかし、もしこれを実行したら、現状ではドメイン名が “baidu.com”であるBaiduも中国では使えなくなってしまう。

小生は今から6年前にオーム社の雑誌に「『情断』が通じない世の中に」という記事を書いた。インターネットの使用を全面的に禁止しない限り、情報の国境封鎖は不可能なのだ。

中国政府に反政府運動を押さえなければならない事情があるにしても、その手段として情報鎖国はもはや通用しない。

[追記] 本ブログ「『グーグル対中国』の報道への疑問」 (2010/4/7) にその後の本件についての報道に対する疑問点の指摘があります。

2010年3月4日木曜日

中国の携帯電話事情:雲南省の山村と第4世代の携帯電話

雲南省の山村で

先日、ケーブルテレビのディスカバリー・チャネルで「中国・5億人の携帯電話事情」という番組を見て、驚いたことが二つある。

一つは、携帯電話が雲南省の山村の夫婦の生活に大変化をもたらしたという話だ。彼らは険しい山に入って薬草を採取し、それを売って生活している。今までは仲買人の言い値で売るしかなかったが、最近は携帯電話で市場価格を聞くことができるようになったので、仲買人の言いなりにならずに済むようになったという。

従来これができなかったということは、この地方では固定電話が使えなかったのだろう。中国政府の発表によると、2009年末の中国の固定電話の契約者数は3億1,000万人ということなので、13億人という総人口を考えると、農村地帯には固定電話が使えないところが多いようだ。

そして固定電話は、2006年の3億6,800万人をピークに減少を続けていて、昨年も2,700万人減ったという。ということは、現在固定電話がないところに今後固定電話が引かれることは少なく、こういうところでは永久に固定電話が使えない可能性がある。

こういう地方では電話といえば携帯電話を指すことになる。昨年末の携帯電話の契約者数は全中国で7億5,000万人ということなので、固定電話の2.4倍だ。この比率は今後ますます大きくなるだろう。

この番組には、大勢で山の上に通信機器を担ぎ上げてケーブルを敷設し基地局を建設している場面があった。人海戦術が得意な国とはいえ大変な作業だ。基地局と基幹回線を無線で接続する技術(無線バックホール)のニーズの高さを感じた。

街を走り回る「TD-LTE」と大書したクルマ

もう一つ驚いたのは、「TD-LTE」とボディーに大書したクルマが街を走り回っているところが何回か映し出されたことだ。TD-LTEというのはLTEという第4世代(日本では第3.9世代とも言う)の携帯電話の国際標準規格の中国版である。

LTEは昨年末に北欧で世界初のサービスが始まったばかりで、それに続いて日本のNTTドコモが今年12月にサービスを開始する予定である。世界中でサービスが広まるのは2011年以降だ。まして中国では第3世代の携帯電話のサービスが2009年に始まったばかりだ。

中国最大の携帯電話事業者である中国移動の今年1月末の第3世代の契約者数は390万人で、全契約者5億2,700万人の0.7%に過ぎない。現在はまだ第2世代が圧倒的に多く、第3世代が主流になるには相当な時間がかかるだろう。

こういう時期に第4世代を匂わせれば、第3世代への切り替えをやめて第4世代の出現を待とうという顧客が現れるため、第4世代については積極的にPRしないのが普通だ。それにもかかわらず「TD-LTE」と大書したクルマを走り回らせているのはなぜだろうか?

中国では三つの通信事業者がそれぞれ違う方式の第3世代の携帯電話のサービスを提供している。中国移動がTD-SCDMA、中国聯通がW-CDMA、中国電信がCDMA2000だ。

このうちW-CDMAとCDMA2000は国際標準で世界中の携帯端末メーカーが端末を販売していて実績も豊富だ。しかし、TD-SCDMAは中国独自規格で昨年サービスが始まったばかりであり、端末の種類も少ない。そのため、中国移動は現在不利な戦いを強いられている。

他の国では第3世代でW-CDMA、CDMA2000を採用している事業者とも第4世代ではほとんどLTEに移行する。そのため、中国移動は早く第4世代に移ることを望んでいる可能性がある。それは、中国では第4世代で3社ともLTEの中国版であるTD-LTEを採用するように働きかけて、3社の競争条件を同じにすることが考えられるからだ。

これは、中国独自規格の採用によってロイヤルティの海外流出を極力抑えたいという中国政府の意向とも合致する。

もう一つ考えられる可能性は、中国では第3世代のサービス開始が遅れたので、第3世代の設備を第4世代になってもできるだけ使えるようにするために、第4世代の計画も並行して進めようとしていることである。

また、雲南省の山村の例のように、山岳地帯や人口密度が低い地方では基地局建設の負担が大変なので、通信距離が長く基地局の数を減らすことができる第4世代に早く切り替えたいということもあるかもしれない。

もっとも、このクルマを走り回らせているのは、実は中国移動自身ではなく、中国移動にTD-LTEの通信機器を売り込もうとしている企業かもしれない。それは、たとえ中国移動がTD-LTEの導入を急いでいるにしても、TD-LTEを一般大衆にPRするニーズはまだないと思われるが、中国移動に対するTD-LTEの通信機器の売り込み競争はすでに始まっていると思われるからだ。

[関連記事]
「IT界の異端児、中国!?」、OHM、2009年8月号、オーム社