2015年8月11日火曜日

ETC2.0の不可思議


ETC2.0とは?

ETC (Electronic Toll Collection)システムとは、有料道路のゲートで、無人で料金を徴収するシステムである。日本では、一部の高速道路で2001年から使われるようになった。

日本では、「ETC」は国交省の管理下の旧道路公団系の有料道路でだけ使われる登録商標だが、他の国ではこれは普通名詞として使われている。

ETCはJRのSUICAなどと同様、非接触でデーを送受信するRFID (Radio Frequency Identifier)の技術の一種で、SUICAなどに比べ離れた物の間でデータをやり取りできる(1)。

国交省はこのETCの改良型であるETC2.0の開発を続けてきた。これは、ゲートでの料金徴収に使えるほか、パーキングエリアでの道路情報の提供などにも使われてきた。

そして国交省は、この新しい車両/路側機間のデータ送受信機能を使って、2015年8月からプローブ情報の提供を始めるという。

プローブ情報とは、走行中の車両から位置や速度のデータを集め、それを集計して区間ごとの平均速度を算出し、それを各車両に配信してルートの選択や目的地までの所要時間の推定に役立てるものである。走行中の車両自体が道路の混雑度の検出器(プローブ)として使われるため、プローブ情報と呼ばれるが、フローティング・カー・データとも呼ばれている。

自動車会社やカーナビのメーカーが提供しているプローブ情報は、データの送受信に第3世代や第4世代(3G/4G)の携帯電話回線を使っているが、国交省のシステムは、高速道路に沿って約1,600か所に設置したETC2.0の路側機とETC2.0用車載器を使う。路側機はおおむね10~15kmごとに設けられるという(2)。

国交省がETC2.0に力を入れてきた理由の一つは、高速道路上に設置され、現在VICS情報の配信に使われている電波ビーコンの設備が老朽化しつつあるためだという。しかし、どんな設備も老朽化し、適切な時期に更改を要するのは当たり前で、これをプローブ情報を含んだETC2.0を導入する理由にするのは無理があるように思う(3)。

既存の道路交通情報との関係は? 

国交省の発表資料で、高速道路でのETC2.0の機能は一応分かる。しかし、一般道路ではどうなるのか、従来VICSが提供していた情報はどうなるのかなどを含め、道路交通情報全体の説明は不十分だ。発表資料から、おおよそ次のようになるようだ。

ETC2.0対応の車載器を装備した車両は、高速道路では、従来VICSの電波ビーコンで受信していた道路情報に加え、ETC2.0のプローブ情報も利用できるようになる。一方、一般道路上ではETC2.0は使えず、従来通りVICSの受信機でVICSの道路情報を使うことになる。つまり、高速道路ではVICSが使えず、一般道路ではETC2.0が使えないため、両方の送受信機が必要になる。

高速道路の電波ビーコンがなくなるため、ETC2.0のプローブ情報は不要と思ってもETC2.0の車載器を購入する必要がある。

現在、道路上の車両感知器としては、超音波式、光学式、ループ式など、多種のものが使われていて、これらの検知器の測定データが警察系の日本道路交通情報センター(JARTIC)に集められ、VICSセンターを経由して利用者に提供されている。今回、道路交通情報としてこれらにETC2.0のプローブ情報が加わる。これらのデータ全体を踏まえて区間ごとの混雑度を推定するのはどこで行われるのだろうか?

そして、各自動車会社は、従来VICSから得た情報と自社のプローブ情報を合わせて区間ごとの混雑度を推定しているが、ETC2.0のプローブ情報はどこでこの情報に統合されるのだろうか?

 利用者に望ましい姿は?

(1) すべての道路情報がすべての道路上で利用できること

クルマの運転者にとって、一般道路と高速道路を組み合わせたルートを使って移動するのはごく普通で、渋滞状況に応じて、高速道路から一般道路に切り替えたり、その逆を行ったりすることも多い。こうしてルートを臨機応変に選択するためには、一般道路と高速道路の全道路情報が、一般道路上でも高速道路上でも利用できることが望まれる。

したがって、一般道路上ではETC2.0が使えず、高速道路のプローブ情報を利用できないのは、ETC2.0の大きな問題だ。

(2) 一つの通信手段ですべての情報が入手できること

最近のクルマには電波の送受信機がやたらと多い。VICSの電波ビーコン用/光ビーコン用、ETC用、AM/FMラジオ用、テレビ用、衝突防止用、3G/4Gの携帯電話回線用などだ。すべてを一つにまとめることは不可能だが、できるだけ電波の種類を減らした方が、車載器の負担が減り、路側機の設置や保守も楽になる。

そのため、一般道路でも 高速道路でも、同一通信手段で道路交通情報の送受信ができることが望まれる。

運転者に必要な、ガソリンスタンド、トイレ、食堂、コンビニなどの場所とか、目的地の天気、直近のニュースなども、同じ通信手段で入手できることが望ましい。

入手したい情報は運転者によって異なり、多岐にわたることを考えると、3G/4Gのインターネット情報をスマートフォンまたは専用車載器で利用できるのが最も簡便だ。すべてのクルマが常時インターネットに接続されているのが当たり前になる「コネクティッド・カー」の時代になるからである。

最近は、グーグル、アップルなどからスマートフォン用のカー・ナビゲーション用ソフトが提供されている。これを車内で、スマートフォンで直接使ってもいいし、ダッシュボードの大型ディスプレイやスピーカーに接続して使ってもいいようになっている。

3G/4Gのインターネットを使えば、サービス提供者にとっても、路側機の設置等が不要になり、費用負担を大幅に節減できる。

したがって将来は、情報提供手段としてのVICSやその拡張版であるETC2.0は不要になるのではないだろうか?

(3) 民営化推進によるサービスの向上と市場の活性化 

国鉄も、電電公社も、民営化されて競争原理が導入され、サービスが向上し、関連市場が活性化した。

道路の混雑度の計測は、スピード違反の取り締まりなども兼ねて、警察関係の組織で実施するのが実際的かもしれないが、そのデータをプローブ情報などと組み合わせて、利用者が使い易いように加工して提供するのは、民間企業で十分だと思われる。

政府機関がデータの計測以上のことをするのは、サービス競争の妨げになり、民業圧迫と言われかねない。税金を使って計測したデータの利用者への提供を政府機関が独占するのは許されることではない。ETC2.0のプローブ情報は、加工せずに民間企業に公開するべきだ。

インターネット上では、ETC2.0は、国交省の役人の天下り先確保のためのプロジェクトだという意見も流れている。

 (4) プローブ情報の標準化

プローブ情報は、走行している車両から位置や速度のデータを集めて、道路の混雑度を測定する。したがって、一つのプローブ情報システムに属している車両が多ければ多いほど混雑度の測定精度が向上する。

現在日本には、ホンダの「インターナビ」(4)、トヨタの「T-Connect」(5)、日産の「CARWINGS」(6)、パイオニアの「Smart Loop」(7)など、多数のプローブ情報システムがある。「インターナビ」は2003年に自動車会社として世界で初めて提供を開始したもので、プローブ情報の活用では、日本は世界で最も進んでいる。

プローブ情報システムの大きな問題は、各社のシステムがまったく独立に運営されていて、データを相互に活用することが困難なことだ。データ形式が統一されていて相互に利用できるようになれば、データ量が格段に増え、混雑度の測定精度は飛躍的に向上する。

したがって、プローブ情報について政府がやるべきことは、民間企業に割り込んで、もう一つのプローブ情報システムを追加することではなく、車両の位置や速度のデータを相互活用する仕組みを構築することである。プローブ情報システムの追加は民間企業でいくらでもできるが、データの標準化、相互利用の仕組み作りは民間だけでは難しいと思われるからだ。

関連記事]

(1) 「ETCの概要」、 ITSサービス高度化機構
(2) 「ETCは、ETC2.0へ」、国土交通省
(3) 「電波ビーコン(2.4GHz)の今後の扱いについて」、国土交通省
(4) 「インターナビとは」、 本田技研工業(株)
(5) 「T-Connectとは」、トヨタ自動車(株)
(6) 「カーウィングスとは」、日産自動車(株)
(7) 「スマートループとは?」、パイオニア(株)

1 件のコメント:

  1. 以下パイオニアのサイトを見ますと
    http://pioneer.jp/carrozzeria/carnavi/cybernavi/avic-zh0999_line_avic-vh0999_line/smartloop/

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    走行データを共有してより質の高い渋滞情報を提供

    カロッツェリアのカーナビの「スマートループ渋滞情報™」は、「Hondaインターナビ・プレミアムクラブ※1」「日産カーウイングス※2」「三菱電機OpenInfo※3」「JVCケンウッドKENWOOD Drive info※4」とリアルタイム走行履歴データを共有しています。
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    との記載がありますが、データを相互に活用できていないのでしょうか。ユーザーに情報の配信自体は行われているようですが、活用できているかと言われると微妙でしょうか。

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