2012年7月31日火曜日

「プライバシー問題に新時代到来!・・・スマートフォンで」のご紹介



オーム社の「OHM20127月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要] スマートフォンでは、利用者の「現在地」、「端末識別番号」などの情報をアプリケーション・プログラムで収集できる。 これは、主として的を絞った広告配信のためだが、他に悪用される リスクも大きいので注意が必要だ。 ―――全文を読む

2012年7月24日火曜日

「京」が真価を発揮するのはいつ?



「京」の活用計画が続々と登場

世界中のスーパーコンピュータの上位500システムのランク付けを、TOP500が毎年6月と11月に発表する。日本のスーパーコンピュータ「京」が、2011年の6月と11月のTOP500で世界一になった。この「京」は、20126月に動作確認試験を終えて完成し、同年9月から共用を開始するという。

「京」を使うプログラムの開発計画が時々報じられている。代表的なものを挙げよう。

2012222日の日本経済新聞によると、富士通と東北大学が3次元で津波の動きをシミュレーションするシステムを2012年度中に開発するという。実用になるのは2013年度以降だ。

また同記事によると、中外製薬などが東京大学と組んで20129月から抗がん剤の開発に着手するという。完成時期については触れてないが、少なくとも1年以上かかるとすれば、実用になるのは2013年度後半以降だ。

2012722日の同紙のよると、第一三共製薬は理化学研究所と、抗がん剤などの効果をシミュレーションするプログラムを20133月まで共同で研究するという。したがって、これも実用になるのは2013年度以降だ。

小生が時々目にするのは、こういう断片的な情報だけだ。他に、もっと早く「京」が真価を発揮するプロジェクトがあるのかもしれないが、上記の計画が新聞の見出しになっているところを見ると、これらが「京」の代表的な活用事例なのだろう。

2013年度というと、「京」が世界一に登録されてから2年後である。前にも記したように1年で2倍、10年で1,000になるスーパーコンピュータの世界では、スーパーコンピュータの価値は1年で1/22年で1/4になる。1,000億円以上の国費を投じたプロジェクトを、もっと早く成果に結びつける方法はないものだろうか?

ハードとソフトの開発は並行して!

ポスト『京』の課題・・・次期スーパーコンピュータ」(オーム社、OHM201110月号)に、「ハードウェアの開発が先行して、アプリケーション・ソフトなどを含んだエコシステムの構築にその完成後12年かかれば、スーパーコンピュータとして真に戦力になるときには、その価値は1/21/4に落ちていることになる」と記した。やはり、この懸念が現実になりつつあるようだ。

それを回避するためには、上記記事にも記したように、スーパーコンピュータ群が一つのエコシステムを形成していて、その中には性能が高いものも低いものもあるが、同じアプリケーション・ソフトが使えることが重要だ。そうなっていれば、そのエコシステム内では、格段に性能が高い新製品が登場しても、直ちに真価を発揮できる。

従来のメインフレームやサーバー/パソコンの世界では基本的にこれが実現されていて、新機種に入れ替えれば直ちにその性能を生かすことができる。一つのアプリケーション・ソフトは、同じエコシステムに属する限り、日本製、韓国製、台湾製の上位機、下位機を問わず、いずれのコンピュータでも使え、また一つのコンピュータは、同じエコシステムの全アプリケーション・ソフトを使うことができる。

エコシステムの世界では、一つのハードウェア専用のアプリケーション・ソフトの開発ということはあり得ない。こういうアプリケーションを作ったら、次世代のハードでまた作り直す必要があり、他の機関とソフトを融通しあうこともできないからだ。

実は、上記の津波シミュレーションの事例の富士通による正式発表には、「京」は一言も出てこない。こういうソフトの開発が「京」だけを念頭に置いたものであってはならないので、当然なことだ。にもかかわらず、新聞の見出しは「スパコン『京』で最先端へ」であり、記事にも「『京』を使った研究プロジェクトが始動する」とある。不思議に思って調べると、発表会に同席していた東北大学の教授が、このソフトは、PCクラスタでも「京」のような環境でも稼動可能だと言ったのが元のようだ。[Tech-On (2012/02/22)]記者は「京」を見出しに使うことでニュースの価値が上がると思ったのかもしれないが、してはいけないことをしていると書かれた当事者にとっては迷惑な話だ。

理化学研究所が、性能が1/1,000程度の「京」のミニ版を20132月頃、無償で開放するという。これは「京」と互換性があり、「京」用のソフトの開発に使えるということだ。[読売新聞201264日]本来、こういうソフト開発用のミニ版は、本物が現れる12年前に提供されることが望ましい。そうすれば、ミニ版でソフトを開発しておき、本物が現れたときはすぐその真価を発揮できる。従来のソフト資産が使えないハードを開発するときは、そういう配慮が必要だ。そうしないと、ハード完成後ソフトができるまでの間、資産を寝かせることになり、またその間にハードが陳腐化する。

いずれにしても、スーパーコンピュータといえども道具の一つに過ぎない。ノコギリやカンナが家を建てるのに使われて初めて意味があるのと同様に、スーパーコンピュータは津波や新薬のシミュレーションに使われて初めて人類に貢献する。スーパーコンピュータの開発自体が自己目的化してはならない。

2012年7月9日月曜日

「小霊通(シャオリントン、中国版PHS)」のその後



契約が1,500万件に減少!

中国の易観国際という調査会社が201279日に配信した記事によると、20125月末に「小霊通」の契約件数が1499万件になったという

「小霊通」は日本のPHSをベースにして、1997年に中国でサービスが始まり、2006年には約9300万件まで契約を延ばした。その後中国政府は、通信事業者を再編成して3Gのサービスを開始し、「小霊通」のサービスは2011年末に終了すると発表した。この政府の方針もあり、「小霊通」の契約件数は2006年をピークに減り続けていたが、それが1500万件を割るまでに減少したという。

易観国際は、2012年中に1000万件を割り、2013年にはサービスが完全に停止されると予測している。当初の予定より2年遅れるが、完全に姿を消すことになりそうだ。

PHSの将来予測を振り返る

「小霊通」を含めたPHS系の技術については、中国1億人に近いユーザーがいるので、全世界で事実上の標準の一つになるだろうと予測する人もいて、中国向けの製品の生産に力を入れる企業が現れた。何せ1億人というのは日本の全携帯電話の市場を超える数である。

小生はこういう見方に疑問を感じ、「PHSに将来はあるか?」(オーム社「OHM20051月号)に、「小霊通」は高速性やサービス・エリアに問題があり、また「小霊通」の急成長には中国政府の政策による特殊事情がからんでいるため、今後の伸びを期待することは難しいと記した。そのため、「小霊通」の生産設備に対する投資はできるだけ短期間に回収することを考えるべきだとも記した。

しかし、日本では次世代PHSの開発計画がウィルコムによって進められ、200712月には総務省によってこれが次世代無線通信の一つとして認められ、周波数帯域が割り当てられた。

小生は総務省のこの決定にも疑問を感じ、「ガラパゴス脱出なるか?・・・次世代PHS」(オーム社「OHM20083月号)に、中国のPHSは急速に減る可能性があるので、PHSの延長線上の技術は(かつての2Gのように)日本のガラパゴス化を促進するおそれがあると記した。

その後、「PHSはどうなる?(09/11/12)に記したように、ウィルコムの経営が破綻した。そして、「ウィルコム再建スキームが軌道修正(10/8/4)に記したように、ウィルコムの経営はソフトバンクによって引き継がれ、次世代PHSの計画は大幅に変更された。

技術動向の予測は、政治的要素もからむため非常に難しい。世界全体の技術の流れを冷徹な目で見通す必要がある。その時、自社や自国が持っている過去の技術の蓄積にこだわってはならない。そして、「日本発」という言葉はいったん忘れる必要がある。「日本発」ということは、全世界での技術の動向にはまったく関係がないからだ。

2012年7月8日日曜日

ファーストサーバがデータを消失!


5,700ユーザーのデータを消失

ヤフーの子会社ファーストサーバが提供するレンタルサーバーが、2012620日に約5,700ユーザー(うち80%は法人)のデータを消失した (1)。メール、ウェブの他、業務に直接利用しているデータも含まれているという。

バックアップデータも同時に消失したため、一部を除きデータの復旧は不可能だという。そのため、契約に基づいて、今までに支払った費用の総額を限度として損害賠償に応じるという(2)

ユーザー側にバックアップデータがない場合は、もうこの世のどこにもデータは存在しない。アップロードしたウェブのデータなどはユーザー側でバックアップしてあっても、例えばアクセスカウントやログ情報などは、ユーザー側にデータのバックアップがないケースも多いだろう。また、このレンタルサーバーはSaaS (Software as a Service)で提供するグループウェアのサーバーとしても使われていたというので、業務が止まってしまった企業もあるかもしれない。被害は甚大である。

クラウドで提供されるレンタルサーバーの危険性については、本ブログの「Gmailの障害の教訓・・・クラウドにご用心(2011/3/7)でも指摘したが、今回それが深刻な形で現実になってしまったわけだ。

どこに問題があったのか?

ハードウェアの故障、人間の誤操作はゼロにはできない。そのために、いろいろな対策が取られているはずなのに、どうしてこういう事故が起きてしまったのだろうか? ファーストサーバの中間報告(1)から問題点を考察してみよう。

(a) 今回の事故は、更新プログラムの適用時の操作ミスだという。その時、ファイル削除コマンドを停止させる指示を漏らしたという。

更新プログラムの適用は日常的に行う。通常はその際、ファイル削除などは不要なはずで、毎回その停止の指示が必要なシステムは好ましくない。日常的に行う作業は極力単純にして、誤操作の可能性を最小限に抑えなければならない。これは、飛行機や船の操縦、列車の運転などでも同じだ。

(b) さらに、更新プログラムを適用するサーバー群の範囲の指定を漏らし、対象外のサーバーにも適用してしまったという。その上、検証システムを使っての事前検証時に、対象サーバーが更新されていることを確認しただけで、対象外のサーバーが影響を受けてないことを確認しなかったという。

システムに手を加えたときは、対象部分が意図した通りに変わったことを確認するだけでなく、対象外の部分に副作用が及んでないことを確認する必要がある。これは、一般的に極めて困難で、副作用がないことの完璧な確認はほとんど不可能だ。これは薬でも同じだろう。

しかし、今回のケースについて言えば、更新プログラム適用の操作で、対象サーバーを指定するようになっているのだから、その他のサーバーのファイル更新日時が変わってないことぐらいは確認するべきだったと思う。

(c) また、このシステムでは、ハードウェアの障害時などに切り替えて使うバックアップサーバーと、ユーザーデータのバックアップが同一システムになっていたという。そして、バックアップサーバーをいつでも本番機に切り替えて使えるようにするため、これに対しても本番機と同時に更新プログラムを適用することにしていたという。そのため、本番機のデータと同時に、バックアップ機のデータも消失してしまったということだ。

バックアップ機は、いつでも本番機として使われる可能性があるので、これとは別に純粋にデータだけのバックアップを持つのが普通だ。そして、それは誤操作で書き換えることがないよう、書込み禁止にしておくのが普通である。また、バックアップ取得時の事故もあるため、少なくとも何世代かのバックアップファイルを保管しておくべきだろう。そして、火災、震災等を考えれば、バックアップファイルの別地保管も必要だ。

このようになっていれば、今回に事故の被害もかなり抑えられたはずだ。このシステムではこれらのどの対策も取られてなかったことが致命的である。

ユーザーや行政機関も対応策が必要

今回の事故は、レンタルサーバーの事業者の問題が大きいが、ファイル消失の事故は皆無にはならない。そのため、前記のブログでも触れたように、ユーザー側でもできるだけバックアップを取っておき、最悪の事態を回避できるようにすべきだ。これはサーバーの障害だけでなく、例えば、ウェブページのデータ更新時のミスを、世代をさかのぼって調査・修正するためにも必要である。

また、アクセスカウントやログ情報など、サーバー側にあるデータも定期的にユーザー側に取り込んでおくことが望ましい。

レンタルサーバーの事業者は、耳障りがいい謳い文句を並べるが、システムの実態がどうなっているのかさっぱり分からないことが多い。事業者は、コストと信頼性を天秤にかけているのだろうが、今回のように個人のシステムでも実施しているような対策さえ施してないシステムが存在すると、基本的な知識を疑いたくなる。

そのため、行政機関はレンタルサーバーの信頼性の確保について、何らかのガイドラインを制定するべきではなかろうか? そして、実施している信頼性対策について、できるだけ具体的に、定量的に開示することを義務付けるべきだ。さらには、建築基準法の耐震基準のような、罰則付きの法規制も必要かもしれない。

(1) 大規模障害の概要と原因について(中間報告)」、ファーストサーバ、2012625
(2) 大規模障害に関するFAQ」、ファーストサーバ、201276

2012年7月6日金曜日

NTTドコモがやっとWi-Fiに本腰に!



2012年612日の日本経済新聞によると、NTTドコモが公衆無線LANの基地局を2012年度内に10万局に増やすという。

公衆無線LANの基地局は、20122月には、ソフトバンクが約20万か所、KDDIが約7万か所だったのに対して、NTTドコモは8,100か所で、ソフトバンクの20分の1以下だった (1)。公衆無線LANが十分に利用できないことは、通信回線の混雑緩和の点からも、通信費を軽減し、サービスの高速化を図る点からも、大問題だと指摘してきた (1)(2)NTTドコモは、その後4月に計画を見直し、2012年度末までに6万局に増やすとしていたが、それを今回10万局に引き上げたのだ。

NTTドコモが従来公衆無線LANにあまり積極的でなかったのは、同社の「Wi-Fiはあくまで補完的なサービスという位置づけ」という事業方針からだ (1)。今回の方針変更は、自らその非を認めたのだろう。通信事業者の使命は、あらゆる通信技術を動員して、利用者に最善のサービスを提供することにある。携帯電話回線の提供が本業だから、あくまでそれの強化に注力するというのでは、あまりにも視野が狭かった。

今回NTTドコモは、基地局数に関してはまともな方向に動き出したようだが、公衆/非公衆を問わず、現在のスマートフォンのWi-Fiの扱いについては、前にも指摘したように問題が極めて多い (2)。スマートフォンで、携帯電話回線と同様にWi-Fiが使える日が早く来ることを祈っている。

(1) 「3GとWi-Fi、いずれが主役?」、酒井 寿紀、オーム社、OHM20124月号
(2) 「自分で自分の首を絞める通信事業者」、酒井 寿紀、オーム社、OHM201112月号