2010年2月28日日曜日

「電子申請に真摯な反省を!」のご紹介

「OHM」2010年2月号に掲載された上記の記事が小生の運営するウェブサイトに再録されました。

[概要] 税金の申告や各種申請手続きをインターネットで行う「電子申請」の利用率は極端に低く、利用率1%未満のものが2割弱もあるという。それにもかかわらず、このシステムの構築には2,300億円以上が投じられたとのことだ。その原因は何か? ―――>全文を読む

(注) 本記事は本ブログの下記2件をベースにしてまとめたものです。
  「電子申請の無残な実態」(2009年11月9日)
  「『中央から地方へ』の落とし穴に落ちた電子申請」(2009年12月2日)

2010年2月7日日曜日

鎖国国家だらけの電子書籍

電子書籍がついに離陸!?

電子書籍(Eブック)の市場は、歴史がかなり古い割にはなかなか本格的に離陸しなかった。

その理由を「『Eブック』が離陸しないのはなぜか?」(「OHM」2009年3月号)、「続・『Eブック』が離陸しないのはなぜか?」(同4月号)に書いた。そこには、最大の問題は電子書籍のファイル形式に事実上の標準が決まってないことであり、その他の問題として、適切な電子書籍のリーダーが足りないこと、読める本が少なすぎることなどがあると記した。

このように書いた直後に、アマゾンやソニーからこれらの問題の解消に向かう製品やサービスが発表されたため、引き続いて「Eブックがついに離陸?」(同5月号)を執筆した。

その後も、電子書籍関係のニュースが新聞紙面を賑わせている。今のところ主として米国の話だが、近い将来日本にもこの波は伝わってくると思うので、最近の米国の状況を見てみよう。

電子書籍が本格的な成長期に入る?

米国最大の書店であるバーンズ・アンド・ノーブル(B&N)が昨年10月に “Nook(ヌック)”という電子書籍のリーダーを発売した。そして、今年1月にはアップルが電子書籍も読める新端末 “iPad”を発表した。両者ともEPUBというファイル形式の電子書籍を扱う。また、従来から電子書籍に参入していたソニーは、今後自社独自のファイル形式の使用をやめEPUBに統一すると発表した。

このように、従来最大の障害であったファイル形式の不統一の問題は、一見解消に向かっているように見える。

新しい電子書籍のリーダーとしては、アマゾンが昨年5月に、“Kindle DX”という、画面サイズを従来の6インチから9.7インチに広げたものを発売した。また、ソニーも昨年8月、“Daily Edition”という画面を7インチに広げ、第3世代の携帯電話回線を使えるようにした新しいリーダーを発表した。そして今年1月にアップルが発表したiPadは、他社が使っているEインクと違って9.7インチの液晶の画面を使い、電子書籍を読むだけでなく、ウェブの閲覧なども目的にした汎用的な端末だ。

このように、リーダーの市場での競争が激しくなって低価格化、多機能化が進み、また、ユーザーの選択肢も増えた。こうして、電子書籍普及の障害の一つだったリーダーの品揃えの不足も解消しつつあるように見える。

では、これらの問題は本当に解決し、電子書籍は本格的な成長期を迎えるのだろうか? 

実際はいまだに鎖国国家だらけ!

昨年最も売れたというアマゾンのKindleは独自のファイル形式を使っていって、EPUBなどの電子書籍を直接読むことはできない。またKindle用の電子書籍は、iPhone、BlackBerryなど一部を除いて、他社の端末では読めない。

ソニー、B&N、アップルの電子書籍のファイル形式はいずれもEPUBだ。しかし、これらの電子書籍のDRM(Digital Rights Management:ディジタル著作権管理)がすべて違うため、基本的には他社のリーダーでは読めない。これらの電子書籍のうちソニーのものはアドビという第三者のDRMを使っていて、変換すればB&NのNookで読めたという情報がインターネットのフォーラムに掲載されているが、手順が複雑で、一般にどれだけ通用するか不明だ。また同様なことがiPadについてできるのかどうかは分からない。

したがって、電子書籍とそのリーダーの関係について、アマゾン、ソニー、B&N、アップルはそれぞれ隔離された鎖国国家を形成していて、少なくとも簡単には、どこのリーダーでも他社の電子書籍を読むことはできない。

そのため、最近EPUBを採用する電子書籍が増え、ファイル形式の不統一の問題は解消に向かっているといっても、実用上はほとんど改善されていない。また、リーダーの選択肢が増えたといっても、あくまで一つのメーカーの製品内での話だ。

メーカーごとに、電子書籍とリーダーが括り付けになっていて他社のものが使えないのは、レコード会社ごとにCDの規格が違っていて、レコード会社の数だけCDプレーヤを揃えないとそのレコード会社のCDを聴くことができないのと同じだと前掲の記事に書いた。昨年来、米国で電子書籍の売上が急増したと言っても、電子書籍の根本的な問題が解決したわけではない。したがって、現状のままではその普及には限界があるだろう。

「オープン」な電子書籍の市場の実現を!

電子書籍の市場の望ましい姿は、どこの電子書籍を買っても現在手持ちのリーダーで読め、またどこのリーダーを買っても現在持っている電子書籍を読めることだ。現在のCDとCDプレーヤの関係を考えればこれは当たり前のことである。では、どうしたらこういう世界が実現できるのだろうか? 歴史を振り返れば、圧倒的に強い企業または企業連合が現れ、他の企業がそれに従うのが最も普通の姿だ。カセットテープも、CDも、パソコンもそうだった。その過程では弱肉強食の熾烈な戦いが一時期続いたこともある。VHS対ベータ、ブルーレイ対HD DVDなどだ。

電子書籍も同じような道を歩むことになるだろう。しかし、弱肉強食といっても、より仲間作りがうまかった方、より「オープン」な戦略をとった方が最後に標準になった例が多い。パソコンでのIBM、フラッシュメモリでのSD陣営などだ。したがって、電子書籍の企業のトップも、生き残りたいならオープン志向を目指すべきだ。

それには、まずファイル形式としてはEPUBを選ぶことだ。直ちにEPUBに一本化できなくても、少なくともリーダーはEPUBの電子書籍も読めるようにする必要がある。

そして、DRMはない方がいい。しかし、これには著作権者や出版社の理解が必要で、簡単にはいかないかもしれない。そのため、DRMがどうしても必要なら、それを適切な条件で他社にも提供するべきだ。

アップルのスティーブ・ジョブズCEOは、「音楽配信がオープンに!?」(「OHM」2007年7月号)に記したように、レコード会社を説得してiTunes Storeで配信する楽曲ファイルについてDRMをやめた。同様に、電子書籍についてもDRMをやめるか、他社にもその使用を許諾する英断を同氏に期待したい。それが、後発だが電子書籍の盟主になれる道ではなかろうか?