2009年12月25日金曜日

「手綱を緩めた米国政府・・・インターネットの管理」のご紹介

「OHM」2009年12月号に掲載された上記の記事が、小生が運営するウェブサイトに再録されました。

[概要] 米国政府が1998年以来進めていたインターネットの民間移管は、何回も完了時期の延期を繰り返していた。しかし、2009年9月末に突然移管完了が発表された。その裏には、米国の政権交代による一国主義から多国主義への変化、EUからの強硬な要請があったと思われる。しかし、今後の問題も多く、まだ目を離せない。―――全文を読む

2009年12月20日日曜日

「次世代スーパーコンピュータ」の予算は復活したが・・・

生き返った「次世代スーパーコンピュータ」

「事業仕分け」で実質的凍結と判定された「次世代スーパーコンピュータ」の問題について、12月5日の本ブログ「『議論の仕分け』が必要な『次世代スーパーコンピュータ』」で取りあげた。科学技術振興の必要性は十分理解できるが、本プロジェクト自身の内容には問題が多いと記した。

その後、本プロジェクトは12月16日の関係閣僚の折衝で復活することになった。2010年度予算に、当初の要求から40億円減額して、228億円が計上されるという。

前記のブログに記したように、本プロジェクトはすでに「矢は弦を放れた」ものなので、継続もやむを得ないかもしれない。しかし、本プロジェクトの問題としてさらに下記の2点を追加しておきたい。

もはや「世界一」は困難?

事業仕分けの場では、「世界一」の性能を実現することの重要性が主張された。本プロジェクトは2012年に10ペタFlopsの性能を達成することを目標にし、これで「世界一」を狙うのだという。

本プロジェクトが始まった2006年には、世界最高速のスーパーコンピュータがまだ300テラFlops以下だったので、その30倍以上である10ペタFlopsの実現は、目標として十分高いと考えたのかもしれない。しかし、従来のスーパーコンピュータの性能の進歩を外挿すれば、この性能で2012年に世界一になれるかどうかは危ういことがすぐ分かったはずだ。

そして、2009年2月に、IBMがこれを上回る20ペタFlops以上の性能のスーパーコンピュータを2011年に出荷し、2012年に運用に供する予定だと発表した。BlueGeneという、Power系のプロセッサをマルチコア化したLSIを使ったSequoiaというシステムで、ローレンス・リバモア国立研究所へ納入の予定という。

筆者は、数年で1桁近く性能が向上するスーパーコンピュータの世界で、一時的に世界一になることにそんなに意味があるとは思わない。しかし、「次世代スーパーコンピュータ」は、オリンピックなら優勝どころかメダルにも手が届かない可能性がある。

富士通の一般のスーパーコンピュータは別路線?

12月18日の日本経済新聞は、富士通が今後廉価版のスーパーコンピュータの販売に力を入れることになったと報じた。インテル製のMPUを使った数千万円のもので、中堅企業向けだという。

インテル製ということは、「次世代スーパーコンピュータ」に使われるSPARC系ではなく、X86系のMPUだと思われる。これは現在全世界のスーパーコンピュータで最も多く使われていて、2009年11月の統計では上位500システム中の88%を占めている。

富士通は「廉価版」を称するスーパーコンピュータではX86系を使うというが、富士通が2009年7月に日本原子力研究開発機構から受注した200テラFlops(理論ピーク値)のスーパーコンピュータもX86系だ。200テラFlopsと言えば、現在全世界で20位程度の高性能である。現在世界最高速の1.76ペタFlopsのスーパーコンピュータもX86系のプロセッサを使っているように、X86系でも十分高性能が達成できる。

したがって、富士通は中堅企業向けの廉価版に限らず、上位のマーケットでもX86系のスーパーコンピュータを積極的に販売することになると思われる。前記のブログにも記したように、X86系の方がアプリケーション・プログラムのポータビリティなどの点で、ユーザーにもメリットが大きいためもある。

こうして今後の富士通の主力スーパーコンピュータもX86系になると、スーパーコンピュータの世界でSPARCの存在はますます影が薄くなる。

2009年12月19日土曜日

小野寺KDDI社長の発言を傾聴しよう!

「日経コミュニケーション」12月15日号に小野寺 正KDDI代表取締役社長兼会長のインタビューが載っている。その中から、今後の日本の通信事業にとって重要と思われる2点について、私見を交えながらご紹介したい。

垂直統合から水平分業へ

日本の携帯電話は、通信事業者が中心になって垂直統合型のビジネスを展開してきた。通信サービスから、携帯電話端末、インターネット接続、コンテンツに至るまで、すべて通信事業者が企画し、サービスを提供し、機器を販売してきた。

市場が成熟すれば、こういう垂直統合型のビジネスには限界が来て、パソコンなどと同じように水平分業型に移っていくだろうと、今から5年前に、「いつか来た道・・・携帯電話のプラットフォームはどうなる?」に記した。

その後、2007年に、特定の通信事業者とは関係のない、アップルのiPhone、グーグルのAndroidが現れた。これらの来襲(?)で日本の垂直統合型の携帯電話の世界も変わって行くだろうと、「外圧で開国?・・・日本のケータイ」に書いた。

しかし、日本の通信事業者からは、今までそういう声はあまり聞こえてこなかった。

ところが、このインタビュー記事で小野寺社長は言っている。(以下《 》内は同氏の発言の引用)

《上位レイヤーへの進出に当たっては自らやるのも一つの手段だが、パートナとなるはずのメーカーやインテグレータなどと敵対関係を作りかねない。このため、トラフィックが発生するネットワークはKDDIが受け持ち、それ以外はほかの企業と協調し、必要があればKDDIが受け持つことを考えている。》

ここで「上位レイヤー」とは、直接はインタビュアーが言及した「クラウド」だが、小野寺社長の発言の趣旨としては通信網上のアプリケーション全般を含むと考えられる。続けて同氏は言う。

《ネットワーク側からみると、トラフィックを集めてボリュームを大きくすれば単価は下がる。できるだけ多くのトラフィックを集めるためには、競合相手になる企業と協調することも視野に入れている。》

今後は垂直統合にこだわらず、水平分業の利点を生かしたいということだ。

携帯電話のインターネットの世界で、通信事業者が端末の販売からコンテンツの提供までやっているのは、パソコンの世界で言えば、通信事業者がパソコンの販売から検索サイトの運営までやっているのと同じことだ。有線通信の世界では、通信事業者の仕事はあくまで音声やデータの伝送で、伝送される内容には手を出さないのが普通だ。それに引き換え今の携帯電話の世界は、運送会社がトラックで輸送する野菜や魚を確保するため、自社で農業や水産業にまで手を広げているようなものだ。

iPhoneやAndroidの出現で、通信事業者は今後「土管屋」になってしまうと言う人がいるが、通信事業の本来の姿は「土管」の提供のはずだ。高速、高信頼性で、どこでも使える安い土管を提供することが通信事業者の競合力のキーで、端末やコンテンツで同業者と張り合う時代は過去のものになるだろう。

小野寺社長が言うように、今後通信事業者にとって重要なのは、いい端末メーカーやコンテンツ・プロバイダと手を組んで、トラックで運ぶ貨物の量、土管を流れる水の量を増やすことだ。

したがって、今後政府が力を入れる必要があるのは、こういう水平に分業化された世界で、複数のプレイヤーが公平に競争できるような市場の形成である。現在進めているMVNO (Mobile Virtual Network Operator)の市場の育成もその一つだ。そして今後は、携帯電話網と固定電話網が一体になってゆくため、現在NTTが80%近くを占めている光アクセス網の開放も大きい課題になる。

国際競争力の強化

この10月に総務省は通称「ICTタスクフォース」と呼ばれているものを発足させた。それは4部会からなり、第3部会は「国際競争力強化検討部会」である。寺島実郎氏を座長にして、日本を代表する通信会社や通信機メーカーの社長などがメンバーになっている。

何が議論されるのかは知らないが、1990年代のNTTの分割がNTTを弱体化し、ひいては日本の通信事業の国際競争力を弱めたので、NTTの再再編によるNTTの競争力の強化がまず必要だと思っている人がいるかもしれない。

この問題について小野寺社長は言う。

《順番としては、国際競争力よりも(国内での)公正競争条件をどう整備するのかを考えたい。その中で国際競争力の議論もあり得る。》

日本のICT全体にとっては、通信事業者の国際競争力よりも国内の公平な事業環境の方が重要だと言う。なぜか?

《電気通信事業者の国際展開にも大きな疑問がある。電気通信の規制や免許といった条件は、国ごとにばらばらになっているからだ。私には、「電気通信の国際競争力」とは何か、定義がはっきりしていないと感じている。》

《問題は、メーカーの海外進出に寄与するのは誰かということ。電気通信事業者の海外進出に伴って、その国のメーカーが進出してうまくいった例があるのだろうか。》

同氏は、電気通信事業自身の国際展開は困難だと思っているようだ。そのため、ICTの国際競争力の強化が必要だからといって、電気通信事業にその牽引役を期待するのは困難だという。それには次のようなビジネス環境の変化もある。

《海外では通信事業者と一緒にやってきた旧来型の会社が、うまくいかなくなっている。今伸びているのは、IP系の技術を得意とするメーカー。しかし日本にはそうした新興のメーカーが見当たらない。》

最近急速に伸びているのは、リサーチ・イン・モーションのBlackberry、アップルのiPhoneなどだ。しかし、これらの製品は通信事業者の要求で開発されたものではない。こういう分野で日本からも競合力のある製品が出現することが望まれる。しかし、それは通信事業者に期待してもだめで、水平に分割された市場で、端末、ソフトウェアなどについて、それぞれ世界に通用する競合力を持つ企業が現れるしかない。

ということは、この問題は総務省配下のタスクフォースの枠を越えているということでもある。

2009年12月5日土曜日

「議論の仕分け」が必要な「次世代スーパーコンピュータ」

「事業仕分け」に反論の大合唱

11月13日に、行政刷新会議の「事業仕分け」が、「次世代スーパーコンピュータ」の予算に対して「限りなく予算計上見送りに近い縮減」との判定を下した。これに対し、科学者の団体などから猛反発が相次いだ。主なものを挙げよう。

11月18日には「計算基礎科学コンソーシアム」という物理学の研究者の交流団体が緊急声明を出した。基礎科学の研究にスーパーコンピュータは不可欠であり、「次世代スーパーコンピュータ」はその要となるものなので、その開発の凍結は日本の国際競争力をそぐことになると主張している。

11月19日には、「総合科学技術会議」(議長:鳩山首相)の有識者議員8名が緊急提言を発表した。短期的な費用対効果のみを求める議論は、長期的視点から推進すべき科学技術にはなじまないという。

11月25日には、ノーベル賞受賞者ら5名が共同声明を発表した。優秀な人材を絶え間なく研究の世界に吸引することが、「科学技術創造立国」にとって不可欠であり、現在進行中の「事業仕分け」は若者を学術・科学技術の世界から遠ざけてしまうという。

そして11月26日には、ノーベル賞受賞者ら6名が首相官邸を訪れ、鳩山首相と会談した。資源の乏しい我が国にとっては、科学技術の脆弱化は国家の衰退を意味すると、今回の事業仕分けを厳しく批判し、鳩山首相はたじたじだったと報じられた。

議論の仕分けが必要だ!

どの主張も一応もっともに聞こえる。しかし、よく考えてみると、これらの主張は下記の四つの問題を「いっしょくた」にして論じている。

[問題1]科学技術の推進に政府としての注力が必要か否か?

[問題2]それが必要な場合、スーパーコンピュータは必要か否か?

[問題3]それが必要な場合、日本製であることが必要か否か?

[問題4]それが必要な場合、現計画は妥当か否か?

例えば、ノーベル賞受賞者の共同声明は[問題1]の科学技術の推進の必要性の背景を縷々述べ、だから今回の「事業仕分け」の結論には問題があるという。[問題2]~[問題4]については触れずに、いきなり[問題4]の結論に飛んでいる。事業仕分けの主要な論点は[問題1]ではなく[問題3]、[問題4]である。世界的科学者の割には余り論理的ではない。そして、総合科学技術会議の緊急提言は全文を読んでないが、これも同様の議論を展開しているようだ。

計算基礎科学コンソーシアムの緊急声明は、[問題2]のスーパーコンピュータの必要性を詳述した上で、いきなり、「次世代コンピュータ」はその要の位置にあるので、その迅速かつ着実な推進が重要だという。これも[問題3]、[問題4]には触れずに[問題4]の結論にジャンプする。

「次世代スーパーコンピュータ」を今回の事業仕分けの俎上に乗せた人や、これを実質的凍結とした仕分け人の頭にあったのは、[問題1]、[問題2]ではなく、[問題3]、[問題4]であろう。したがって、[問題3]、[問題4]に触れずに事業仕分けの結論が不当だと主張するのは、論点がずれている。

ではなぜ、[問題3]、[問題4]が問題なのだろうか?

スーパーコンピュータが日本製であることは必要か? ([問題3])

昔は、スーパーコンピュータと言えばユーザーの特注品が多かった。しかし現在はメーカーが商品として販売している、いわゆるカタログ製品が圧倒的に多い。毎年6月と11月に「TOP500」という、全世界のスーパーコンピュータの上位500システムの番付が発表される。今年11月に発表された上位30システムについて見ると、中国の大学が開発した1機種を除き、あとはすべてメーカーのカタログ製品かカタログ製品を組み合わせてまとめたものだ。つまり、ほとんどがパソコンやサーバーと同じように市販されているIT製品なのだ。

そして、同じく上位30システムについて見ると、中国、ロシア、フランスで開発された4システムを含めて、中核になるプロセッサのLSIはすべて米国のインテル、AMD、IBMの3社から購入したものなので、自国製に固執する意味はあまりない。

日本のIT産業の隆盛のためには、スーパーコンピュータについても、もちろん日本製のものがあることが望ましい。しかし、それは他のIT製品と同様、世界のスーパーコンピュータの市場で競合力のあるものでなければならない。もし赤字続きで経営の足を引っ張り続けるようなものなら、企業にとって事業を継続する意味はないし、政府がそれを支援し続けることは税金の無駄遣いになる。したがって、スーパーコンピュータを自力で開発し続けて世界中に販売し、全世界で事業継続に必要なシェアを獲得する覚悟を持ったメーカーが現れることが先決である。政府が何がしかの支援をするとすれば、まともな価格でできるだけ多くそのメーカーから購入することだ。

スーパーコンピュータのユーザーにとって重要なのは、高性能で安いスーパーコンピュータを入手することであって、それがどこの国で作られたものかは関係ない。我々が、場合によってはヒューレット・パッカードやデルのパソコンやサーバーを購入するのと同じことだ。

現在の「次世代スーパーコンピュータ」計画は妥当か? ([問題4])

現在、スーパーコンピュータの世界でも汎用のマイクロプロセッサを使ったものが主流になっている。前出のこの11月の統計では、上位500システム中の88%がインテルのX86系(AMDを含む)で、10%がIBMのPower系(Blue Gene、Roadrunnerを含む)であり、その他は2%に過ぎない。上位30システムに限れば、80%がX86系、20%がPower系で、その他は皆無だ。

ところが、「次世代コンピュータ」はSPARCというプロセッサを使う計画だ。SPARCはサン・マイクロシステムが開発したRISCで、2000年頃には上位500システム中100システム以上で使われていた。しかし、その後次第に減り、この11月の統計では富士通製の2システムだけだ。サン・マイクロシステムズのスーパーコンピュータは上位500システム中に11登場するが、すべてX86系でSPARC系は皆無だ。また、サン・マイクロシステムズはここ数年、スーパーコンピュータの市場も狙ってRockという16コアのSPARC系プロセッサを開発していたが、今年に入ってその開発を中止したといわれている。サン・マイクロシステムズは今年オラクルに買収されることになったので、SPARC系のスーパーコンピュータの市場に再参入する可能性は低いだろう。

したがって、SPARC系のスーパーコンピュータは全世界で富士通1社になる見通しだ。1社では、マルチコアのLSIを継続的に開発し、その開発費を負担できるだけのシェアを世界中で獲得するのは非常に厳しいと思われる。

シェアが少ないと、スーパーコンピュータのアプリケーション・プログラムのベンダーに敬遠されて、その品揃えに支障を来たす。また、スーパーコンピュータのアプリケーション・プログラムは、性能を限界まで引き出そうとするため、プロセッサの構成に依存したものになる。そのため、同類のプロセッサを使ったスーパーコンピュータのセンターが少ないと、他のサンターを使うときプログラムの書き換えが必要になる可能性が増え、ユーザーに敬遠される。これらの点も今後のSPARC系スーパーコンピュータのシェアの拡大を困難にする。

したがって、現時点では、今までのしがらみがないなら、SPARC系でなくX86系を採用するのが妥当であろう。しかし、もう矢は弦を放れてしまっている。現時点でどう判断すべきかは極めて悩ましい問題だ。

                ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

いずれにしても、問題点を少なくとも上記の四つにきちんと分けて議論しないと、議論が錯綜して混乱する。「事業仕分け」の前に「議論の仕分け」がまず必要である。

[追記] 「『次世代スーパーコンピュータ』の予算は復活したが・・・」 (09/12/20)もご参照下さい。

2009年12月2日水曜日

「中央から地方へ」の落とし穴に落ちた電子申請

電子申請、19府県で休止・縮小!

11月9日の本ブログ「電子申請の無残な実態」で、現在の電子申請の利用率の低迷を報じた11月8日の朝日新聞の記事を紹介した。その後、11月30日の同紙に、その続報として、地方自治体が苦戦している状況が掲載された。それによれば、現在47都道府県中の19府県で、電子申請の全面休止や縮小を実施または予定しているという。

その主原因は財政難だということだが、電子申請は利用者の利便性の向上とともに人件費等の経費の削減を図るものなので、うまく行けば「儲かる」はずである。それがうまく行かないは、どこかに問題があるからだ。最大の問題は、もちろん前回報道された「利用率1%未満のシステムが2割弱」という極端な利用率の低さだ。これでは、電子申請システムのコストとそれを利用しない人に対応するための人件費を二重に負担することになるので、儲かるどころではない。

しかし、今回の記事によると、電子申請システムのコスト自身にも大いに問題があるようだ。

ASPの利用で運用経費が激減!?

今までは都道府県ごとに電子申請システムの開発をIT業者に発注していたという。これでは、要求仕様が自治体ごとに違ってしまい、同一業者でも個別に開発することになるので割高になってしまう。住民票や印鑑証明の申請処理が自治体ごとにそんなに違う必要はないので、はじめから計画すれば相当な部分が共通にできたはずである。

また、今までは各自治体の庁舎内にコンピュータを設置していたという。電子申請の件数は限られているため、全国で何箇所かのセンターにまとめて処理する方が効率がいいはずだ。

最近はNECの「電子申請ASP (Application Service Provider)サービス」を使うことによって運用経費を劇的に下げた例が相次いでいるという。中には1/10になった例もあるということだ。ASPとは客先の端末からネットワークを介してソフトウェアを使ってもらう事業形態である。こういうサービスを使えば、ソフトウェアの重複開発もなく、また稼働率の低いシステムを自治体ごとに抱える必要もない。そのため経費が激減できたというが、要するに元が高すぎただけだ。

「中央から地方へ」の落とし穴

ASPのようなサービスを利用するか、または地方自治体の共同のセンターのようなものを設立するかは別にして、電子申請についてはソフトウェアもハードウェアも全国的にまとめた方が効率がいいことは、少し考えればはじめから分かったはずだ。申請者に窓口の担当者が対応していたときは地方自治体ごとに処理がバラバラでもたいした問題はなかった。しかし、いったん電子化されると、処理が統一されているかいないかで大差が生じる。

政府は2000年以来、e-Japanを旗印に日本のITの推進を図ってきた。その重点テーマの一つが電子申請などを含む電子政府で、これは当を得たものだったと思う。しかし、その進め方には大いに問題があったようだ。総務省から地方に電子申請を行えとの強い指導があったということだが、何の戦略もなくこういう圧力をかければどういうことになるかを、総務省は想像できなかったのだろうか?

筆者はオーム社の雑誌の2004年5月号の「『中央から地方へ』の落とし穴」という記事の最後に次のように書いた。

《小泉首相は「中央から地方へ」、「地方でできることは地方へ」と言い続けている。もちろんそうすべきものもあるのは確かだが、上述のように、電子政府については「地方から中央へ」を推進しないといけない面もある。ただ闇雲に「中央から地方へ」と突き進み、似て非なるウェブサイト(注:行政ポータルサイトのこと)が全国にできてしまったら、とんでもない落とし穴に陥ることになる。》

不幸にして筆者の危惧が現実になってしまったようだ。

電子申請を含めた電子政府の実現なしに、日本がITの一流国と言われるようになる道はない。e-Japanを推進した母体は森内閣、小泉内閣の下でのIT戦略会議である。これは現在開店休業状態だというが、これをまず再開する必要がある。そして、電子政府については、使い勝手の悪さからくる利用率の低迷や、地方へのブン投げによる無駄な費用の発生について、まず猛省してもらう必要がある。

民主党政権に過去を洗い直してもらわなければならない仕事はまだまだあるようだ。

2009年11月28日土曜日

「Facebookに加入して」のご紹介

ソーシャル・ネットワーク・サービスのFacebookの利用者が世界最大になったというので、米国のFacebookに加入してみた。利用者には年配者やプロの画家などが多く、商売に利用している人が多い。個人事業者の仕事の仕方に変化をもたらしているようだ。
(「OHM」2009年11月号掲載)

全文は下記をご覧下さい。
HTML: http://www.toskyworld.com/archive/2009/ar0911ohm.htm
PDF: http://www.toskyworld.com/archive/2009/ar0911ohm.pdf

2009年11月25日水曜日

何とかならぬか、固定電話

ディジタルーアナログーディジタル変換

我が家の電話機が壊れたので、しかたなく買い換えた。固定電話の世界でもIP電話などの新しい技術が現れているので、少しは新しい電話機が現れているのではないかと思ったが、基本的には従来とまったく同じようなものしか売ってないのでいささか驚いた。固定電話は最近のネットワークや携帯電話の進歩から取り残されているようだ。ここでは4点を取りあげる。

最近、固定電話に光回線を使ったIP電話が増えている。そこを流れる音声はディジタル化された信号だ。また、コードレス電話の親機と子機の間の通信も、最近はディジタル化されている。今回買い換えたものもディジタルのコードレス電話で、子機の音声の品質は格段によくなった。

ところが光ファイバの終端装置から固定電話の親機までの間は、従来の電話と同じアナログ信号だ。光終端装置でディジタル信号をアナログに変換し、それを受け取った電話機で再度ディジタルに変換するというバカバカしいことをやっている。これでは部品が増える上に音声の品質が落ちる。

電話の基幹回線にも、コードレス電話にも、サンプリング周波数8kbpsのPCM(パルス符号変調)が使われている。量子化ビット数は基幹回線では8ビット、コードレス電話では4ビットと異なるが、同じ変調方式なので、基幹回線のディジタル信号をコードレス電話のディジタル信号へ直接変換すれば簡単にできるはずだ。

もちろん、IP電話に切り替えても、壁に埋め込まれた屋内配線をいじりたくない人もいるだろう。したがって、従来のアナログ入力の電話機がまだあるのは、ごく自然なことだ。しかし、家を新築し、電話回線も電話機も新設する人にとっては、こういう製品しか選択できないのはいかにも不便だ。

一つの家庭に無線ネットワークが二つ

最近は無線LANで家族のパソコンを相互に接続している人が多い。インターネット接続の回線を共用したり、ファイルを交換し合ったりしている。そして、ビデオゲーム機などもこの無線LANを介してインターネットに接続し、ソフトを更新したり、ウェブを閲覧したりできる。「ホームネットワーク」の時代の到来である。

一方、コードレス電話も家庭内の無線ネットワークで、親機と子機の間とか子機同士で通話することができる。つまり、家庭内に無線ネットワークが二つ存在することになる。

電話にも無線LANを使ってこれらを一つに統合できれば、無線ネットワークが一つで済む。その技術は、デュアルモードの携帯電話ですでに実用になっている。例えば、NTTドコモの「PASSAGE DUPLE(パッセージ・デュプレ)」では、1台の携帯電話機で携帯電話回線と無線LANのいずれからでも電話をかけられる。

コードレスの子機と携帯電話がゴロゴロ

コードレス電話の子機をいくつかの部屋に設置している家庭が多いだろう。一方、家族がそれぞれ携帯電話を持っている家も多い。コードレスの子機も携帯電話機も、スピーカーとマイク、電話番号を入力するボタンやそれを表示する液晶画面、電話帳の機能などを備えている。似たようなものが家じゅうにゴロゴロある。この二つが一つになれば便利なことが多いはずだ。

両者で最も違うのは回線の接続回路だ。しかし、もし前記のように、コードレス電話にも無線LANが使われるようになれば、無線LANと携帯電話回線と両方が使える電話機はすでにあるので、この問題は解決される。現在のデュアルモードの携帯電話は、携帯電話の接続に携帯電話回線と無線LANとを使い分けるものだが、この無線LANを固定電話の接続にも使えるようにすればいいわけだ。

アドレス帳が氾濫

パソコンのメール・クライアント、宛名印刷ソフト、固定電話、携帯電話などにアドレス帳とか住所録とかいう機能がある。登録する内容には共通なものが多いが、従来はファイル形式が違ったため、それぞれ個別に登録する必要があった。この問題は、「アドレス帳が一つになる日」という題で5年前にオーム社の雑誌に書いたことがあり(注1)、そういう日が来ることを待ち望んでいた。

その後多少進歩し、最近ではメール・クライアントで使われるアドレス帳は、他社製品との間でもデータが交換できるようになった。それはvCardという標準ファイル形式が普及したからだ。このvCardはiPhoneにも使われていて、iPhoneではパソコンと携帯電話でアドレス帳を共通に管理できるようになっている。

我が家で今まで使っていた電話機では、数字ボタンを使って電話帳を新規に入力する必要があったが、今回買い換えた電話機では、電話機を使わなくてもパソコンで電話帳を作成できるようになっていて、少しは改善されていた。しかし、他の製品のアドレス帳、住所録の類とのデータの交換はできない。いや、他社製品どころか、同じメーカーの電話機の間でもどこまで共通に使えるのか不明だ。

一歩前進したが、「アドレス帳が一つになる日」はまだまだ遠いようだ。

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もちろん、ここに書いたような問題がすぐに解決されるとは思わない。しかし、今回買い換えた電話機を見る限り、そういう方向へ進もうとする気配さえ感じられないのは非常に残念だ。固定電話は需要が減っていて、メーカーとしても力が入らないのは分かる。しかし固定電話は、数は減ってもなくなることはない。携帯電話やコードレス電話と統合して新しい電話の世界が切り開かれることを望みたい。それには、固定電話と携帯電話を一体の事業として推進する体制が必要だと思う。

(注1) 「アドレス帳が一つになる日」、「Computer & Network LAN」、2004年10月号、オーム社(http://www.toskyworld.com/archive/2004/0410addressbook.htm)

2009年11月17日火曜日

ネーミングを間違えた「iPhone」?

名は体を表さないiPhone

最近のスマートフォンで何ができるだろうか? iPhoneを例にとって想像してみよう。

iPhoneの最初のホーム画面には20個のアイコンを並べることができ、20個の機能を登録できる。その中に、しょっちゅう使うウェブサイトを含めてもよい。この機能を1日の生活に生かすとどうなるだろうか? 以下の「 」内はホーム画面に登録されている機能である。

出張先のホテルで、朝「時計」のアラーム機能で目を覚ます。まず「カレンダー」の予定表でその日の予定を確認する。登録してある「XX新聞」でニュースを読み、米国の「株価サイト」で米企業の株価の終値をチェックする。

「マップ」で、始めて訪問する客先への経路を調べ、指定された駅で下車する。GPSと方位センサによって、現地の方角に合わせて地図が表示されるので、示された経路に従って歩いていくと客先に着く。これなら《地図が読めない女》でも問題ない。

客との商談を「ボイスメモ」に録音しておく。また、「メモ」に話の要点を記入しておく。商談で出た金額は「計算機」、つまり電卓機能で確認する。商談後の雑談時に、初対面の相手に「写真」のアルバムで家族を紹介する。顔を忘れないよう「写真」のカメラで相手の写真を撮らしてもらう。

昼になったので、「マップ」で近所のレストランを捜して昼食。料理が来るまでの間に「メール」で受信メールを読み、「株価」で株の現在値をチェック。「iPod」で音楽を聞きながら食後のコーヒーを飲み、登録してある「SNSサイト」でネット友達の様子を見てみる。

その時、電話の着信音がなる。『あっ、iPhoneは電話にも使えるんだった!』

これは極端な例かもしれない。しかし、20個のアイコンが並んでいるiPhoneの最初のホーム画面で、「電話」は左下隅の1アイコンに過ぎない。iPhoneのネーミングは《名は体を表さず》だ。

上に挙げた例の他、iPhoneを電子ブック・リーダとして愛用している人もいるだろう。また、もっぱら家計簿の管理に使っている主婦もいるだろう。そして、外部機器との組み合わせで実現する機能もある。iPhoneには、運動靴に付けた加速度センサの情報をキャッチして、ランニングやウォーキングの距離や時間を計測し、カロリー消費量を管理する機能もある。この類の製品も今後増えるだろう。

「スマートフォン」が死語に!?

これは何もiPhoneに限った話ではない。他のスマートフォンも同じだ。ということは、「スマートフォン」という名前自体が「名は体を表してない」のだ。「PDA (Personal Digital Assist)」が死語になり、スマートフォンがその市場を引き継いだが、そのスマートフォンも遠からず死語になるのではなかろうか?

現在のスマートフォンには新しい名前が必要だ。「複合携帯端末」とか「常時生活サポート端末」とかいうような意味合いなので、それにふさわしいスマートな名前が望まれる。

スマートフォンの主役は誰に?

携帯電話は無線通信事業者によって始められた。しかし、スマートフォンの開発やそれに関連するサービスの提供は、通信インフラの提供とはまったく性格が違う。通信インフラ事業にとっては、通信速度、信頼性、提供エリアなどが重要なファクターだ。一方、スマートフォンにとっては、メインフレームやパソコン同様、アプリケーション・ソフトの機能や品揃えが競合上最も重要だ。

そのため、スマートフォンのビジネスにはアップル、マイクロソフト、グーグルなど、通信事業とは関係のなかった企業が多数参入している。

通信事業者にとっては、スマートフォンに使われる通信インフラを提供する道を選ぶか、自社でスマートフォンを提供する道を選ぶかを明確にする必要がある。前者なら多数のスマートフォンを扱っても一向に構わない。しかし、後者の道を選ぶなら、OSを一つに絞り、自社独自のアプリケーション・インターフェースを定め、そのアプリケーション・ソフトの流通システムを構築する必要がある。

もちろん、一社で両事業を手がけても構わないが、両事業はまったく性格が違うということを忘れてはならない。

2009年11月12日木曜日

PHSはどうなる?

ウィルコムが苦境に!

PHSのサービスを提供しているウィルコムが、今年8月に社長の交代を発表し、9月24日には、私的整理の一種である事業再生ADRの手続を申請して受理された。詳しいことはよく分からないが、要するに、借入金の弁済を一時停止し、その後弁済計画を見直させてもらいたいということのようだ。現在は債務の免除や株式化(Debt-Equity Swap)は考えてないというが、何らか方法で債務負担の軽減が必要になったのだろう。

ウィルコムは現在次世代PHSを推進中だが、その展開が遅れている。今年10月から、東京、大阪、名古屋で正式サービスを始める予定だったが、10月に始まったのは、東京の山手線内の一部で、400台の端末を無料で貸し出すだけだ。これでは正式サービスとはとても言えない。

この計画の遅れが今回の人事異動や事業再生ADRの理由なのだろう。しかし、これだけで問題が解決するわけではなさそうだ。10月30日に発表されたウィルコムの事業計画では、2012年度末には人口カバー率を91%にする予定だが、そのためには2012年までに累計1,113億円の設備投資が必要だという。そして、その資金調達が何とかなったとしてもPHS自身の問題がある。

PHSの問題は?

PHSの将来性については5年前に「OHM」に書いた。(注1) PHSは、かつては簡便な携帯電話としてかなり普及したが、データ通信の比重が大きくなると、どうしても通信速度の面で一般の携帯電話に太刀打ちできない。そして、PHSが特長としていたデータ通信の定額サービスは一般の携帯電話でも行われるようになる。

ウィルコムは通信速度等の改善のため「次世代PHS」を開発した。しかし、それに使われている技術はほとんどLTEと呼ばれる第4世代の携帯電話と共通だ。次世代PHSも標準規格としてITU(国際電気通信連合)に承認されたが、LTEと似て非なる規格が世界的に普及する可能性はまずないだろう。

PHSは一時中国で1億人近くの人に使われていたので、国際標準の一つになると唱える人もいた。しかし、前掲の記事に書いたように、中国でPHSが一時大流行したのは中国の特殊事情のためで、それがいつまで続くかははなはだ疑問だった。

案の定、中国では2008年に通信業界が再編され、第3世代の携帯電話の分担も決まり、PHSは2011年でサービスを終了することになった。2006年に1億人に近かった加入者は、その後減り続け、この9月には5,300万人になったという。

ガラパゴス化に手を貸す総務省?

次世代PHSを始めたのはウィルコムだが、NTTドコモなどの競争者を排除してウィルコムに電波の免許を交付したのは総務省だ。その問題点についてもかつて「OHM」誌上で指摘した。(注2) 総務省はPHSの生みの親なので、他の通信方式との平等な比較を総務省に期待するのは困難なのだ。しかし、もし次世代PHSが失敗に終われば、総務省は責任の一半を免れない。

ウィルコムの最大の株主は投資ファンドのカーライルで、現在60%を保有している。投資ファンドは、将来に期待が持てなくなれば早期に手を引くことを考えるだろう。そのあとを引き受ける者は果たして現れるだろうか? 

ガラパゴス島の絶滅危惧種がまた一つ増えることにならないよう祈るばかりである。

(注1)「PHSに将来はあるか?」、技術総合誌「OHM」2005年1月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2005/0501phs.htm)


(注2)「ガラパゴス脱出なるか?・・・次世代PHS」、技術総合誌「OHM」2008年3月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2008/ar0803ohm.htm


[後記]

 その後のPHSの状況については下記をご参照下さい。 (12/7/10)
   『小霊通(シャオリントン、中国版PHS)』のその後」(12/7/9)

2009年11月9日月曜日

電子申請の無残な実態

全体の2割が利用率1%未満!

11月8日の朝日新聞の1面トップに、「国の電子申請 非効率」という見出しで、国への行政手続きをインターネットで行う電子申請の実態を同紙が調査した結果が掲載されていた。それによると、総申請数に対する電子申請の利用率が10%未満のものが全64システム中3割あり、1%未満のものが2割弱あったという。

原因は使い勝手の悪さ!

同紙は使い勝手の悪さがその主原因だという。設定画面をクリックすると、いきなり米国のサイトに切り替わり、必要なソフトをダウンロードしろというが、10以上あってどれを選べばいいのか分からない、という例を挙げている。確かに、必要なソフトはXXのバージョンXX以上などと言われても一般には戸惑う人が多いだろう。

また、「電子認証」を必要とするものが多く、それを入手するにはカネと手間がかかるためもあるという。筆者は、所得税の電子申告をしようとしたときの経験を「OHM」に書いた。(注1) 電子申告では住民基本台帳の「住基カード」が必要で、それを読むためのリーダも必要だが、所得税の申告のためにわざわざ住基カードを取得する人がどれだけいるだろうか?

筆者は最近住民票を取りに役所に行ったが、住民票などを発行する自動機は住基カードの他、もっと簡単な自動交付機用カードも印鑑証明のカードも使えるようになっていた。住基カードの必要性は最近ますます減っているようだ。

なぜこんな事態に?

本記事は、電子化を急ぎすぎたことがこういう事態を招いたという。「甘い査定でも何でも予算化できた」と言っている元担当者がいるという。また、入札用の仕様書を「下書きしてほしい」と頼まれたIT業者もいるという。こうして、2003年度以降、開発と運営に2,300億円以上かけて、利用率が極めて悪いシステムが作られたという。

民間企業では考えられないようなシステム開発がなぜ政府で行われたのだろうか? システムの仕様はユーザーやオペレータの立場でレビューし検証するのが常識である。肝心な箇所はプロトタイプを作って操作し、実際に問題がないか確認する。

「ユーザーの立場で」というのは「国民目線で」ということだ。国民目線で政府や官僚が政治を行っているかどうかを監視するのは野党やメディアの仕事だ。したがって、本件についての追求をおろそかにした前野党の民主党や日本のメディアの責任は否定できない。

いまや与党になった民主党には、過去を反省して早急に改善を図ってもらいたいし、野党になった自民党にはユーザーの目での監視を怠らないでもらいたい。そして、他の報道機関のことは知らないが、遅れ馳せながらも、今回の朝日新聞の報道は評価に値すると思う。しかし、これは1回の報道で済む問題ではないので、継続的に力を入れてもらいたい。

そして、何よりも問題は官僚である。失敗は評価に反映される、しかし、失敗を早期にリカバーすれば、それも評価されるのが民間企業の常識だ。失敗を認めず、改善も図らなければ民間企業では追い出される。しかし、従来の官僚は違うようだ。民主党内閣は官僚の人事評価を見直しているようなので今後に期待したい。

(注1) 「これでいいのか? 日本の電子政府」、技術総合誌「OHM」2007年6月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2007/ar0706ohm.htm)

2009年11月8日日曜日

Winny裁判の行方は?

逆転無罪・・・しかし検察が上告!

Winnyというファイル交換ソフトの開発者が著作権法違反の幇助罪で逮捕され、2006年12月に京都地裁は罰金150万円の有罪判決を下した。本判決の妥当性については多くの疑問が呈されたが、筆者も「OHM」のコラムで問題点を指摘した。(注1)

本件について今年10月8日、大阪高裁は一審の判決を覆し、一転して無罪を言い渡した。京都地裁は、たとえ技術自身は中立的なものであっても、それが悪用される恐れがあることを開発者が認識していれば罪に問えるという考えだった。それに対し大阪高裁は、違法な使い方を積極的に進めない限り、中立的な技術の開発だけでは罪にはならないと判断した。

この大阪高裁の判決を不服として、大阪高検は10月21日、本件を最高裁に上告した。今後本件は最高裁で争われることになる。

なぜ無罪が望ましいか?

多くのソフト開発の関係者は、本件の有罪判決はソフトの開発者を萎縮させると主張している。確かにその恐れも大きい。それと同時に、筆者は本件の有罪判決が海外から驚きの目で見られていることを前記のコラムに記した。技術的に中立なソフトの開発だけで有罪となった例は海外にはないようだ。

現在、ビジネス環境の国際的な統一を達成し、日本市場を広く海外企業に開放することが求められている。そういう状況の下で、「日本は世界の常識が通用しない、地球上の片田舎だと言われないようにしなければならない」と前記のコラムに書いた。最高裁は本上告を棄却することが望ましい。

(注1)「Winny裁判の教訓」、 「OHM」2007年4月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2007/ar0704ohm.htm)

2009年11月7日土曜日

「いつか来た道」のその後

5種類のOSで97%

10月9日の日経新聞の「ウィンドウズ7」の記事に、2008年のスマートフォンの世界販売台数のOS別シェアが掲載されていた。それによると、Symbian OS、BlackBerry OS、Windows Mobile、iPhone OS、Linuxの5種類のOSが全体の約97%を占めたという。

この統計は筆者にとって感慨深いものだった。というのは、ある雑誌の2005年1月号に、「今後は携帯電話の世界でも、CPU、OSなどの構成品ごとの水平分業が進み、そうなれば、その専業ベンダによる寡占化が進む。これはかつてメインフレームやパソコンが歩んできた『いつか来た道』で、携帯電話も機能が複雑になれば同じ道を歩むことになるだろう」という趣旨のコラムを書いたからだ。(注1)

この統計はスマートフォンの世界でOSの寡占化が進みつつあることを示している。ではこの寡占の世界での競合メンバーは今後どうなるだろうか?

今後の競合メンバーは?

スマートフォン用のOSとして、2008年にはグーグルのAndroidが戦列に加わり、2009年にはパームのPalm Preで使われるwebOSも現れた。一見競合ベンダが増えているように見えるが、中長期的にはやはり寡占化がさらに進むと思われる。

というのは、前記のコラムにも記したように、OSのようなソフト製品の世界では、「強いところはますます強く、弱いところはますます弱く」なる流れを止めることができないからだ。では、今後の勝敗の決め手は何だろうか?

今後の勝者の決め手は?

メインフレームやパソコンの世界ではアプリケーション・ソフトの品質と品揃えがOS間の勝敗の最大の決め手だった。OS自身の良否は二の次だった。これはスマートフォンについても変わらないだろう。ユーザーが直接使いたいのはアプリケーション・ソフトであってOSではないからだ。OSはアプリケーションを動かすための道具に過ぎない。

次に重要なのは、スマートフォンに特有の要件として、アプリケーションの配布システムがあるのではないだろうか? メインフレームやパソコンでは、一般的にユーザーがある程度の知識を持っているので、ユーザーが自分で必要なソフトを選択し、ベンダから直接購入して使用した。しかし、スマートフォンのユーザーにこういう期待は困難だろう。その上品質に対する要求はある意味でパソコン以上だ。

そのためOSのベンダがアプリケーションの配布システムに力を入れている。アップルはiPhone OS用にApp Storeを開設し、グーグルはAndroid Marketを開いた。そしてマイクロソフトもこの10月にWindows Marketplace for Mobileを開いてこれらに続いた。スマートフォンの世界では、たとえ製品はよくても、こういうアプリケーション・ソフトの流通機構が整備されてないと勝ち残れないのではないだろうか?

(注1) 「いつか来た道-携帯電話のプラットフォームはどうなる?」、「Computer & Network LAN」2005年1月号、オーム社(http://www.toskyworld.com/archive/2005/0501itsukakitamichi.htm)

「通信事業者 vs. ケーブルテレビ会社・・・トリプルプレイの勝者は?」のご紹介

電話、テレビ配信、インターネット接続をまとめて提供する「トリプルプレイ」の時代がやってきた。そこでは通信事業者とケーブルテレビ会社がもろに競合することになる。その勝者はどうなる?・・・事業規模、資金力などから明らかだ。しかし、もしNTTが3サービスを独占することになったら市場の活性化は望めない。ではどうするべきか?・・・フランスの事例も紹介して提案。
(「OHM」2009年10月号掲載)

全文は下記をご覧下さい。
HTML: http://www.toskyworld.com/archive/2009/ar0910ohm.htm
PDF: http://www.toskyworld.com/archive/2009/ar0910ohm.pdf

2009年11月6日金曜日

新"Tosky's IT Review" 発刊!

筆者は"Tosky's IT Review" (www.toskyworld.com/itreview)という不定期刊行物を、2004年から筆者が運営するウェブサイト"Tosky World" (http://www.toskyworld.com/)で発行してきました。しかし、同様の内容の記事をオーム社の雑誌「OHM」にも毎月執筆していたため、雑誌掲載記事に力を注ぐことにし、"Tosky's IT Review"は2008年5月を最後に休刊状態が続いていました。

今回この"Tosky's IT Review"をブログの形で再開することにしました。従来は1件がA4 2ページにちょうど収まるようにしていましたが、今後は文字数にはこだわらずに、タイムリーにトピックを取り上げたいと思います。また、従来は一般のウェブの性格上一方的な情報発信でしたが、今後はブログの特長を生かし双方向の意見交換を歓迎します。

また、オーム社の技術総合誌「OHM」などの掲載記事を約1ヶ月遅れで筆者のウェブサイトの"Tosky's Archive" (www.toskyworld.com/archive)に再録していますが、その概略内容もこのブログで紹介しますので、ご意見など頂ければ幸いです。