2016年12月4日日曜日

「クラウドもどき」にご用心!


クラウドが減少!

米国の非営利団体CompTIAが本年9月、最近のクラウドの利用状況の調査結果を発表した(1),(2)。年7月に米国の500社について調べたものだという。その一部を紹介すると、アプリケーション・ソフトについてクラウドを使っている企業の割合は次の通りだそうだ

いずれの分野についても、クラウドを使っている企業数が2014年に比べて減少している。他の分野についても同様だ。

同社によれば、クラウドを利用する企業が減った分、自社のシステムを使う企業が増えているという。なぜなのだろうか? 

「クラウドもどき」の利用が減少

ComTIAによれば、その理由は、IT ベンダーが厳密にはクラウドではないシステムまでクラウドと称して拡販し、ユーザー企業もクラウドの適用範囲を広げてきたが、ユーザーが次第に利口になってその適用範囲を絞り込むようになったためだという。

確かにクラウドの流行が始まった当時、ITベンダーは営業活動を有利にするため、何でもかんでもクラウドにしてしまう傾向があった。こうしてクラウドと似て非なる「クラウドもどき」が世の中に横行した。

例えば、ユーザー側で使われていたソフトをほとんどそのままセンター側で動かし、サービスを提供するようなものである。これだとセンターにユーザーの数だけソフトのコピーを用意する必要があり、コスト低減の効果があまり期待できない。

また、クラウドの利点としてITベンダーが宣伝したものの中には、実は従来のシステムでも実現できたものも多い。

例えば、「クラウドを使えば開発期間が短い」 というのはパッケージソフトの利点と同じだ。また、「クラウドを使えば軽量経営が実現できる」というのは、レンタルサーバやアウトソーシングの利点と同じである。

したがって、クラウドのセールストークには気を付ける必要があった。筆者は、今から6年前に、『クラウド』と聞いたら眉に唾を!」という記事でこの点を指摘した(3)。  

クラウドの定義があいまい

こういう「クラウドもどき」が横行した大きな原因に、クラウドの定義があいまいだったことがある。

米国政府は早くからその弊害に気づき、2009年に商務省の国立標準技術研究所(NIST)がクラウドの定義の明確化を始めた(4)。

これは、クラウドと似て非なるものをクラウドと称することを排除し、真にクラウドの特長を生かせるもののみをクラウドと称するように規定したものだ。こうすることによって、クラウドと称していてもその利点を享受できないシステムが現れることを防ごうとした。

の概要については、2011年「米国政府のクラウドへの取り組み」という記事で紹介した(5)。その定義では、クラウドは概略次の要件を満たすことが求められている。
(a) サービス提供者の人手介入なしにサービスが始められること。
(b) インターネット等の標準ネットワーク経由で各種端末からサービスを受けられること。
(c) サービス提供者が提供する資源が複数のユーザーで共用されること。(マルチテナント)
(d) 資源の利用状況を常時監視し、その結果によって提供資源が自動的に増減されること。

逆に言えば、契約にセールスマンとの面談が必須なもの、専用回線でサービスを提供するもの、ユーザーごとにソフトのコピーを用意したもの、割り当てられる資源が固定しているものは真のクラウドではない。たとえクラウドと称しても、それは名前だけで、クラウドの特長を十分には生かせないからだ。

「バズワード」にご用心

情報産業では、いろいろな技術用語が過去に一時的に大流行した。データベース、MIS (Management Information System)、ダウンサイジング、オープン化、等々である。これらの言葉は、いったんはやり出すと、時代に乗り遅れまいと、新聞、雑誌、ITベンダー、ユーザー企業などみんな使い出し、巷にあふれかえった。こういう技術用語の流行語は「バズワード(Buzzword)」と呼ばれる。

このバズワードはもともと正確に定義づけられていないため、ITベンダーは自社製品を何でもかんでもこれらの流行語に結びつけて、いかにも時代の最先端を行く製品のように印象付けようとした。

「クラウド」はこういうバズワードの一つである。似たような概念は、1960年代以来、ユーティリティ・コンピューティング、アウトソーシング、データセンタ、レンタル・サーバなど、いろいろな名前で呼ばれてきた。したがって、現在のクラウドを真に経営に役立てるためには、現在のクラウドが過去の類似サービスとどう違うのかを正しく認識する必要がある。

今回のCompTIAの調査結果でクラウドの利用者が減ったのは、この認識が甘かったことを示しているのだと思われる。

現在、バズワードとしてはやり出しているものには、IoT (Internet of Things)AI (Artificial Intelligence)、ビッグデータ、VR (Virtual Reality)、AR (Augmented Reality)などいろいろある。これらについても、過去のバズワード同様、「本物」の他に「もどき」が多数現れるだろう。クラウド同様、「もどき」に騙されないよう、ご用心、ご用心。

[関連記事]

(1) "Press Releases - Companies Becoming More Measured in Use of Cloud Computing Options, New CompTIA Study Finds", Sep. 27, 2016, CompTIA
(2) "Trends in Cloud Computing", CompTIA
(3) 酒井 寿紀、「クラウド』と聞いたら眉に唾を!」、OHM、2010年5月号、オーム社
(4) "The NIST Definition of Cloud Computing", NIST
(5) 酒井 寿紀、「米国政府のクラウドへの取り組み」、OHM、2011年1月号、オーム社