2010年3月13日土曜日

グーグルと中国の対決はどこへ?

グーグル vs. 中国政府

今年1月12日、グーグルが中国政府に挑戦状をたたきつけた。

グーグルは従来、インターネットの検閲について中国政府の要求を受け入れてきた。具体的には中国での検索サイト “google.cn”の検索結果から、中国政府に指定された反政府活動などの言葉を含むサイトを除外してきた。しかし、昨年12月中旬、中国が発信源のサイバー攻撃を受けたため、今後はこの自主検閲を取りやめるという。そして、場合によっては中国の検索サイトを閉鎖し、北京の事業所も撤収するという。

これは、グーグルおよび中国にとってどういう意味があるのだろうか?

消された “Tank Man”

中国政府が流布されるのを最も忌み嫌っているインターネット情報に、例えば “Tank Man”の映像がある。

1989年6月の天安門事件の際、長安街を進む人民解放軍の戦車の隊列の前に、ただ一人徒手空拳で立ちはだかり、戦車の上によじ登ったりして、長時間にわたって戦車の進行を止めた男がいた。この男が “Tank Man”として世界的に有名になり、その英雄的行動がたたえられている。

この事件の一部始終を外国人記者が撮影した映像が、インターネットで世界中に流されている。

検索サイトの Googleで “Tank Man”を検索すると、約14万のサイトが表示される。米国の “google.com”、日本の “google.co.jp”、フランスの “google.fr”、ドイツの “google.de”など、どのサイトでも、検索に使用する言語が違うため表示される順序は違うが、ほぼ同様の検索結果が表示される。そして現在は、中国の “google.cn”でも同様に14万以上の検索結果が表示される。(3月13日現在)これは今年になってグーグルが自主検閲をやめたためだろう。

ところが、中国で最も利用率が高く、政府の検閲方針に従っているといわれる「百度(Baidu)」の中国の検索サイト “baidu.com”では、 “Tank Man”というキーワードで検索しても関連のあるサイトは1件も表示されない。同じBaiduでも日本の “baidu.jp”では、約1,520件のサイトが表示されるので、Baidu自身が “Tank Man”の情報を持っていないわけではなく、中国のサイトで検索できないのは明らかに自主検閲の結果だ。

実在した “Tank Man”が消されたのかどうかは不明だが、中国国内のインターネットからは消し去られた。

しかし、中国国内の “baidu.com”などで検索できなくしても、国外の検索サイトを使えばいくらでも検索できる。Googleでは国外のサイトでも検索画面の表示に中国語を使えるので、中国のサイトだけ検索できなくするのはほとんど無意味だ。Googleなどがやってきた自主検閲は実はあまり意味がなかったのだ。

本当に検索できなくしようとするなら、国外の検索サイトへの接続を遮断するしかない。

“Great Firewall”の現状

国外の問題サイトは何も検索サイトだけではない。BBC、CNN、New York Timesなどの報道機関のサイトも、チベットの暴動など、しばしば国民に知られたくないニュースを流す。また百科事典のサイトのWikipediaは中国の検閲の状況や人権問題を詳説した記事を掲載している。そして、Facebook、MySpaceなどのソーシャル・ネットワークのサイトはしばしば反政府運動の連絡の道具に使われる。

そのため、これらのサイトは、過去に何度もブロックされたり、一時的にそれが解除されたりしてきた。

「万里の長城(Great Wall)」に対して、これは “Great Firewall”と呼ばれている。両者とも外敵を寄せ付けないための防護壁だ。

今日現在の中国での “Great Firewall”の状況は分からないが、中国で使われている “baidu.com”で検索したところ、上記のサイトはすべて表示される。(3月13日現在)ということは、現在はこれらのサイト自身が中国で閲覧できる可能性が高いと思われる。もし “Great Firewall”によって閲覧できなくなっているのなら、“Tank Man”のサイト同様、検索結果からも除外すべきで、検索結果に残っているのは片手落ちだ。

ただし、過去に何回もブロックしたり、解除したりを繰り返してきたので、 “baidu.com”の対応に混乱があることも考えられる。

いずれにしても、従来中国政府は上記のように、国外の「有害情報」に対して鎖国を続けてきた。しかし、この “Great Firewall”は完璧なのだろうか?

完全な「情断」は不可能!

世界中に検索サイトは多数あり、Googleの検索サイトだけでも各国に対応して180ある。これらを全部ブロックするのは容易ではない。

そして、たとえ検索サイトや報道機関のサイト、著名な人権団体のサイトなどはブロックしても、14万以上ある “Tank Man”のサイトなどをすべてブロックするのは不可能に近い。

その上、これらのサイトをすべてブロックしたとしても、中国国内から国外のサイトを見に行く方法はいくらでもある。企業内ネットワークで国外の事業所とつながっていれば、“Great Firewall”に邪魔されることなく、国外の事業所経由でインターネットに接続できる。また、国外のサイトが、“Great Firewall”で監視されている正面入り口ではない裏口を用意すれば、いくらでもそのサイトに導き入れることができる。

要するに、“.cn”以外のドメインへのアクセスを全面禁止にしない限り、水際作戦での情報の断絶、つまり「情断」は不可能だ。しかし、もしこれを実行したら、現状ではドメイン名が “baidu.com”であるBaiduも中国では使えなくなってしまう。

小生は今から6年前にオーム社の雑誌に「『情断』が通じない世の中に」という記事を書いた。インターネットの使用を全面的に禁止しない限り、情報の国境封鎖は不可能なのだ。

中国政府に反政府運動を押さえなければならない事情があるにしても、その手段として情報鎖国はもはや通用しない。

[追記] 本ブログ「『グーグル対中国』の報道への疑問」 (2010/4/7) にその後の本件についての報道に対する疑問点の指摘があります。

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