ソフトバンクが次世代PHSに中国移動の通信方式を採用!
4月27日の日経新聞の1面トップに「PHS通信に中国方式」という記事が掲載された。ソフトバンクはウィルコムから次世代PHSの事業を引き継いだが、それに中国移動が採用を予定しているTD-LTEという通信方式を採用するという。
ウィルコムはPHSの後継として次世代PHS (XGP)の開発を進めてきたが、それを今後はTD-LTEに切り替えるという。TD-LTE (Time Division – Long Term Evolution)とは、第4世代の携帯電話の国際標準であるLTEをベースにして、全二重の制御をFD (Frequency Division: 周波数分割)からTD (時分割)に変えたもので、今までは中国移動だけが採用を予定していたものだ。
本記事はソフトバンクの正式発表でなく、上記の内容が「明らかになった」というもので、真偽の程は不明だ。しかし、これはいろいろな問題をはらんでいるので、以下この内容が真実だとして問題点を見てみよう。
ソフトバンクは2.5GHz帯をLTEで活用!
ソフトバンクはウィルコムが次世代PHS用に獲得した2.5GHz帯(注1)の免許を引き継いだが、上記の記事によれば、TD-LTEになっても免許条件に抵触しないよう総務省などと調整するという。
小生は、ソフトバンクがウィルコムの救済に乗り出すと報じられたとき、1月18日の本ブログ「ソフトバンクがウィルコムを獲得!?」 に、もしこの獲得が成功すれば、ソフトバンクは「2.5GHz帯の免許を実質的に獲得することになる。これは今後高速サービスを拡大する上で非常にメリットになる」と記した。また次世代PHSについては、「ソフトバンクは次世代PHSの事業計画をLTEに切り替え、現在のPHSの加入者をLTEで取り込んでいくことも考えられる」と書いた。
その後、ソフトバンクなどによるウィルコムの再生計画が明らかになったとき、3月16日の本ブログ「ウィルコム再生計画の疑問点」 に、「(ソフトバンクは)XGP用の2.5GHzの周波数帯は喉から手が出るほど欲しいはずだ。同社は2007年にこの周波数帯の免許を総務省に申請したが、選に漏れた。それが今回図らずも手に入るのだ。同社は、次世代のLTEを含めたサービスの拡大に、この周波数帯を活用したいと考えているのではないだろうか?」と記した。
今回の日経新聞の記事が本当だとすると、まさに小生が思っていた通りになったわけだ。
ウィルコム支援計画の策定中は、こういう話は報道されなかったが、ソフトバンクの孫社長が最初からこういう考えを持っていたことは十分考えられる。
FD対TDの争い
ここで問題は、2.5Ghz帯をLTEに使うとして、なぜ全世界で広く使われる予定の、全二重に周波数分割を使う(FD-)LTEでなく、中国でしか使われない時分割のTD-LTEなのかということだ。
その理由は、ソフトバンクが獲得した2.5GHz帯では、上り用と下り用に一対の周波数帯域が必要な(FD-)LTEは使えないが、TD-LTEなら使えるからだ。ソフトバンクはTD-LTEを選択するしか道がなかったのである。
では、ソフトバンクは中国移動とともに世界中のLTEの中で少数派になるのだろうか? 実は、そういう状況がここ数ヶ月で大きく変わりつつある。
当初LTEは、第3世代からの技術の流れを引き継いで、全二重に周波数分割を採用する(FD-)LTEが広く普及する見通しだった。しかし、一対の周波数帯域が必要な(FD-)LTEはどの国でも周波数の割り当てが難しいため、最近周波数の割り当てが容易なTD-LTEが見直されてきた。
10億の人口を抱えるインドでもTD-LTEが提案されている。もしインドでも採用が決まれば、中国と合わせて20億人以上の市場で、TD-LTEが他の通信方式と競争することになる。
そのため、アルカテル・ルーセント、モトローラ、シスコ・システムズ、ノキア・シーメンス・ネットワークス、クアルコムなど、世界中の大通信機器メーカーがTD-LTEの市場への参入を図っている。
次期WiMAXがTD-LTEに!?
もう一つTD-LTEに有利な話がある。それは、WiMAXが次世代にはTD-LTEを採用する可能性が出てきたことだ。
小生は「OHM」2008年8月号のコラム「WiMAXとLTEが合流?」 に、両者の基礎技術は非常に近いので、第4世代の携帯電話がLTEになれば、WiMAXの存在理由は薄れ、WiMAXはLTEに合流することになるのではないかと記した。WiMAXの全二重制御は時分割なので、合流するときはTD-LTEの方が相性がいい。
米国でWiMAXの事業を展開しているクリアワイアのビル・モロウCEOはこの3月の講演で、「われわれはLTEと戦うつもりはない。LTEにWiMAXの代わりが務まるようになったら、必要ならLTEを使う」と言ったという。(1) そして同社は、3GPP(第3世代の携帯電話の規格の国際機関)に同社が現在使っている2.6GHz帯(注2)のTD-LTEの規格化を依頼し、3GPPに受理されたという。(2)
こうして、TD-LTEがWiMAXのあとを引き継ぐことになれば、現在WiMAXのユーザーは全世界で6.2億人ということなので、TD-LTEは一大市場を引き受けることになる。
TD-LTEが国際標準の一つに!?
このような状況から、将来TD-LTEが中国市場だけでなく、全世界で国際標準の一つとして使われるようになる可能性がある。
現在日本では第2世代のサービス終了に伴って空く1.5GHz帯を(FD-)LTEに使うという話がある。しかし、1.5GHz帯の(FD-)LTEは、現在のところ他の国では使われないようなので、機器の調達などに問題が生じる恐れがある。
一方、ソフトバンクが獲得した2.5GHz帯のTD-LTEは広く普及し、世界中の通信機器メーカーが機器を供給するようになるかもしれない。中国移動のTD-LTEは2.3~2.4GHz帯で周波数が多少違うが、本周波数帯と2.5~2.6GHzを同一ファミリーのチップで対応している半導体メーカーもある。
もしそうなれば、従来LTEへの対応で最も遅れていたソフトバンクが、一挙にNTTドコモやKDDIより有利な地位を獲得する可能性もある。そのときは、TD-LTEはもはや前記記事が標題に使った「中国方式」ではなくなっている。
(注1)正確には2,545~2,575MHzの30MHz
(注2)正確には2,496~2,690MHzの194MHzで、ソフトバンクが獲得した2.5GHz帯を含む。
(1) “Clearwire’s Morrow re-ignites 4G standards debate”, FierceWireless, March 24, 2010
(2) “Clearwire Paves Way for LTE in US”, Light Reading Mobile, March 29, 2010
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