2015年1月28日水曜日

Windows 10の無料化にご用心!


Windows 10が無料に!

マイクロソフトは2015年年1月21日に、次期OSのWindows 10へのアップグレードを無料にすると発表した。Windows 7やWindows 8.1を使っている個人ユーザーが、Windows 10のリリース後1年以内にアップグレードする場合を対象にするという。

従来、一つのバージョン内でのバグの修正やセキュリティの改善は無料だったが、今後は一定期間内は無料で機能の追加・改善も行い、常に最新状態に保つようにするという。

なぜ無料にしたのか? 

 今回の発表では、今後有料の新OSへの切り替えがどういう間隔になるのか不明だが、マイクロソフトにとって減収になるのは確実だ。にもかかわらず、このように戦略の大変更を決断したのはなぜなのだろうか? 限られた発表内容から推測してみよう。

OSの更改を促進するため

まず第1に考えられるのは、2012年10月にリリースされたWindows 8の評判が極めて悪かったことだ。そのため、急遽翌年10月にWindows 8.1を出したが、根本的な問題はまだ解決されていない。

こういう状況から一日も早く脱却しないと、マイクロソフトの評判を落とすと判断したのだと思われる。そして、全世界で使われているWindows 8.1などを一刻も早くWindows 10に切り替えてもらうには、期限を切ってアップグレードを無料にするのが最も有効だと判断したのだろう。

グーグルやアップルに対抗するため

最近は、スマートフォンやタブレットの伸びが著しく、それらに使われるOSとしては、アップルのiOSやグーグルのAndroidが圧倒的に多い。そして、iOSやAndroidは毎年のように無料でアップグレードされる。

また2013年からアップルはパソコン用のOS Xも無料でアップグレードできるようにした。

今後の成長が期待できるスマートフォンやタブレットの市場で、マイクロソフトはシェアを伸ばせず苦戦している。そこで、グーグルやアップルに匹敵するシェアを獲得するには、マイクロソフトも頻繁にOSをアップグレードするとともに、それを無料にすることが不可欠だと判断したのだろう。

マイクロソフトは、スマートフォンやタブレットでのシェアの獲得にパソコンでの圧倒的なシェアを活用するため、今回Windows Phoneを止め、Windows 10でパソコンからスマートフォンまですべてカバーするようにした。スマートフォンやタブレットはARM系のプロセッサを使うため、OSの作りは別になるが、ユーザーから見た統一性を向上することによって、iOSやAndroidとの差別化を図ろうという意図だと思われる。
  
製品の販売からサービスの提供へ

従来、ソフトのビジネスは、媒体に書き込んだパッケージソフトの販売が中心だった。しかし近年は、ソフトをサービスとして提供し、使った分だけ費用を請求するクラウドサービスが普及してきた。いわゆるSoftware as a Service (SaaS)である。

そして、そこまで行かなくても、販売したソフトを自動または半自動的に更新して、常に最新の状態に保ち、機能の充実、信頼性の向上を図ることが一般化してきた。特に、スマートフォンやタブレットのソフトではこれが普通で、知らないうちに変わっていることが多い。つまり、サービスとしての提供に一歩近づいてきている。

こういう状況になると、従来のように数年に1回の有料アップグレードの時にしか機能を強化しないのでは競争力を維持できなくなる。今回のマイクロソフトの戦略変更の背景には、こういう時代認識があるのではないかと思われる。

マイクロソフトはすでにワードプロセッサや表計算のソフトのSaaSでの提供を始めている。今回の発表時の質疑応答で、Windowsは将来SaaSになる可能性があるかという質問に対し、マイクロソフトのナデラCEOは、「今日の発表は基本的なビジネスモデルの変更を意味するものではない」と否定したという(1)。しかし、将来の可能性としてはそういうこともあり得ると考えているかもしれない。

ユーザーや関連企業への影響は?

では、今回のマイクロソフトの戦略変更は、ユーザーや関連企業にどういう影響を与えるだろうか?

ユーザー: アップグレード時期の自由度が奪われる

従来、数年ごとにリリースされる新バージョンに対し、不要ならアップグレードを見送り、旧バージョンを使い続けてきた人は多い。費用や手間を節約するためだけでなく、新製品に付きもののバグによる被害を避けるためだ。

それだけでなく、新バージョンでは従来使ってきた機能が使えなくなることがままある。最近の例では、Windows 8で従来のデスクトップ画面がなくなってしまったのが極端なケースだ。これはさすがに翌年Windows 8.1で復活したが。

特に不自由なく使っているソフトは、こういうリスクを冒してまでアップグレードしない方が一般的に得策である。いわばシステムを「塩漬け」にして使い続けるのだ。小生が使っているソフトには、こうしてアップグレードせずに10年以上使い続けているものも多い。

ところが今回の方針変更で、バグの修正と新機能の追加がともに無料になって頻繁に行われるようになると、新機能の使用を拒否することが難しくなる恐れがある。

ユーザーはマイクロソフトに対し、従来以上に「一蓮托生」にならざるを得なくなる。これは、スマートフォンやタブレットの時代の必然なのかもしれないが。 

関連ハード、ソフトのベンダー: OSの新バージョンに便乗した拡販が不可能に

従来、OSの新バージョンのリリースに合わせて周辺機器やアプリケーションソフトの新製品を発売し、OSの新バージョンでは旧製品を使えなくして、半強制的に新製品に買い替えさせてきたベンダーが多い。新製品と言っても、新機能はほとんどなく、OSの新バージョンに便乗して名前だけの新製品を発売する企業も見受けられた。

今回のマイクロソフトの戦略変更で、OSの機能の追加・変更が小出しに行われるようになるため、こういう便乗商法が難しくなる。

従来ハード、ソフトのベンダーは、新OSとの整合性の確認費用をこういう方法で回収してきた。今後は、機能の追加・変更の頻度の増加に伴い、整合性確認業務が増えるが、こういう方法での費用の回収は困難になる。

ハード、ソフトのベンダーは、今後OSとは独立して独自の間隔で新製品を発売する必要に迫られる。これは、まともな姿になるだけだが。

パソコンメーカー: パソコンの買い替え間隔が長期化

従来、Windowsの新バージョンのリリース間隔は一部を除き3~5年だった(2)。そして、新バージョンになるたびに、OSもアプリケーションソフトもより大容量のメモリを要求した。一方、パソコンのメモリ容量や通信速度の進歩も激しかったため、Windowsの新バージョンに合わせてパソコンを買い替える人が多かった。

そして、Windowsを自分でインストールするのは手間がかかるため、Windowsがプリインストールされたパソコンの販売が一般化した。こうして、Windowsとパソコンが足並みをそろえて切り替えられてきた。

ところが今回のマイクロソフトの方針変更で、アップグレードが数年に1回の大行事から、毎年のように行われる小さな出来事に変わる。そして、有料の新OSの発売間隔が今後どうなるのか不明だが、少なくとも従来より相当長くなると思われ、その間細かい機能の追加・変更は無料で行われるようになる。

そのためユーザーがパソコンの買い替えの必要性を感じる間隔が従来より長くなると思われる。また、ハードウェア技術の進歩も減速してゆくので、ハード面からも頻繁に買い替える必要性をあまり感じなくなる。

こうしてパソコンを買い替える間隔が延び、パソコンメーカーの減収を招く恐れがある。

[関連記事]

(1) "Microsoft: Windows 10, it's on us", Computerworld

(2) "Windows lifecycle fact sheet", Microsoft


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