2015年11月9日月曜日

「IoT(モノのインターネット)の時代来る!」のご紹介

(株)エム・システム技研の「MS TODAY」2015年10月号の上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要]
人間の介入なしにインターネットで通信を行う機械が増えている。監視カメラ、建設機械、クルマのプローブ情報システム、自動販売機、遠隔医療など、その実例をご紹介する。今後の発展が期待されるが、将来の量的な予測はかなり難しそうだ。 --->全文を読む

2015年8月11日火曜日

ETC2.0の不可思議


ETC2.0とは?

ETC (Electronic Toll Collection)システムとは、有料道路のゲートで、無人で料金を徴収するシステムである。日本では、一部の高速道路で2001年から使われるようになった。

日本では、「ETC」は国交省の管理下の旧道路公団系の有料道路でだけ使われる登録商標だが、他の国ではこれは普通名詞として使われている。

ETCはJRのSUICAなどと同様、非接触でデーを送受信するRFID (Radio Frequency Identifier)の技術の一種で、SUICAなどに比べ離れた物の間でデータをやり取りできる(1)。

国交省はこのETCの改良型であるETC2.0の開発を続けてきた。これは、ゲートでの料金徴収に使えるほか、パーキングエリアでの道路情報の提供などにも使われてきた。

そして国交省は、この新しい車両/路側機間のデータ送受信機能を使って、2015年8月からプローブ情報の提供を始めるという。

プローブ情報とは、走行中の車両から位置や速度のデータを集め、それを集計して区間ごとの平均速度を算出し、それを各車両に配信してルートの選択や目的地までの所要時間の推定に役立てるものである。走行中の車両自体が道路の混雑度の検出器(プローブ)として使われるため、プローブ情報と呼ばれるが、フローティング・カー・データとも呼ばれている。

自動車会社やカーナビのメーカーが提供しているプローブ情報は、データの送受信に第3世代や第4世代(3G/4G)の携帯電話回線を使っているが、国交省のシステムは、高速道路に沿って約1,600か所に設置したETC2.0の路側機とETC2.0用車載器を使う。路側機はおおむね10~15kmごとに設けられるという(2)。

国交省がETC2.0に力を入れてきた理由の一つは、高速道路上に設置され、現在VICS情報の配信に使われている電波ビーコンの設備が老朽化しつつあるためだという。しかし、どんな設備も老朽化し、適切な時期に更改を要するのは当たり前で、これをプローブ情報を含んだETC2.0を導入する理由にするのは無理があるように思う(3)。

既存の道路交通情報との関係は? 

国交省の発表資料で、高速道路でのETC2.0の機能は一応分かる。しかし、一般道路ではどうなるのか、従来VICSが提供していた情報はどうなるのかなどを含め、道路交通情報全体の説明は不十分だ。発表資料から、おおよそ次のようになるようだ。

ETC2.0対応の車載器を装備した車両は、高速道路では、従来VICSの電波ビーコンで受信していた道路情報に加え、ETC2.0のプローブ情報も利用できるようになる。一方、一般道路上ではETC2.0は使えず、従来通りVICSの受信機でVICSの道路情報を使うことになる。つまり、高速道路ではVICSが使えず、一般道路ではETC2.0が使えないため、両方の送受信機が必要になる。

高速道路の電波ビーコンがなくなるため、ETC2.0のプローブ情報は不要と思ってもETC2.0の車載器を購入する必要がある。

現在、道路上の車両感知器としては、超音波式、光学式、ループ式など、多種のものが使われていて、これらの検知器の測定データが警察系の日本道路交通情報センター(JARTIC)に集められ、VICSセンターを経由して利用者に提供されている。今回、道路交通情報としてこれらにETC2.0のプローブ情報が加わる。これらのデータ全体を踏まえて区間ごとの混雑度を推定するのはどこで行われるのだろうか?

そして、各自動車会社は、従来VICSから得た情報と自社のプローブ情報を合わせて区間ごとの混雑度を推定しているが、ETC2.0のプローブ情報はどこでこの情報に統合されるのだろうか?

 利用者に望ましい姿は?

(1) すべての道路情報がすべての道路上で利用できること

クルマの運転者にとって、一般道路と高速道路を組み合わせたルートを使って移動するのはごく普通で、渋滞状況に応じて、高速道路から一般道路に切り替えたり、その逆を行ったりすることも多い。こうしてルートを臨機応変に選択するためには、一般道路と高速道路の全道路情報が、一般道路上でも高速道路上でも利用できることが望まれる。

したがって、一般道路上ではETC2.0が使えず、高速道路のプローブ情報を利用できないのは、ETC2.0の大きな問題だ。

(2) 一つの通信手段ですべての情報が入手できること

最近のクルマには電波の送受信機がやたらと多い。VICSの電波ビーコン用/光ビーコン用、ETC用、AM/FMラジオ用、テレビ用、衝突防止用、3G/4Gの携帯電話回線用などだ。すべてを一つにまとめることは不可能だが、できるだけ電波の種類を減らした方が、車載器の負担が減り、路側機の設置や保守も楽になる。

そのため、一般道路でも 高速道路でも、同一通信手段で道路交通情報の送受信ができることが望まれる。

運転者に必要な、ガソリンスタンド、トイレ、食堂、コンビニなどの場所とか、目的地の天気、直近のニュースなども、同じ通信手段で入手できることが望ましい。

入手したい情報は運転者によって異なり、多岐にわたることを考えると、3G/4Gのインターネット情報をスマートフォンまたは専用車載器で利用できるのが最も簡便だ。すべてのクルマが常時インターネットに接続されているのが当たり前になる「コネクティッド・カー」の時代になるからである。

最近は、グーグル、アップルなどからスマートフォン用のカー・ナビゲーション用ソフトが提供されている。これを車内で、スマートフォンで直接使ってもいいし、ダッシュボードの大型ディスプレイやスピーカーに接続して使ってもいいようになっている。

3G/4Gのインターネットを使えば、サービス提供者にとっても、路側機の設置等が不要になり、費用負担を大幅に節減できる。

したがって将来は、情報提供手段としてのVICSやその拡張版であるETC2.0は不要になるのではないだろうか?

(3) 民営化推進によるサービスの向上と市場の活性化 

国鉄も、電電公社も、民営化されて競争原理が導入され、サービスが向上し、関連市場が活性化した。

道路の混雑度の計測は、スピード違反の取り締まりなども兼ねて、警察関係の組織で実施するのが実際的かもしれないが、そのデータをプローブ情報などと組み合わせて、利用者が使い易いように加工して提供するのは、民間企業で十分だと思われる。

政府機関がデータの計測以上のことをするのは、サービス競争の妨げになり、民業圧迫と言われかねない。税金を使って計測したデータの利用者への提供を政府機関が独占するのは許されることではない。ETC2.0のプローブ情報は、加工せずに民間企業に公開するべきだ。

インターネット上では、ETC2.0は、国交省の役人の天下り先確保のためのプロジェクトだという意見も流れている。

 (4) プローブ情報の標準化

プローブ情報は、走行している車両から位置や速度のデータを集めて、道路の混雑度を測定する。したがって、一つのプローブ情報システムに属している車両が多ければ多いほど混雑度の測定精度が向上する。

現在日本には、ホンダの「インターナビ」(4)、トヨタの「T-Connect」(5)、日産の「CARWINGS」(6)、パイオニアの「Smart Loop」(7)など、多数のプローブ情報システムがある。「インターナビ」は2003年に自動車会社として世界で初めて提供を開始したもので、プローブ情報の活用では、日本は世界で最も進んでいる。

プローブ情報システムの大きな問題は、各社のシステムがまったく独立に運営されていて、データを相互に活用することが困難なことだ。データ形式が統一されていて相互に利用できるようになれば、データ量が格段に増え、混雑度の測定精度は飛躍的に向上する。

したがって、プローブ情報について政府がやるべきことは、民間企業に割り込んで、もう一つのプローブ情報システムを追加することではなく、車両の位置や速度のデータを相互活用する仕組みを構築することである。プローブ情報システムの追加は民間企業でいくらでもできるが、データの標準化、相互利用の仕組み作りは民間だけでは難しいと思われるからだ。

関連記事]

(1) 「ETCの概要」、 ITSサービス高度化機構
(2) 「ETCは、ETC2.0へ」、国土交通省
(3) 「電波ビーコン(2.4GHz)の今後の扱いについて」、国土交通省
(4) 「インターナビとは」、 本田技研工業(株)
(5) 「T-Connectとは」、トヨタ自動車(株)
(6) 「カーウィングスとは」、日産自動車(株)
(7) 「スマートループとは?」、パイオニア(株)

2015年7月15日水曜日

「3G/4Gか、Wi-Fiか?・・・モバイル通信の変遷」のご紹介

(株)エム・システム技研の「MS TODAY」2015年7月号の上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要]
旅行先 での通信方法はスマートフォンやタブレットの出現で一変した。
インターネットの接続方法には3G/4GとWi-Fiがあり、これらを適切に使い分けることが重要だ。

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2015年5月15日金曜日

商品用無線タグの長~い道のり


ファーストリテイリングが無線のICタグを採用

2015年5月5日の日本経済新聞によると、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが、今夏をめどに全店舗で無線のICタグを導入するという。これによって、買い物かごの全商品の合計額が瞬時に分かるため、レジでの清算時間が大幅に短縮されるということだ。

また、これを利用して、試着はしたが買わなかった商品なども分かるため、消費者の行動を従来より詳しく捉えることができ、マーケティングに反映できるという。

こういう小売業界での無線タグの活用は、実は今から16年前の1999年に米国で検討が始まったものだ。それ以来、関係企業による悪戦苦闘が続いていたが、紆余曲折を経て、やっと日本でも日の目を見ようとしている。

この機会に、今までの経緯を振り返ってみよう。
  
ウォルマートの壮大な計画が挫折

1999年に、マサチューセッツ工科大学に「オートIDセンター」が設立されて、無線タグを商品に適用する技術の検討が始まった。これは、2003年に「EPC (Electronic Product Code)グローバル」という新組織に引き継がれた(1)。

小売業ではウォルマートがオートIDセンターの時代から参画し、最も力を入れてきた。同社は2003年に、2005年1月から一部の納入業者に、商品に無線タグを付けることを義務付け、2005年6月からは全納入業者にそれを義務付けると発表した(1)。

しかし、当初から個別の商品に無線タグを付けるのは負担が大きすぎるため、まずパレット(商品を載せて運搬する台)やケースに付けることにした。

そして、最終的には無線タグを製造現場から流通網を経て購入者まで取り付けておくことを考えていた。一つの商品の揺り籠から墓場までを無線タグで管理しようというのだ。こうすることによって、製造工程上の問題の究明、流通過程での盗難の防止、アフターサービスの質の向上など、納入業者や顧客も恩恵を被るので、それぞれ応分の費用負担をするのが妥当だと考えた。

しかし、この考えは納入業者になかなか受け入れてもらえず、無線タグの添付は思うように進まなかった。そのためウォルマートは2007年に戦略を変更した(2)。

サムズ・クラブで再挑戦

ウォルマートには「サムズ・クラブ(Sam's Club)」という会員制の倉庫型店舗がある。倉庫のような店舗に梱包したままの商品が並べてある。商品のバラ売りはしないため、販売単位が大きい。

販売単位ごとに無線タグを付けないと、レジの合理化などで効果を上げることが難しい。一般の店舗ではその早期実現は困難だが、販売単位が大きいサムズ・クラブなら納入業者の協力も得やすいだろうと考えた(2)。

そこで、2008年1月から一部の流通センターに納めるパレットについてこれを義務付け、順次対象を拡大して、2010年10月にはサムズ・クラブの全商品について販売単位ごとにタグを付けることを目標にした(2)。

そして、納入業者がタグを付けない時はサムズ・クラブが取り付けるが、その時は、当初2ドル、2009年からは3ドルのペナルティを課すことにした。

このペナルティは、その後12セントに引き下げられた(3)。その後の情報がないため、実態がよく分からないが、ペナルティの大幅引き下げなど、この計画も目論見通りにはいかなかったようだ。

衣料品に絞って挑戦

無線タグの計画が思惑通りに進まなかった原因は何だろうか?

まず第1に、最終的には個別商品に無線タグを付けることによって、従来のバーコードに替ってレジでの清算に使える必要がある。しかし、低単価の商品にすべて無線タグを付けるのは難しいので、まずパレットやケースに付けることから始めた。その結果レジでの清算には使えず、効果が半減した。

そして第2に、無線タグの大きい効果として、店頭での品切れ防止による販売高の増加が期待されたが、そのためにも個別の商品に無線タグを付けることが必須だった。

特に、色、サイズ、デザインなどの種類が多く、他の方法では品切れ防止が困難な衣料品について効果が期待された。また、衣料品はそれなりの値段なので、価格的にも無線タグの添付に耐えられると思われた。

そのため、従来の計画を見直し、衣料品類に絞って個別の商品に無線タグを付ける試みが多くの小売店で実施された。

米国の衣料品などのデパートのディラーズ(Dillard's)は、2007年にジーンズなどの個別商品に無線タグを付けるテストを開始した(4)。

また、同様な業種のブルーミングデールズ(Bloomingdale's)も、2008年に一部の商品に無線タグを付ける試験を始めた(5)。

そして、ウォルマートも2010年にジーンズや下着類の個別商品に無線タグを付け始めた(6)。

ウォルマートの教訓 

こうして約15年前に始まった壮大な計画は、対象商品と目的を絞って、やっと軌道に乗り始めた。そして今回、ファーストリテイリングがこれら各社に続くという。

この世界の道なき道を開拓してきたのはウォルマートで、その功績は評価したい。しかし、その進め方には反省点もあるようだ。

第1に、初めから大風呂敷を広げすぎたようだ。何事にも、"Think Big, Start Small"が重要である。日本語で言えば、「着眼大局、着手小局」だ。

第2に、納入業者(サプライヤー)に負担を強要しすぎたようだ。日常の商売での力関係を過信しすぎたと思われる。

[関連記事]

(1) 酒井 寿紀、「バーコードを置き換えようとするRFIDの市場動向」、Computer & Network LAN、20041月号、オーム社

(2) 酒井 寿紀、「ウォルマートが戦略を変更 ~商品用ICタグのその後」、OHM、2008年10月号、オーム社

(3) "Sam's Club Reduces Tagging Fee", Jan 19, 2009, RFID Journal

(4) "Dillard's Gears Up for Item-Level Pilot", Aug 22, 2007, RFID Journal

(5) "Bloomingdale's Tests Item-Level RFID", Aug 26, 2009, RFID Journal

(6) "Wal-Mart Relaunches EPC RFID Effort, Starting With Men's Jeans and Basics", Jul 23, 2010, RFID Journal
 

2015年5月9日土曜日

任天堂とDeNAの提携が意味するもの


任天堂とDeNAが提携

2015年3月17日に、任天堂とDeNAが業務・資本の提携を発表した。任天堂が所有するゲームの知的財産(IP)を、DeNAが持っているネットワーク・インフラの技術を使ってスマートフォンなどに配信する新事業を共同で始めるという。

その配信先には、スマートフォンのほか、タブレット、パソコンが含まれ、これらを総称してスマートデバイスと呼んでいる。これにはゲーム専用機は含まれない。

この共同事業の成果は、両社の貢献度に応じて按分されるという。両社は、主としてIPとネットワークインフラというまったく性格の異なるもので貢献するので、売上の按分は相当難しそうだ。

本提携に伴い、両社は、それぞれ所有する自社株の約220億円相当を相手に渡すという。その結果、任天堂はDeNAの株式の10%を所有し、DeNAは任天堂の株式の1.24%を所有することになるということだ。

果たしてゲーム専用機は生き残れるか?

今回の業務提携の内容は大きく二つに分かれる。その第1は、任天堂が持っているIPを活用して、スマートデバイスにゲームを配信するものだ。

但し、任天堂がゲーム専用機用に開発したゲームアプリを、単にそのままスマートデバイス用に移植することはしないという。あくまで、従来のIPを「活用」したアプリを新規に開発して、スマートデバイスに配信するということだ。

任天堂は、スマートデバイスにも配信することで、ゲーム専用機の売り上げが減少することを非常に恐れている。ゲーム専用機のビジネスを任天堂の「本業」として死守しつつ、本提携で、その上にスマートデバイスでの売り上げを積み上げようという考えだ。

そのため、今回の発表が、任天堂はゲーム専用機の市場から力を抜くのではないかという印象を与えることを非常に警戒している。それを防ぐため、来年「NX」という新しいゲーム専用機を発表すると予告した。

しかし、このNXの予告だけでゲーム専用機に対するダメージを軽減できるかどうかは疑問である。ゲームの中には、碁、将棋、カードゲーム、パズルなど、必ずしもゲーム専用機を必要としないものも多いからだ。現に、電車の中でスマートフォンで遊んでいる人が軒並みいる。

そして、現在でも、スマートフォンの画面をHDMIケーブルでテレビの大画面につなぐことができるが、近年中にこれが無線でつながるようになるだろう。そうなれば、据置型ゲーム機の一部もスマートフォンやタブレットで置き換えられるようになると思われる。

マルチプラットフォームに挑戦

上記の第1の提携内容だけで、任天堂が現在持っているIPを生かし、スマートデバイス上でも新規に顧客を獲得できれば、任天堂にとっては一番ハッピーかもしれな。しかし、これはそう簡単にはいかないことを同社も承知しているようだ。

そのため今回の提携の第2の内容は、スマートデバイスとゲーム専用機をすべて対象とする新サービスを2015年秋に開始することを目指すという。新サービスはこれらの多様なデバイスの「架け橋」の役目を果たし、これら複数のデバイスを統合した新しい一つのプラットフォーム上で新しいソフトを提供するという。

このプラットフォームには、スマートフォン、タブレット、パソコンなどのスマートデバイスと、携帯型ゲーム機、据置型ゲーム機、新ゲーム専用機NXがすべて含まれるという。個々のデバイス上のソフトがどこまで一本化されるのか不明だが、少なくともユーザーに対しては「一体型サービス」として提供されるということだ。

これは、ゲーム専用機とスマートデバイスを切り離して扱う第1の提携内容と矛盾するものだ。今後任天堂は両者をどう並立させていくのだろうか?

ITの多くの分野で、個々のハードごとに個別に開発されたソフトが、市場が成熟するとマルチプラットフォーム対応に変化してきた。スマートデバイスの出現で、今後は任天堂に限らず、ゲームソフトのマルチプラットフォーム化が進むものと思われる。ソフトがマルチプラットフォームになるということは、ソフトとハードの市場が分離することにもつながる。 

そして、ITの各分野で、ソフトとハードの市場の分離はアーキテクチャの事実上の標準の確立へと進んでいった。ゲームの市場には他の市場と異なる点もあるが、今後事実上の標準の確立への圧力が増すものと思われる。

「スマートフォンありき」を前提に戦略策定要!

 1983年に任天堂がファミリーコンピュータを発売したときは、ほとんどの家庭にテレビ受像機があった。任天堂は、この「テレビありき」を前提にゲーム機を開発・発売して大成功を収めた。

一方、2007年にアップルがiPhoneを発売して以来、スマートフォンが急速に普及し、今では中高生もみんな電車の中でスマートフォンのゲームに熱中している。今や「スマートフォンありき」の時代になったのだ。

そして、スマートフォンはタブレットやパソコンと共通のアプリの世界を構成し、もはやゲームもこのスマートデバイス群の一大世界を無視しては前へ進めない。これはゲームに限らず、デジカメ、電子辞書、電子書籍リーダなどの市場でも同じである。

では、ゲーム専用機は不要になるのだろうか?

そんなことはない。加速度センサを備えたコントローラやWiiのバランスボードのようなもの、マイクロソフトのKinectのようなジェスチャー認識機能などは、現在のスマートデバイスだけでは実現できない。

したがって、これらのセンサ機能とスマートデバイスを組み合わせて、いかに安く、面白い遊び方を提供するか、そして、そこからどういう方法で対価を受け取るようにするかが、今後のゲーム各社の大きな課題であろう。

任天堂は、2008年度のピーク時には、売上が1.8兆円以上、営業利益が5,500億円以上あった。しかし、2014年度には、売上が約5,500億円と1/3以下に減り、営業利益は4年ぶりにやっと黒字なったところだ。

市場環境がまったく変わってしまったため、従来の延長線上に解を求めようとしても、もはや昔日の栄光を取り戻すことは難しいだろう。「スマートフォンありき」の新市場環境の下で、どうビジネスを展開すべきかを考える必要がある。

そういう意味で重要なのは、第2の提携内容の今後の展開だ。今回は具体的な内容の説明がなかったが、今後の発表が期待される。

[関連記事]

(1) 「任天堂株式会社と株式会社ディー・エヌ・エーの業務・資本提携合意のお知らせ」 、2015年3月17日、任天堂株式会社、株式会社 ディー・エヌ・エー
  


2015年4月29日水曜日

「ソフトはハードより固い?」のご紹介

(株)エム・システム技研の「MS TODAY」2015年4月号の上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要]
現在広く使われているソフトは世に出て20~30年以上経つものが多い。
それは、ソフトの世界は「一強多弱」になりがちだからだ。
「多弱」になるソフトを選ぶと後で苦労するので、ソフトの選択にはハード以上に注意を!
--->全文を読む

2015年3月9日月曜日

どうにも止まらない!・・・リアル書店での電子書籍販売


書店に電子書籍販売コーナー

本年2月27日の日本経済新聞は、国内の書店や出版社100社超が電子書籍の共同販売に乗り出すと報じた。電子書籍を販売する専用コーナーを各書店の店頭に設けて需要を喚起するという。

専用コーナーには電子書籍のカードが陳列してあり、客は読みたいものを選んでレジで代金を払う。カードを購入した客は、カードに記載されているダウンロード用コードをスマートフォンなどに入力して電子書籍をダウンロードする。

インターネットの電子書店で電子書籍を買うにはクレジットカードが要るが、書店なら現金で買えるので、クレジットカードを使わない人でも買えるのがメリットだという。

しかし、電子書籍はインターネット上で流通しているコンテンツで、いつでも、どこからでも、読みたい本を指定すれば瞬時に入手できる。それなのに、わざわざ書店に出かけ、ダウンロード用コードを入力する必要がある方法を選ぶ人は果たしてどれだけいるだろうか?

裏で糸を引く経産省

この日経新聞の記事は報じていないが、オーム社の「OHM」2014年3月号に記したように、このプロジェクはもともと経産省が始めたものだ(1)。

2010年の補正予算で、経産省の「書籍等デジタル化推進事業」に2億円の予算が付き、この事業をいくつかのテーマに分割して、それらを推進する事業者を2011年2月3日に公募した(2)。その時のテーマの一つが「書店を通じた電子出版と紙の出版物のシナジー効果の発揮」で、これに対する日本出版インフラセンター(JPO)の応募が採用された。こうしてこのテーマが4,900万円の予算でJPOに委託された。

この公募期間は2011年2月3日から3月4日という、公募の発表から1か月間の短日程だった。急遽補正予算が決まったので、公募する側にも、応募する側にも、十分に検討する時間がなかったと思われる。実際には、この2億円の補正予算は全額2011年度に繰り越されて施行された。

 JPOは2011年9月にウェブを使って電子書籍に関する消費者の意向を調査した。その結果から、書店の店頭での電子書籍の販売は電子書籍の普及と書店の活性化に有効だと判断した(3)。この調査や判断にも問題があったが、前記の記事に記したのでここでは省略する(1)。

この事業は、2012年度にはJPOが推進元になる「フューチャー・ブックストア・フォーラム」に引き継がれた。

2013年12月には、JPOが中心になって「電子書籍販売推進コンソーシアム」が設立された。このコンソーシアムには、三省堂、紀伊国屋、有隣堂などの書店、トーハン、日本出版販売などの取次会社、ソニー、楽天などの電子出版企業など13社が参加した。そして、2014年6月から2015年2月にかけて、三省堂(神田)、有隣堂(秋葉原)などの4書店で、楽天KoboとBookLive!の二つの電子書籍について実証事業を実施した(4)。

この実証事業の結果、書店での電子書籍販売は有効と判断され、2015年3月から本格的に事業化することになった。当初の3か月間は、2015年2月までの実証事業に参加した4リアル書店と2電子書店で実施し、以後参加企業を増やす予定という(5)。 

盗人にも三分の理? 

この実証事業の結果に基づいた判断は果たして妥当だったのだろうか? 実証事業の結果の詳細が本年3月2日に発表されたので見てみよう(6)。

2014年6月16日から11月21日までの約5か月間に、4書店で合計1,358冊の電子書籍が売れたという。これは平均して1書店で月当たり約68冊売れたことになる。つまり平均して1日2冊強で、非常に少なかったようだ。

この数字から、全国の書店で電子書籍を扱うようになり、その認知度も上がった時の売れ行きを推定することはかなり難しい。しかし多少乱暴でもいいからそれを推定することが事業計画の是非を判断するためには必須で、実証事業の最大の目的だと思う。この点について全く言及がないことはどうしてだろうか?

実証事業では、一般の電子書店とは逆で、コミックより(その他の)書籍の購入者の方が多かったという。そのため、書店での電子書籍の販売は「新規顧客開拓の場として期待される」と言う。しかし、これは電子書籍に既になじんでいるコミックの読者の若者が、書店で電子書籍を買ったりしなかったというだけのことではないのだろうか? そうだとすれば、コミック以外の書籍の読者も、電子書籍になじめば、書店には来なくなるかもしれない。

また、書店での電子書籍の購入者は高年齢の人が多かったことを踏まえて、書店での電子書籍の販売は「新たな顧客の獲得に繋がる」と言う。しかし、今後は高年齢者もどんどん「新たな客」ではなくなってゆき、「新たな客」でなくなった高年齢者は書店で電子書籍を買うとは限らない。

そして、書店での電子書籍購入のメリットとして、クレジットカードが不要なこと、ギフトに使えることを挙げている。しかし、クレジットカードを敬遠するのは第2次大戦前に社会に出た人が主で、現在はもう少ないと思われ、こういう少数の利用者を当てにしたビジネスは考えられないように思う。また、アマゾンの電子書籍などもギフトに使えるので、必ずしも電子書籍用カードを贈る必要はない。

どうもこの実証事業の結果の判断は「初めに結論ありき」の感が強い。世の中の実証実験などと称するものの大半は、望ましい結論についての理由付けだが、この「実証事業」に基づく理由付けははなはだ説得力に欠けるようだ。

昔から「盗人にも三分の理」といわれ、どんな間違ったことにでも理屈は付けられるものだ。細かい理屈に惑わされずに、大局的見地から是非を判断することが重要である。

氷屋や炭屋は街から消えた 

そもそもこのプロジェクトは、どんどん減少しつつある書店の活性化を目的にしたものだ。そうだとすると、電子書籍の普及だけが問題なのではなく、インターネットのショッピングサイトでの(印刷物の)書籍の販売も大きな問題だ。アマゾンのサイトで書籍を購入すれば、1~2日で送料無料で自宅に本が届く。小生はもうほとんど本屋に行かなくなった。電子書籍を利用しない人にとっても、書店の必要性は激減している。

 技術の進歩で必要がなくなり、街から消えた店は多い。電気冷蔵庫の普及で氷屋がなくなり、暖房器具の進歩で火鉢が使われなくなり、炭屋が姿を消した。もちろんオンザロックには氷が要るし、バーベキューには木炭を使うので、氷や木炭を売る店が皆無になったわけではない。しかし、昔のようにどこの街にも必ずあるというものではなくなった。

また近年は、音楽のインターネットでのダウンロードが普及したため、街のレコード店が激減した。

これらの店と同様に、書籍のインターネットショッピングや電子書籍のダウンロードが普及すれば、街の書店が減るのは自然な成り行きだ。この流れを政治の力で止めようというのは、減りつつある氷屋や炭屋にカネをつぎ込んで活性化を図ろうとするのと同じで、税金の無駄遣い以外の何物でもない。

印刷物の書籍の制作・流通に関連した仕事で食べている人たちの救済は、別の方法で考える必要がある。

安倍内閣が第三の矢で、産業構造の転換をいくら声高に謳っても、一方でこのように産業構造の変化にブレーキをかけたのでは、いつまで経っても日本経済の進展は期待できない。

どうにも止まらない!

このプロジェクトが始まったのは2011年2月で、すでに4年経っている。2012年には、日本でもアマゾンや楽天Koboの電子書籍が現れ、この4年間に日本の電子書籍の市場は激変した。そのためもあって、このプロジェクトの成功の確証がなかなか得られず、最終判断までに時間を要したのだろうが、いくらなんでも時間のかけすぎだ。

そして、この間に何回もアンケート調査や実証実験を繰り返しているが、結論はほとんど変わっていない。これらの調査が、同じ結論を得るための理由付けであることを考えれば、これは当たり前のことだ。

本プロジェクトに2012年以降経産省がどう関係したのか分からないが、「第五世代コンピュータ」はじめ経産省のプロジェクトには、途中で状況が変わり問題点が指摘されても、当初の計画通り推進され続けたプロジェクトは多い。

山本リンダの歌ではないが、いったん始めると「どうにも止まらない」のが政府のプロジェクトだ。

[関連記事]

(1) 酒井 寿紀、「「リアル書店」で電子書籍を販売!」、OHM、2014年3月号、オーム社

(2) 「平成22年度書籍等デジタル化推進事業に係る委託先の提案公募について」、平成23年2月3日、経済産業省 商務情報政策局

(3) 「電子出版と紙の出版物のシナジーによる書店活性化事業 【調査報告書】」、2012 年2 月29 日、一般社団法人 日本出版インフラセンター

(4) 「「リアル書店における電子書籍販売実証事業」の実施について」、2014年6月9日、一般社団法人 日本出版インフラセンター

(5) 「リアル書店での電子書籍販売(BooCa)実証事業の結果並びに今後の展開について」、2015年2月27日、一般社団法人 日本出版インフラセンター

(6) 「リアル書店での電子書籍販売実証事業 BooCa [調査報告書]」、2015年3月2日、一般社団法人 日本出版インフラセンター


2015年2月23日月曜日

Windows 10の企業向け提供方法は?


Windows 10の個人向け提供方法とその問題点を「Windows 10の無料化にご用心!」(15/1/28)に記した。では、マイクロソフトは企業向けにはどういう提供方法を考えているのだろうか?

"Long Term Servicing branches"は従来と同じ?

上記のブログに記したように、個人向けには、セキュリティの改善やバグの修正だけでなく、機能の追加も今後は無料で随時行うという。緊急なもの以外は、従来通り月1回のペースになるようだ。

しかし、近年Windowsは、銀行の勘定系システム、交通の管制センター、工場のオンライン管理などの、いわゆるミッション・クリティカルな業務にも使われている。これらの業務にWindowsを使っている企業は、Windowsの機能に追加・変更があれば、アプリケーションソフトに悪影響がないか、入念に確認する必要がある。

そのため、Windowsの機能に毎月のように追加・変更があると、その確認作業に追われることになる。

一方、これらのミッション・クリティカルなシステムでは、いったんシステムが稼働に入れば、一般的にOSの新機能は不要である。

マイクロソフトはこういう企業のニーズに対して、"Long Term Servicing branches"という提供方法を用意している。これは、セキュリティの改善やバグの修正のみを随時行い、機能の追加・改善は原則として次のバージョンまで行わないものだ(2)。

マイクロソフトはこれに"Long Term Servicing branches"というものものしい名前を付けているが、その実態は従来の提供方法とほとんど変わらないものと思われる。

そして、これは企業のミッション・クリティカルなシステム向けと称しているが、企業のミッション・クリティカルではないシステムや個人ユーザーの中にも、こういう従来からの提供方法を望む人がかなりいると思われる。

というには、アプリケーションソフトがOSの機能の追加・変更で問題を起こすことが過去にしばしばあったからだ。

"Current branch for Business"は折衷案

企業によっては、OSの機能が毎月のように追加・変更になるのは避けたいが、他方、次のバージョンまで待たずにOSの新機能を取り込んで、他社との競争に後れを取らないようにしたいと考えるところもあるだろう。

マイクロソフトはこういうシステム向けに、個人向けに毎月のようにリリースされるOSの新機能を、4か月分ほどまとめて年に3回程度提供する"Current branch for Business"という提供方法を用意するという(2),(3),(4)。これは、個人向けの提供方法と、"Long Term Servicing branches"の折衷案だ。

この提供方法を利用すれば、個人向けのリリースである程度安定動作が確認済みの機能を使うことになる。逆に言えば、個人向けの毎月のリリースは、"Current branch for Business"のための安定動作確認のモルモットになるわけだ。

従来バージョンアップの時にしか行われなかった機能の追加が、Windows 10以降毎月のように行われるようになれば、リリース前の品質確認がおろそかになる恐れがある。十分に「枯れて」ないOSが次々と出回る可能性がある。

今後の企業ユーザーの課題は?

一つの企業で、システムごとに"Long Term Servicing branches"と"Current branch for Business"とを使い分けることができ、また、同じシステムについての提供方法を必要に応じて切り替えることもできるという(2)。

そのため、今後自社システムの安定的稼働を望む企業は、OSの機能の追加・変更の内容をよく調査し、これら二つの提供方法を適宜使い分けて、真に必要な追加・変更のみを自社システムに適用する必要がある。

[関連記事]

(1) "Windows 10: An Exciting New Chapter",
   (マイクロソフトのプログラム・マネジメントのディレクタJim Alkoveのブログ)
(2) "Windows 10 for Enterprise: More secure and up to date",
   (同上) 
(3) "Microsoft to business: Don't worry about Windows 10, consumers will test it",
(4) "Microsoft talks up Windows 10 for business, but questions mount", 

2015年1月28日水曜日

「テレビゲームがITの新時代を切り開いた!」のご紹介

(株)エム・システム技研の「MS TODAY」2015年1月号の上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要]
1983 年のファミコンの発売以来、テレビゲームは、画面のカラー化、レスポンスの高速化、マニュアルレス化、ソフトの有償化などの面でコンピュータの世界の先陣を切ってきた。最近はさらに、加速度センサ、ジェスチャー入力などの新技術を取り込みつつある。 --->全文を読む

Windows 10の無料化にご用心!


Windows 10が無料に!

マイクロソフトは2015年年1月21日に、次期OSのWindows 10へのアップグレードを無料にすると発表した。Windows 7やWindows 8.1を使っている個人ユーザーが、Windows 10のリリース後1年以内にアップグレードする場合を対象にするという。

従来、一つのバージョン内でのバグの修正やセキュリティの改善は無料だったが、今後は一定期間内は無料で機能の追加・改善も行い、常に最新状態に保つようにするという。

なぜ無料にしたのか? 

 今回の発表では、今後有料の新OSへの切り替えがどういう間隔になるのか不明だが、マイクロソフトにとって減収になるのは確実だ。にもかかわらず、このように戦略の大変更を決断したのはなぜなのだろうか? 限られた発表内容から推測してみよう。

OSの更改を促進するため

まず第1に考えられるのは、2012年10月にリリースされたWindows 8の評判が極めて悪かったことだ。そのため、急遽翌年10月にWindows 8.1を出したが、根本的な問題はまだ解決されていない。

こういう状況から一日も早く脱却しないと、マイクロソフトの評判を落とすと判断したのだと思われる。そして、全世界で使われているWindows 8.1などを一刻も早くWindows 10に切り替えてもらうには、期限を切ってアップグレードを無料にするのが最も有効だと判断したのだろう。

グーグルやアップルに対抗するため

最近は、スマートフォンやタブレットの伸びが著しく、それらに使われるOSとしては、アップルのiOSやグーグルのAndroidが圧倒的に多い。そして、iOSやAndroidは毎年のように無料でアップグレードされる。

また2013年からアップルはパソコン用のOS Xも無料でアップグレードできるようにした。

今後の成長が期待できるスマートフォンやタブレットの市場で、マイクロソフトはシェアを伸ばせず苦戦している。そこで、グーグルやアップルに匹敵するシェアを獲得するには、マイクロソフトも頻繁にOSをアップグレードするとともに、それを無料にすることが不可欠だと判断したのだろう。

マイクロソフトは、スマートフォンやタブレットでのシェアの獲得にパソコンでの圧倒的なシェアを活用するため、今回Windows Phoneを止め、Windows 10でパソコンからスマートフォンまですべてカバーするようにした。スマートフォンやタブレットはARM系のプロセッサを使うため、OSの作りは別になるが、ユーザーから見た統一性を向上することによって、iOSやAndroidとの差別化を図ろうという意図だと思われる。
  
製品の販売からサービスの提供へ

従来、ソフトのビジネスは、媒体に書き込んだパッケージソフトの販売が中心だった。しかし近年は、ソフトをサービスとして提供し、使った分だけ費用を請求するクラウドサービスが普及してきた。いわゆるSoftware as a Service (SaaS)である。

そして、そこまで行かなくても、販売したソフトを自動または半自動的に更新して、常に最新の状態に保ち、機能の充実、信頼性の向上を図ることが一般化してきた。特に、スマートフォンやタブレットのソフトではこれが普通で、知らないうちに変わっていることが多い。つまり、サービスとしての提供に一歩近づいてきている。

こういう状況になると、従来のように数年に1回の有料アップグレードの時にしか機能を強化しないのでは競争力を維持できなくなる。今回のマイクロソフトの戦略変更の背景には、こういう時代認識があるのではないかと思われる。

マイクロソフトはすでにワードプロセッサや表計算のソフトのSaaSでの提供を始めている。今回の発表時の質疑応答で、Windowsは将来SaaSになる可能性があるかという質問に対し、マイクロソフトのナデラCEOは、「今日の発表は基本的なビジネスモデルの変更を意味するものではない」と否定したという(1)。しかし、将来の可能性としてはそういうこともあり得ると考えているかもしれない。

ユーザーや関連企業への影響は?

では、今回のマイクロソフトの戦略変更は、ユーザーや関連企業にどういう影響を与えるだろうか?

ユーザー: アップグレード時期の自由度が奪われる

従来、数年ごとにリリースされる新バージョンに対し、不要ならアップグレードを見送り、旧バージョンを使い続けてきた人は多い。費用や手間を節約するためだけでなく、新製品に付きもののバグによる被害を避けるためだ。

それだけでなく、新バージョンでは従来使ってきた機能が使えなくなることがままある。最近の例では、Windows 8で従来のデスクトップ画面がなくなってしまったのが極端なケースだ。これはさすがに翌年Windows 8.1で復活したが。

特に不自由なく使っているソフトは、こういうリスクを冒してまでアップグレードしない方が一般的に得策である。いわばシステムを「塩漬け」にして使い続けるのだ。小生が使っているソフトには、こうしてアップグレードせずに10年以上使い続けているものも多い。

ところが今回の方針変更で、バグの修正と新機能の追加がともに無料になって頻繁に行われるようになると、新機能の使用を拒否することが難しくなる恐れがある。

ユーザーはマイクロソフトに対し、従来以上に「一蓮托生」にならざるを得なくなる。これは、スマートフォンやタブレットの時代の必然なのかもしれないが。 

関連ハード、ソフトのベンダー: OSの新バージョンに便乗した拡販が不可能に

従来、OSの新バージョンのリリースに合わせて周辺機器やアプリケーションソフトの新製品を発売し、OSの新バージョンでは旧製品を使えなくして、半強制的に新製品に買い替えさせてきたベンダーが多い。新製品と言っても、新機能はほとんどなく、OSの新バージョンに便乗して名前だけの新製品を発売する企業も見受けられた。

今回のマイクロソフトの戦略変更で、OSの機能の追加・変更が小出しに行われるようになるため、こういう便乗商法が難しくなる。

従来ハード、ソフトのベンダーは、新OSとの整合性の確認費用をこういう方法で回収してきた。今後は、機能の追加・変更の頻度の増加に伴い、整合性確認業務が増えるが、こういう方法での費用の回収は困難になる。

ハード、ソフトのベンダーは、今後OSとは独立して独自の間隔で新製品を発売する必要に迫られる。これは、まともな姿になるだけだが。

パソコンメーカー: パソコンの買い替え間隔が長期化

従来、Windowsの新バージョンのリリース間隔は一部を除き3~5年だった(2)。そして、新バージョンになるたびに、OSもアプリケーションソフトもより大容量のメモリを要求した。一方、パソコンのメモリ容量や通信速度の進歩も激しかったため、Windowsの新バージョンに合わせてパソコンを買い替える人が多かった。

そして、Windowsを自分でインストールするのは手間がかかるため、Windowsがプリインストールされたパソコンの販売が一般化した。こうして、Windowsとパソコンが足並みをそろえて切り替えられてきた。

ところが今回のマイクロソフトの方針変更で、アップグレードが数年に1回の大行事から、毎年のように行われる小さな出来事に変わる。そして、有料の新OSの発売間隔が今後どうなるのか不明だが、少なくとも従来より相当長くなると思われ、その間細かい機能の追加・変更は無料で行われるようになる。

そのためユーザーがパソコンの買い替えの必要性を感じる間隔が従来より長くなると思われる。また、ハードウェア技術の進歩も減速してゆくので、ハード面からも頻繁に買い替える必要性をあまり感じなくなる。

こうしてパソコンを買い替える間隔が延び、パソコンメーカーの減収を招く恐れがある。

[関連記事]

(1) "Microsoft: Windows 10, it's on us", Computerworld

(2) "Windows lifecycle fact sheet", Microsoft


2015年1月8日木曜日

1995年のSteve Jobsのインタビューを聴いて


インタビューのテープが見つかる

アップルの創業者Steve Jobsの1995年のインタビューのテープが長年行方不明になっていたが、最近見つかり、2012年に「Steve Jobs  The Lost Interview」として公開された。それを、2014年12月21日にWOWOWが放映していたので、録画しておいて聴いてみた。

インタビューしたのはRobert CringelyというIT関係のジャーナリストである。

Jobsは21歳の1976年にアップルを起業し、30歳の1985年に自分が作った会社を追い出された。インタビューは 、それから10年経った40歳の時のものだ。当時アップルは経営難で危機に瀕していた。

インタビューの翌年の1996年にJobsはアップルに復帰し、その後、iMac、iPod、iPhone、iPadと立て続けに発表して、時価総額が世界最大の企業にまでなった。

そして、Steve Jobsは2011年に56歳でガンのため死去した。

このインタビューの1995年にはアップルへの復帰の話はまだなかったと思われるため、アップルの関係者や同業者に対する遠慮もあまりなく、歯に衣着せぬ発言が随所に聞けて興味深い。

その中から、小生が特に印象深く感じた点を取り上げよう。

以下「 」内はJobsの発言だが、前後している断片的な話をまとめたり、日本の読者に分かりやすいように意訳したりしているので、文責は小生にある。また、Jobsが使った生々しい英語の表現を意図的にそのままにしてあるところもある。

10分でGUIの真価を見抜く

1979年にJobsはゼロックスのPARC (Palo Alto Research Center)を訪問した。そこで、オブジェクト指向言語、ネットワーク、GUI (Graphical User Interface)の3種の新技術について説明を受けた。Jobsはそれを聞いて、「他のものはともかくとして、GUIに、10分間で将来のコンピュータの姿を見た」という。

関係する技術者を引き連れて再度PARCを訪問し、その技術を自社のLisaやMacintoshに取り入れた。そして、それが今日のパソコンのGUIへと発展した。

ゼロックスはAltoという製品でGUIを採用したが、これは名前通り高すぎて(「alto」はスペイン語で「高い」の意)、あまり売れなかった。GUIの真価を見抜き、市場が受け入れる価格でその提供を始めたのはJobsだ。

John Sculleyに追い出される

会社の規模が大きくなったため、Jobsは1983年に、ペプシコーラの社長をしていたJohn Sculleyを会社経営のプロとして招き、CEOにした。

当初はJobsとSculleyの役割分担がうまく機能していたようだが、経営的に厳しい局面を迎えると、二人は対立を深めていった。

Jobsは言う、「IBMやペプシのように製品が確立している大企業では、マーケティングや営業が重要なことは確かだ。しかし、アップルのような新興企業では、製品開発力、それを支える"sensibility"や"genius"などの方がはるかに重要なのだ」

「自分が希望する方向に向かってロケットを飛ばしてくれるなら、自分は喜んで会社を辞めた。しかし、Sculleyのロケットは発射する方向が間違っていた。10年かかって作り上げた会社をすべて壊され、ロケットは墜落してしまった」

「Sculleyにとって最も重要なことは、CEOであり続けることだった。そのために悪役を作ろうとした。彼は信じがたいような生存本能の持ち主だった。そうでなければ、ペプシの社長にはなれなかったのだろう」
 
Sculleyは結局、このインタビューの2年前の1993年に、経営の責任を取って辞任した。

IBMのパソコンを見誤る 

アップルに遅れて、1981年にIBMがパソコンに参入した。「当初のIBMのパソコンは"terrible"で"really bad"だった」とJobsは言う。しかし、続けて言う、「これを甘く見たのは大きな誤りだった。IBMのパソコンには多くの味方が付いたのだ」

IBMのパソコンは、オープン戦略で多くの企業を味方につけ、またたく間に周辺機器やアプリケーションソフトの品揃えでアップルを抜いた。両社の戦略の違いの意味を十分に理解していなかったことをJobsは率直に認めている。

マイクロソフトに罵詈雑言

「マイクロソフトのパソコンが成功したのは、IBMのブースターによって打ち上げられたロケットだったからだ。マイクロソフトの製品自身は"no taste"で、"original idea"も"spirit"もなく、"third-way product"(右でも左でもない折衷案的な製品だという意味だと思う)ばかりで、マクドナルドと同じだ」

「(こういう製品が世界を制覇するとは、)人類の将来を考えると悲しくなる。もっと"insight"と"creativity"が欲しい」

言い方はさておき、同感の人も多いのではないかと思う。マイクロソフトには、全世界に事実上の標準をもたらしたという大きな功績もあるのだが、Jobsの評価はまことに容赦ない。

次世代はウェブだ! 

司会者に「10年後には何が重要か?」と聞かれて、次のように言っている。

「ウェブが重要になる。パソコンの主な仕事は計算から通信に変わる。現在米国の小売りの15%がカタログによる通信販売だが、これがウェブに変わる。何10億ドルというビジネスがウェブ上にできるだろう。ウェブが全産業のドアを開けることになる」

このインタビューは、ウェブの最初の実用的なブラウザであるNetscape Navigatorが1994年に出た翌年である。Steve Jobsはやはりずばぬけたヴィジョナリーだったのだ。

2015年1月4日日曜日

一人我が道を行く「京」?


毎年6月と11月に、全世界のスーパーコンピュータの上位500システムが「TOP500」として発表される(1)。最近の状況は何を物語っているだろうか?

90%以上が汎用CPUを使用 

2014年11月の「TOP500」では、X86系の汎用CPUを使ったものが、上位500システム中457システム(91.4%)を占めた。

その他はスーパーコンピュータ用に開発されたCPUを使ったものである。IBMのPower系が39システム、「京」などで使われている富士通のSPARC系が3システム、中国製が1システムで、合わせて43システム(8.6%)に過ぎない。

このうちPowerは、元々はスーパーコンピュータ 用として開発されたものではないが、現在スーパーコンピュータの上位500システムに使われているものは、すべてスーパーコンピュータ用に開発されたものだ。

このように近年、汎用CPUを使ったスーパーコンピュータの比率がどんどん増えてきた。これは、汎用CPUの性能向上と、量産効果による価格低減で、特殊なCPUを使うより費用対効果が優れているためだろう。

演算の主役はGPUに

X86系CPUを使っている457システム中75システムは、X86系CPUとともにGPUという汎用のグラフィック用LSIを使っている。しかし、上位10システムに限れば、X86系は半分の5システムだが、これらはすべてGPUを併用している。

CPUとGPUを併用したシステムでは、演算は主としてGPUで行われるものが多い。汎用CPUを使ったスーパーコンピュータが多いといっても、主役はGPUのものが近年増えている。

上位500システムで使われているGPUは、Nvidiaが50システムで最も多く、インテルのXeon Phiの25システムがこれに続いている。中には両方とも使っているシステムもある。

CPUとGPUを併用したものは、2種の演算回路を使い分けるヘテロジニアスなスーパーコンピュータの一種である(2)。

「京」は市場競争にさらされてない特異な存在

前記のように、汎用CPUを使ってないスーパーコンピュータは上位500システム中43システムだけだ。そのうち、前世紀末からPowerプロセッサを使っているIBMが39システムで、これを別格とすると、残りは4システムだけである。

そのうち3システムは、理化学研究所(理研)の「京」と、それと同じ技術を使った東大と九大のシステムなので、「京」ファミリは全世界のスーパーコンピュータの中で極めて特異な存在であることが分かる。そして、2020年頃を目標に開発を進めているポスト「京」も「京」と同様な方式だという。どうしてこういうことになったのだろうか?

国家予算によるスーパーコンピュータの調達や開発は、納税者の立場に立てば、もっとも価格性能比が優れた方式を採用してもらいたい。しかし、「京」を推進している文部科学省や理研はスーパーコンピュータの調達者であるとともにその開発者でもあるので、方式選定に当たって、市場原理が十分に働いてないためだと思われる。

スーパーコンピュータの開発計画は、必ずしも短期的な市場競争だけでは決められないだろう。しかし、スーパーコンピュータの調達に当たっては、あくまでも価格性能比重視の市場原理が十分に働く仕掛けを作っておかないと税金の無駄遣いを招く恐れがある。

 「京」/ポスト「京」は市場競争にさらされてない特異な存在であることをよく認識しておく必要がある。

メニーコアがもう一つの主役に 

上位10システム中5システムがX86系以外のCPUを使っている。そのうち4システムはIBMのBlue Jene/Qを使っていて、残る1システムが「京」だ。Blue Gene/Qは1LSIにPowerのプロセッサコアを18個並べたものである。また、「京」のチップは現在8コアだが、これはポスト「京」に向かって16コア、32コアとコア数を増やしていくという(3), (4)。

プロセッサのLSIは複数個のプロセッサコアを持つのが普通になり、マルチコアと呼ばれている。そして、プロセッサコアの数が十数個以上と多いものはメニーコアとも呼ばれている。

ムーアの法則もそろそろ限界に近付いてきたため、さらに性能を上げる一つの方法として、このメニーコアが現在いろいろな機関で検討されている。 IBMは1999年以来Blue Geneプロジェクトに取り組んできた。オラクル、富士通などもこの技術を採用している。今後さらに広まるものと思われる。 

メニーコア時代の先行投資

スーパーコンピュータの現状を見ると、ここしばらくは汎用CPUを使う方式が価格性能比上有利なようだ。しかし、今後はメニーコア化の必要性がさらに高まるものと思われるため、IBMや富士通がメニーコア化に挑んでいるのは、短期的にはさておき、長期的には意味があると思われる。

但し、IBMはPower系のコアを使っていて、他社にも提供する意向を表明しており(5)、プロセッサコアとしてはこのほかに、ARM系、X86系なども考えられるので、SPARC系が生き残れるかどうかは不明である。1種類だけになれば独占による弊害を免れないが、ITの世界では最終的には事実上の標準が確立し、1種類に収斂してしまうことが多い。

[関連記事]

(1) "TOP500", TOP500.org
(2) 酒井 寿紀、「続・ポスト「京」の課題・・・ホモジニアスかヘテロジニアスか?」、OHM、2011年11月号、オーム社
(3) "SPARC64TM IXfx", FUJITSU
(4) 「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX100」、富士通 
(5) "Google, IBM, Mellanox, NVIDIA, Tyan Announce Development Group for Data Centers", 06 Aug 2013, IBM