2015年1月4日日曜日

一人我が道を行く「京」?


毎年6月と11月に、全世界のスーパーコンピュータの上位500システムが「TOP500」として発表される(1)。最近の状況は何を物語っているだろうか?

90%以上が汎用CPUを使用 

2014年11月の「TOP500」では、X86系の汎用CPUを使ったものが、上位500システム中457システム(91.4%)を占めた。

その他はスーパーコンピュータ用に開発されたCPUを使ったものである。IBMのPower系が39システム、「京」などで使われている富士通のSPARC系が3システム、中国製が1システムで、合わせて43システム(8.6%)に過ぎない。

このうちPowerは、元々はスーパーコンピュータ 用として開発されたものではないが、現在スーパーコンピュータの上位500システムに使われているものは、すべてスーパーコンピュータ用に開発されたものだ。

このように近年、汎用CPUを使ったスーパーコンピュータの比率がどんどん増えてきた。これは、汎用CPUの性能向上と、量産効果による価格低減で、特殊なCPUを使うより費用対効果が優れているためだろう。

演算の主役はGPUに

X86系CPUを使っている457システム中75システムは、X86系CPUとともにGPUという汎用のグラフィック用LSIを使っている。しかし、上位10システムに限れば、X86系は半分の5システムだが、これらはすべてGPUを併用している。

CPUとGPUを併用したシステムでは、演算は主としてGPUで行われるものが多い。汎用CPUを使ったスーパーコンピュータが多いといっても、主役はGPUのものが近年増えている。

上位500システムで使われているGPUは、Nvidiaが50システムで最も多く、インテルのXeon Phiの25システムがこれに続いている。中には両方とも使っているシステムもある。

CPUとGPUを併用したものは、2種の演算回路を使い分けるヘテロジニアスなスーパーコンピュータの一種である(2)。

「京」は市場競争にさらされてない特異な存在

前記のように、汎用CPUを使ってないスーパーコンピュータは上位500システム中43システムだけだ。そのうち、前世紀末からPowerプロセッサを使っているIBMが39システムで、これを別格とすると、残りは4システムだけである。

そのうち3システムは、理化学研究所(理研)の「京」と、それと同じ技術を使った東大と九大のシステムなので、「京」ファミリは全世界のスーパーコンピュータの中で極めて特異な存在であることが分かる。そして、2020年頃を目標に開発を進めているポスト「京」も「京」と同様な方式だという。どうしてこういうことになったのだろうか?

国家予算によるスーパーコンピュータの調達や開発は、納税者の立場に立てば、もっとも価格性能比が優れた方式を採用してもらいたい。しかし、「京」を推進している文部科学省や理研はスーパーコンピュータの調達者であるとともにその開発者でもあるので、方式選定に当たって、市場原理が十分に働いてないためだと思われる。

スーパーコンピュータの開発計画は、必ずしも短期的な市場競争だけでは決められないだろう。しかし、スーパーコンピュータの調達に当たっては、あくまでも価格性能比重視の市場原理が十分に働く仕掛けを作っておかないと税金の無駄遣いを招く恐れがある。

 「京」/ポスト「京」は市場競争にさらされてない特異な存在であることをよく認識しておく必要がある。

メニーコアがもう一つの主役に 

上位10システム中5システムがX86系以外のCPUを使っている。そのうち4システムはIBMのBlue Jene/Qを使っていて、残る1システムが「京」だ。Blue Gene/Qは1LSIにPowerのプロセッサコアを18個並べたものである。また、「京」のチップは現在8コアだが、これはポスト「京」に向かって16コア、32コアとコア数を増やしていくという(3), (4)。

プロセッサのLSIは複数個のプロセッサコアを持つのが普通になり、マルチコアと呼ばれている。そして、プロセッサコアの数が十数個以上と多いものはメニーコアとも呼ばれている。

ムーアの法則もそろそろ限界に近付いてきたため、さらに性能を上げる一つの方法として、このメニーコアが現在いろいろな機関で検討されている。 IBMは1999年以来Blue Geneプロジェクトに取り組んできた。オラクル、富士通などもこの技術を採用している。今後さらに広まるものと思われる。 

メニーコア時代の先行投資

スーパーコンピュータの現状を見ると、ここしばらくは汎用CPUを使う方式が価格性能比上有利なようだ。しかし、今後はメニーコア化の必要性がさらに高まるものと思われるため、IBMや富士通がメニーコア化に挑んでいるのは、短期的にはさておき、長期的には意味があると思われる。

但し、IBMはPower系のコアを使っていて、他社にも提供する意向を表明しており(5)、プロセッサコアとしてはこのほかに、ARM系、X86系なども考えられるので、SPARC系が生き残れるかどうかは不明である。1種類だけになれば独占による弊害を免れないが、ITの世界では最終的には事実上の標準が確立し、1種類に収斂してしまうことが多い。

[関連記事]

(1) "TOP500", TOP500.org
(2) 酒井 寿紀、「続・ポスト「京」の課題・・・ホモジニアスかヘテロジニアスか?」、OHM、2011年11月号、オーム社
(3) "SPARC64TM IXfx", FUJITSU
(4) 「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX100」、富士通 
(5) "Google, IBM, Mellanox, NVIDIA, Tyan Announce Development Group for Data Centers", 06 Aug 2013, IBM

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