2011年3月27日日曜日

「WintelからAndrarmへ?」のご紹介


オーム社の「OHM20113月号に掲載された上記記事を小生が運営するウェブサイトに再録しました。
[概要]  アップルのiPadの出現でタブレットの市場に一挙に火がついた。しかし各社の製品は一皮むけばみんなAndroidOSARMCPUだ。パソコンのWintelに対し、さしずめAndrarmとでも言うことになる。パソコン同様製品の差別化は困難で、コモディティ化された市場での熾烈な価格競争になるだろう。―――>全文を読む。

2011年3月16日水曜日

それでもマイクロソフトを使いますか? ・・・ブラウザとメール・クライアントについて



ブラウザをFirefox

多くの人と同様に、小生もブラウザにマイクロソフトのInternet Explorer (IE)を使っていた。ところがこの32日に、Windows Vistaのこのブラウザが突然起動できなくなった。ウェブに何か手がかりになる情報が出てないかと、別のパソコンでWindows 7IEを開くと、最初のうちは起動できていたが、不思議なことにしばらく経つと、このパソコンでもIEが起動できなくなってしまった。

ブラウザが使えないと、ウェブ情報の調査も、別のブラウザのダウンロードもできない。幸いにして、たまたまグーグルのChromeがインストール済みだったので、まだ本格的に使ってなかったこのブラウザを使ってみることにした。

数日間Chromeを使ってみたところ、処理の速さなどは優れているが、印刷機能や、シマンテックの 製品のパスワード自動入力機能との連携に問題があることが分かった。そこで、ブラウザをMozilla(モジラ)のFirefoxに切り替え、現在はほぼ満足してこれを使っている。

小生は1996年以来ずっとNetscapeのブラウザを使っていた。しかし、IEでしか使えない金融機関のオンラインサイトが現れたため、やむなく2003年にブラウザをIEに切り替えた。これは、「最大多数派に付く」という小生のパソコン関連製品選択の基本方針によるものでもあった。 

FirefoxNetscapeの技術の流れを引き継いでいるため、小生にとっては使い勝手が8年振りに昔に戻ったようで懐かしい。個人的な好みもあるだろうが、ブックマークなどはFirefoxの方がIEよりも使いやすい。

このブラウザ切り替えのきっかけになったIEの起動不可の問題は、翌日には自然に消滅した。これはシマンテックの自動更新のプログラムのバグが原因で、翌日再度更新したという。

セキュリティを確保するのが目的のシマンテックの製品にバグがあるのは困ったものだが、他のソフトのバグで起動もできなくなってしまうIEの脆弱性には大きな問題があるようだ。目下のところ、ブラウザを再びIEに戻すつもりはない。

メール・クライアントをThunderbird

小生はメール・クライアントについてもずっとNetscapeを使っていた。しかし、2003年にNetscapeAOLに買収され、今後のサポートに問題が出てきたため、2007年にマイクロソフトのOutlook Expressに切り替えた。当時すでにこれが世の中の事実上の標準になっていて、この切り替えも前記の「最大多数派に付く」ものだった。

事実上の標準なのでもう少しましな製品だと思っていたが、Netscapeで使っていた機能があまりにもないのに驚いた。詳細は、「悪い製品がよい製品を駆逐?」(オーム社「OHM20081月号)に記したが、複数アカウントを管理する機能、定型メールを利用する機能、メールを一斉送信する機能などだ。

マイクロソフトのメール・クライアントのもう一つの問題は、OSのバージョンごとにメール・クライアントとアドレス帳が違うことだ。これについては「何とかならぬか? マイクロソフト」、「路頭に迷うWindowsユーザー・・・メール・クライアントとアドレス帳について」でも指摘した。

 OSのバージョンがWindows XPWindows VistaWindows 7と進むたびに、メール・クライアントはOutlook ExpressWindows MailWindows Live Mailと変わり、それに伴ってアドレス帳もWindows Address BookWindows ContactsWindows Live Contactsと変わった。しかも、これらの間に相互運用性(インターオペラビリティ)がないため、OSをバージョンアップするたびにメール・クライアントの切り替えを強いられる。

これではたまらないので、今回、メール・クライアントも思い切ってMozillaThunderbirdに切り替えた。すると、前記の複数アカウントの問題などがすべて解決した。また、Thunderbirdの最新バージョンは、アドレス帳も含めて、Windows XPWindows VistaWindows 7のいずれのOSでも使える。

この4年間、不便を耐え忍んでマイクロソフトのメール・クライアントを使ってきたが、今度ばかりはどうも「最大多数派に付く」基本方針が裏目に出たようだ。小生のようにITの現状を調査して問題点を指摘している者には、これも貴重な体験と思って割り切るしかない。

マイクロソフトの問題は?

マイクロソフトのビジネスの柱はOSである。したがって、同社にとっての最重要課題はOSの市場での寡占状態を維持することだ。これさえできれば、ブラウザやメール・クライアントの売上やシェアはたいした問題ではない。そのため、同社にとって、これらの製品の品質の向上やユーザー要求の反映はそれほど重要ではないのだ。

IEの脆弱性の問題はよく耳にする。そして、Netscape10年以上前にできたことが、マイクロソフトのメール・クライアントではいまだにできない。これらは莫大な開発費や高度な技術力を要する問題ではないので、要するに力の入れ方が足りないのだ。

しかし、マイクロソフトの経営者の立場に立てば、これらは無料のソフトなので、多少シェアが減ったところで経営に直接影響するわけではない。それどころか、こういう製品に貴重な経営資源を割いたら株主に非難される恐れさえある。マイクロソフトにとって、これらの製品に力が入らないのは当然なのだ。

したがって、今後もこれらの製品の改善にはあまり期待できない。そのため、これらの製品を使えばパソコンにプリインストールされているため手間がかからないが、多少手間がかかっても他の製品を選んだ方がよさそうだ。 

Mozillaの問題は?

現在、マイクロソフトに次ぐシェアを占めている製品として、前出のMozillaFirefoxThunderbirdがある。前述のように、両者ともマイクロソフトの製品に比べれば完成度が高いようだ。しかし、Mozillaにはまた別の問題がある。

それは、これらの製品が無料であることだ。マイクロソフトの場合はOSの「おまけ」なので、同社は無料でも困らないが、Mozillaにとってはこれらが主力製品なので、どうやって事業を継続していくかが問題になる。ユーザーにとっては、将来ともサービスが保証されるかが問題だ。

Mozilla2006年の会計報告によると、6,505万ドルの売上中、95%6,150万ドルが検索サービスの掲載によるグーグルなどからのロイヤルティだ。つまり、グーグル同様、Mozillaも間接的に広告料収入に頼っているわけだ。しかし、ブラウザはこれでビジネスが成り立つかもしれないが、メール・クライアントについては別の方策が必要になる。

インターネットの世界には、他にもウェブやメールを扱う無料のソフトや、Wikipediaのような無料のサービスが多数あり、それぞれ寄付や無報酬のボランティアに支えられている。これらのうちの有用なものについては、人類の貴重な財産として今後どうやって継続していくかが大きい問題だ。

インターネットそのものが、初期には無報酬のボランティアによって支えられてきたわけだが、それだけに頼っていてはいずれ限界が来る。やはり、利用者が何がしかの負担をする仕組みが必要なのではなかろうか? それによって将来のサービスが保証されれば、利用者にとっても好ましいはずだ。

[追記] (2011/3/25)
上記に、「ブラウザをIEからFirefoxに切り替え、現在ほぼ満足して使っている」と書いたが、実は印刷機能には不満があり、特にウェブの2ページ目以降が印刷できないケースがあるのが問題だった。しかし、これは単純なバグなので次期バージョンでは直るだろうと思っていた。

上記のFirefoxはバージョン3だったが、本記事執筆直後の3月22日にFirefox 4がリリースされたので、早速インストールして使ってみた。すると、バージョン3でできなかった2ページ目以降の印刷が問題なくできるようになっていた。

これは結構なのだが、バージョン4ではバージョン3でできたシマンテックのソフトのパスワードの自動入力機能との連動ができないことが分かった。ウェブ情報によると同様の問題は前回のFirefoxのバージョンアップ時も起きたようで、今回もいずれ直るだろう。

不都合があるからといって新バージョンにすぐ飛びつくのは考えものだ。しかし、こんな問題は正式リリース前から分かっているはずなので、事前に企業間で連携して解決してもらいたいものだ。

2011年3月7日月曜日

Gmailの障害の教訓・・・クラウドにご用心

 
Gmail3日半ダウン!

グーグルの電子メールサービスのGmailに、228日から33日にかけて障害が発生した。グーグルによる障害の第1報は日本時間の22859分で、復旧が完了したとの通知は33日の1551分である。その間、3日間と約11時間、つまり約83時間の間、一部のユーザーはGmailが使えなかった。

障害の詳細は不明だが、グーグルがその間に何回もApps Statusで公表した障害の状況や Gmail back soon for everyoneというグーグルの副社長によるブログから判断すると、今回の障害はおおよそ次のようなものだったようだ。

グーグルは障害に備えて、データを格納するストレージを多重化し、それを複数のデータセンターに分散して設置しているという。ところがそのストレージを管理するソフトのバージョンアップ版にバグがあったため、Gmailの一部のユーザーの送受信データ、アドレス帳、アカウント情報などが消失してしまったという。

影響を受けたのはユーザーの0.02%ということだ。Tech 24 Hoursの統計によると2009年末のユーザー数は全世界で約1.8億人ということなので、影響を受けたのは4万人程度と思われる。

グーグルは別途磁気テープにバックアップを取っていて、これはバグの影響を受けなかったので、これを使って復旧を図ったという。ただし、最初の報告から22時間経過後には、あと12時間で復旧が完了する予定と言っていたが、実際にはその後61時間要した。当初の予定より復旧が大幅に遅れたが、その理由は不明である。

該当するユーザーは、メールのデータがなくなっただけでなく、この間の約20時間の間、メールの受信ができなかった可能性が大きいという。また、復旧作業中はメールのアカウントへのサインインもできなかったようだ。つまり、過去の送受信メールの閲覧だけでなく、新規にメールを送信することもできなかったようである。

障害対策にはピンからキリまで

今回のGmailの障害から我々は何を学ぶべきだろうか?

当たり前のことだが、ハードの故障やソフトのバグは絶対に根絶できない。これは、自前のシステムでも、Gmailのようなクラウドのサービスでも同じである。

したがって、ファイルの2重化やバックアップの取得など、障害対策が重要になるが、こういう障害対策機能の障害がしばしばたちが悪い事故を起こす。いわば、火災報知器や消火器が火を吹くようなものだ。したがって、これらの設置、運用には細心の注意が必要になる。

今回、不幸にしてGmailでこの種の事故が起きてしまったわけだが、こういう事故の根絶も不可能で、今回の事故も毎年全世界で数多く起きているこの種の事故の一つに過ぎない。予定より時間がかかったが、完全に復元できたことは不幸中の幸いである。

自前でシステムを構築する時は、事故が起きたときの社会的影響や経営上の影響の大きさに基づいて障害対策を講じる。

航空機や鉄道の運行制御、株式の売買、銀行口座の資金移動、有人ロケットの制御などに要求される信頼性をピンとすれば、個人の文書、写真、ビデオなどのファイル管理に要求される信頼性はキリだ。これらピンとキリの障害対策が同一レベルでいいわけはない。要求される信頼性が何桁も違い、したがって、かけるべき費用も何桁も変わる。

クラウドの信頼性の定量的開示が必要!

最近何にでもクラウドを使うことが流行している。しかし、クラウドの一つの問題は、その事業者が信頼性を開示してないことだ。

例えばグーグルは Disaster Recovery by Googleに次のような趣旨のことを記している。「大企業は、データセンターの多重化など、障害対策に頭を悩ませている。しかし、グーグルのクラウドを使えば、ユーザーが作成してグーグルに預けたデータについて、このような心配はまったく不要になる。ユーザーは、データ量に関係なく、最高クラスの障害回復機能を無料で使える。」

ユーザーによって要求レベルが千差万別である信頼性について、一律に「お任せあれ! 心配ご無用!」と言っているのだ。表現は文学的、定性的で、定量的に信頼性を表示しようという姿勢は見られない。

クラウドは、もともと「機能」を提供するもので、その実現手段は問わない。電力会社が一般の需要家に発電方法を説明しないのと同じだ。したがって、クラウドの事業者はサービスの提供に使うハード、ソフトについて説明する必要はない。それはユーザーにとって「雲」の向こう側の話であって、いつどう変わっても、提供されるサービスだけ保証されればいいのだ。ハード、ソフトの基本構成から、細かいバージョンアップの適用まで、一切関知しなくていいところがクラウドの最大のメリットだ。

同じように、クラウドの事業者は、障害対策の手段についても開示の必要はない。ファイルを何重化しようが、バックアップセンターをどこに置こうが、ユーザーには関係ない。重要なのは、その結果どういう信頼性が実現されるかだ。年間の障害件数や、平均障害回復時間などは、クラウド事業者を選択する際の重要事項なので、これらの開示は不可欠である。文学的な謳い文句をいくら聞いても、何の意味もない。

クラウドを使う時は

クラウドの大きい問題は、ユーザーが要求する信頼性が千差万別なのに、提供するシステムの信頼性が一律なことである。そのため、クラウドを使う時はユーザー側で注意が必要だ。

まず、提供されるサービスの信頼性が、適用業務が要求する信頼性以上であることの確認が不可欠だ。

事業者によって、提供するサービスの信頼性には大差があるだろう。そして、前記のピン・クラスの信頼性が要求される業務にクラウドの採用を考える人はいないだろう。これは極端な例だが、小企業にとっても、ある日突然基幹業務のデータベースが消失したら企業活動が止まってしまう。いや、個人が使っているデータベースにしても、例えば保管してあった写真がすべて消えうせたら、嘆き悲しむ人が多いだろう。

そのため、安いからといって、いい加減なクラウドを使うのははなはだ危険である。ただし、クラウドはそれなりに障害回復手段を講じているはずなので、ろくに対策を講じてない自前のシステムに比べれば一般的には信頼性は高いはずだ。また、自前で同レベルの信頼性を実現するのに比べればクラウドは安くできるはずである。

いずれにしても、クラウド事業者が提供するサービスの信頼性には限界がある。致命的な事故を回避するためには、重要なデータベースは二つの事業者に預けるとか、データベースの更新記録は自社でも保管しておくとかの対策を検討する必要がある。

高信頼性はタダでは買えない。これはクラウドについても同じである。

[後記]

 本記事の懸念が現実に! 下記をご参照下さい。(2012/7/8)

  「ファーストサーバがデータを消失!」 (2012/7/8)