2010年8月4日水曜日

ウィルコム再建スキームが軌道修正

ソフトバンクがウィルコムを全面支援

8月2日のソフトバンクの発表を踏まえ、日本経済新聞は「ソフトバンク、ウィルコムを全面支援」と報じた。(1) 3月12日に発表された当初のウィルコムの再建スキームでは、ウィルコムの次世代PHSであるXGPを新会社に移してソフトバンクほかが支援し、ウィルコムのPHS事業は本体に残して、投資ファンドであるアドバンテッジパートナーズほかが支援することになっていた。

この当初のスキームでは、ソフトバンクは新会社には出資するが、ウィルコム本体には出資しない計画だった。しかし、今回ウィルコムの管財人からの要請を受け、ソフトバンクはウィルコムの金融機関などに対する債務410億円の支払いを引き受けるとともに、事業家管財人を派遣することになったという。

もともと無理だった当初の再建スキーム

当初の再建スキームには疑問点が多いことを3月16日の本ブログ「ウィルコム再生計画の疑問点」で指摘した。そこに、PHSとXGPを資本関係がない別会社に分離したら、PHSユーザーを順次XGPへ移行させるという従来のウィルコムの計画が実現困難になると記した。そして、企業再生支援機構の「XGPがなければウィルコムは再生しないというわけではない」という見解に疑問を呈した。

日経新聞によると、「想定より(現行PHS)事業の毀損が激しく、再建自体が難しくなってきたため、ウィルコムの管財人がソフトバンクに全面的な支援を要請していた」という。(1) PHSの契約数は昨年12月末の430万人から、今年6月末の388万人へと、最近半年間で42万人(約10%)減っている。(2) しかしこれは、移行先の事業計画が不明確で、現ユーザーに対する移行の優遇策などがはっきりしなければ当然なことだ。現PHSの事業再建のためには、これらの移行戦略の明確化が必要なことは最初から分かっていたはずだ。

ソフトバンクは「大誤算」か?

産経新聞社は本件について、「ソフトバンク“大誤算”、ウィルコム全面支援で410億円の借金背負う」と報じている。「ウィルコムの約400万契約者と次世代技術を最小限の投資で取り込もうとしたもくろみは外れた」という。(3) しかし、はたしてそうなのだろうか?

たしかに、今回ソフトバンクは、ウィルコムの債務410億円を負担することになった。6年間の均等分割で支払うという。しかし、3月に当初の再建スキームが発表されたときは、ウィルコムの金融機関などへの債務は総額1,495億円で、そのうち1,145億円(約77%)が債権放棄される予定ということだった。今回これが410億円になったということは、予定より多少少ないが1,085億円(約73%)が債権放棄されたということになる。

当初からソフトバンクがウィルコム全体の支援に乗り出していたら、これだけの債権放棄は難しかっただろう。ソフトバンクにとって、ウィルコムの400万人弱の顧客ベースの獲得が必要だったとすれば、ソフトバンクがウィルコム全体を入手する費用が数百億円安く済んだという見方もできる。

ソフトバンクの二つ目の深謀遠慮?

5月3日の本ブログ「ソフトバンクが中国方式を採用!?」に記したように、ソフトバンクは当初の再建スキームで入手したXGPを止めてTD-LTEを採用するという。今回当初の再建計スキームでは関与しないことになっていたウィルコム本体の支援に乗り出せば、再建スキームの2回目の軌道修正になる。

XGPを時期を見て中止することは、当初からソフトバンクの孫社長の頭の中にあったのではないかと上記ブログに記した。そして、今回のウィルコム本体の入手も当初から孫社長の頭にあったのではないかと思う。しかし、「ウィルコムの再建にXGPは必ずしも要らない」と言う企業再生支援機構の下では、交渉は有利に進められない。そして、ソフトバンク側から積極的にウィルコム本体の支援に乗り出せば、金融機関による十分な債権放棄は期待できない。

孫社長は管財人が頭を下げて頼みに来るのをじっと待っていたのではないだろうか。経営にはスピードが大事だといっても、最小の対価で最大の収穫を得るには忍耐も必要だ。ライオンは獲物が十分弱るのを待ってから襲いかかるという。待っていればほかの獣に獲物を横取りされるリスクもあるが、無駄なエネルギーの消費を極力避けることが生存競争には必要なのだ。

今回の再建スキームの軌道修正も、実はソフトバンクの深謀遠慮の一つなのかもしれない。

(1) 「ソフトバンク、ウィルコムを全面支援」、日本経済新聞、2010年8月3日

(2) 「携帯電話・PHS契約数」、電気通信事業者協会

(3) 「ソフトバンク“大誤算”、ウィルコム全面支援で410億円の借金背負う」、SankeiBiz、2010年8月4日、産経新聞社

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