2009年12月2日水曜日

「中央から地方へ」の落とし穴に落ちた電子申請

電子申請、19府県で休止・縮小!

11月9日の本ブログ「電子申請の無残な実態」で、現在の電子申請の利用率の低迷を報じた11月8日の朝日新聞の記事を紹介した。その後、11月30日の同紙に、その続報として、地方自治体が苦戦している状況が掲載された。それによれば、現在47都道府県中の19府県で、電子申請の全面休止や縮小を実施または予定しているという。

その主原因は財政難だということだが、電子申請は利用者の利便性の向上とともに人件費等の経費の削減を図るものなので、うまく行けば「儲かる」はずである。それがうまく行かないは、どこかに問題があるからだ。最大の問題は、もちろん前回報道された「利用率1%未満のシステムが2割弱」という極端な利用率の低さだ。これでは、電子申請システムのコストとそれを利用しない人に対応するための人件費を二重に負担することになるので、儲かるどころではない。

しかし、今回の記事によると、電子申請システムのコスト自身にも大いに問題があるようだ。

ASPの利用で運用経費が激減!?

今までは都道府県ごとに電子申請システムの開発をIT業者に発注していたという。これでは、要求仕様が自治体ごとに違ってしまい、同一業者でも個別に開発することになるので割高になってしまう。住民票や印鑑証明の申請処理が自治体ごとにそんなに違う必要はないので、はじめから計画すれば相当な部分が共通にできたはずである。

また、今までは各自治体の庁舎内にコンピュータを設置していたという。電子申請の件数は限られているため、全国で何箇所かのセンターにまとめて処理する方が効率がいいはずだ。

最近はNECの「電子申請ASP (Application Service Provider)サービス」を使うことによって運用経費を劇的に下げた例が相次いでいるという。中には1/10になった例もあるということだ。ASPとは客先の端末からネットワークを介してソフトウェアを使ってもらう事業形態である。こういうサービスを使えば、ソフトウェアの重複開発もなく、また稼働率の低いシステムを自治体ごとに抱える必要もない。そのため経費が激減できたというが、要するに元が高すぎただけだ。

「中央から地方へ」の落とし穴

ASPのようなサービスを利用するか、または地方自治体の共同のセンターのようなものを設立するかは別にして、電子申請についてはソフトウェアもハードウェアも全国的にまとめた方が効率がいいことは、少し考えればはじめから分かったはずだ。申請者に窓口の担当者が対応していたときは地方自治体ごとに処理がバラバラでもたいした問題はなかった。しかし、いったん電子化されると、処理が統一されているかいないかで大差が生じる。

政府は2000年以来、e-Japanを旗印に日本のITの推進を図ってきた。その重点テーマの一つが電子申請などを含む電子政府で、これは当を得たものだったと思う。しかし、その進め方には大いに問題があったようだ。総務省から地方に電子申請を行えとの強い指導があったということだが、何の戦略もなくこういう圧力をかければどういうことになるかを、総務省は想像できなかったのだろうか?

筆者はオーム社の雑誌の2004年5月号の「『中央から地方へ』の落とし穴」という記事の最後に次のように書いた。

《小泉首相は「中央から地方へ」、「地方でできることは地方へ」と言い続けている。もちろんそうすべきものもあるのは確かだが、上述のように、電子政府については「地方から中央へ」を推進しないといけない面もある。ただ闇雲に「中央から地方へ」と突き進み、似て非なるウェブサイト(注:行政ポータルサイトのこと)が全国にできてしまったら、とんでもない落とし穴に陥ることになる。》

不幸にして筆者の危惧が現実になってしまったようだ。

電子申請を含めた電子政府の実現なしに、日本がITの一流国と言われるようになる道はない。e-Japanを推進した母体は森内閣、小泉内閣の下でのIT戦略会議である。これは現在開店休業状態だというが、これをまず再開する必要がある。そして、電子政府については、使い勝手の悪さからくる利用率の低迷や、地方へのブン投げによる無駄な費用の発生について、まず猛省してもらう必要がある。

民主党政権に過去を洗い直してもらわなければならない仕事はまだまだあるようだ。

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