2014年12月26日金曜日

教育用パソコンとしてChromebookが大人気だが・・・


Chromebookとは?

グーグルは「Chrome」というブラウザを無料で提供している。これをWindows、Android、iOSなどのOSの下で使えばウェブの閲覧ができる。

2009年にグーグルは、LinuxのカーネルとChromeブラウザを一体化した「Chrome OS」というOSの提供を始めた。これをX86やARMのCPU上で使えば、ウェブの閲覧やウェブ上で動くアプリケーション・ソフトの実行ができる。ウェブ記述言語のHTMLが進化し、ウェブ上で種々のアプリケーションが実行できるようになったことを活用したものだ。

しかし、ウェブ上でできることには限界があるので、最近はブラウザを使わず直接Linux上で動くアプリケーションも実行できるようにした。さらに、現在市場で流通している多くのアプリケーションを使えるようにするため、Androidのアプリケーションがそのまま実行できるようになった。

そしてグーグルは、2011年に、ChromebookというChrome OSを使ったノートパソコンの標準的な仕様を定めて、自社で販売すると同時に他社にもその製造・販売を促した。

現在市場に出ているChromebookは、11~13インチのディスプレイを持つノートパソコンで、タブレットと違い物理的なキーボードが付いている。マウスやタッチパネルを使えるものもあるが、タッチパッドで操作するのが一般的なようだ。

CPUにはARM系を使ったものもあるが、現在はX86系を使ったものが圧倒的に多い。

特長は、機能を基本的にはウェブの閲覧に絞って、OSを無料にしたことによる、安さ軽さ起動の速さ集中管理の容易さセキュリティの高さなどだという。 

米国で教育用の標準に?

もちろんChromebookは学校教育だけのために作られたものではない。しかし、現在グーグルは教育市場に最も力を入れており、特に米国では教育市場での躍進が目覚ましい。

例えばニューヨーク市は、多くの学校がChromebookの採用を欲しているのを踏まえて、これを推奨機種のリストに加えた(1)。

IDCの調査によると、米国の教育市場ではアップルが長年優勢だったが、2014年第3四半期にグーグルのChromebookが教育市場でアップルのiPadを追い抜いたという(2)。

米国のこういう 状況を踏まえて、日本の教育市場でもChromebookが台風の目になるという見方もある(3)。

教育用パソコンに求められるもの

教育用パソコンは主として何に使われ、どういう機能が求められるのだろうか?

まず第1に、学習のための情報の収集・閲覧がある。従来は、辞書、百科事典、図鑑、地図、年鑑などを調べて、いろいろな情報を集めていた。そのために必要な書籍は自宅にもあり、学校の図書室や町の図書館を利用することもあった。

しかし現在は、必要な情報の大半はウェブで入手できる。したがって、ウェブで必要な情報を検索し入手する方法の学習が非常に重要になった。そして、教科書や教師が作成した補助的な参考資料の配布や閲覧にもウェブが使われるようになってくる。

これらの目的のためには、ウェブの閲覧だけできるパソコンがあれば十分なので、Chromebookはぴったりかもしれない。

しかし、教育用パソコンに求められる機能は、これだけではない。第2に求められる機能として、文章や図表などの作成機能がある。作文やリポートを書いて提出したり、理科の観察や実験の結果をまとめて発表したりするのにもパソコンが使われるようになるからだ。そして、例えば野鳥の観察記録には、鳥の写真や飛んでいる姿の映像、鳴き声の音声なども添付したいこともあるだろう。

そういうことができるソフトはChrome OSには現在揃っていない。現在一般のパソコンで使われている各種のソフトが使えることが望まれる。

そして第3に要求されるのは、学校で習得したパソコンの知識が社会に出てからもそのまま生きることだ。

社会に出れば、一企業内だけでなく、他の企業や団体と頻繁にデータの交換が必要になる。そのため、教育用だからといって、一般社会とは別のソフトウェア体系が使われたのでは不都合が大きい。  教育用パソコンの操作法は、一般社会で最も普及しているパソコンの操作法に極力近いことが望まれる。

Chrome OSの世界でも、今後は文書や図表のほか、写真や音声などのマルチメディア・データも扱えるようになるかもしれない。しかしその取り扱い方が一般社会で使われているものと異なれば、学生は卒業後勉強し直す必要がある。

マニュアル・シフトのクルマが多かった時代には、自動車学校はマニュアル・シフトのクルマの運転法を教えていた。しかし、オートマチック・トランスミッション(AT)が大勢を占めるようになると、AT車の運転を教えればよくなった。学校の教育内容は社会の要求に合わせるしかない。

Chromebookは、ここに挙げた教育用パソコンに対する要求の第1点にはぴったりかもしれないが、第2、第3の点に対しては要求を満たせないのではないかと思う。

第2、第3の点を重視すれば、現在はWindows系の安いノートパソコンということになるだろう。現在3万円程度で手に入るものもあるからChromebookと費用の面では大差ない。ただ集中管理の容易さなどの点ではウェブをベースにするChromebookなどに比べて劣るので、今後の改善が望まれる。

こういう事情は米国も同じはずなので、現在の米国の教育界でのChromebookの勢いがいつまで続くか疑問に思う。われわれはChromebookの一時的な趨勢に惑わされないようにする必要がある。

[関連記事] 

(1) "The New York City Department of Education meets school needs with effective, affordable IT",
Chromebook and iPad battle for US education market – Open thread", 1 December 2014, The Guardian

(3) 「教育PC市場、2020年には1000万台へ Chromebookが台風の目となるか」、日経コンピュータ、2014年12月11日号、日経BP社 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿