“The Daily”発刊
ルパート・マードック氏率いる米国のニューズ社が、2011年2月2日に “The Daily”というオンラインの新聞を発刊した。約1ドル/週、40ドル/年の有料である。同氏は常々、インターネットでコンテンツの無料配信がはびこっていることを問題視していたが、今回この悪習(?)を打破する試みを自ら手がけたわけだ。
“The Daily”は既存の印刷メディアのオンライン化ではなく、まったく新規に発刊するものだ。そのため、ベテランのジャーナリストを含め、スタッフを100人採用し、初期投資に3,000万ドル(約25億円)かけたという。年間の運営経費は2,600万ドル(約21億円)ということだ。[金額の誤りを訂正(12/12/29)]
このように大変なカネをつぎ込んだが、100万人規模の利用者を想定しているので、十分採算が成り立つと考えているようだ。もちろん、事業としての成否は、提供されるコンテンツが年間4,000円程度払う値打ちがあると一般に認められるかどうかによる。それは今後提供されるコンテンツを見て判断するしかない。しかし、 コンテンツの内容は別にして、コンテンツの提供方法にはいろいろ疑問があるように思う。
なぜ日刊紙?
“The Daily”は、基本的には日刊紙である。原則として1日1回記事が配信される。
しかし、インターネットでニュースを読む人は、政府の発表、スポーツの結果、災害や事件の状況などについて、最新の情報を知りたい。速報性こそが印刷物に対するインターネットの強みであり、既存のニュース・サイトはこの強みを生かしている。
インターネットでのニュースの配信に、原則として1日1回という従来の日刊紙のスタイルはなじまない。だいたい “The Daily”という名前がよくない。せめて “The Hourly”ぐらいにすべきだ。
なぜ全記事を配信?
“The Daily”は、毎日最大100ページの全記事を契約者に配信するという。
しかし、紙の新聞は全記事を配布せざるを得ないが、オンラインの場合は必要な記事だけをダウンロードすればよい。その方がダウンロード時間を短縮できる。外出先のインターネット接続がないところで読みたい人は、出かける前に読みたい記事をダウロードしておけばよい。
利用者も最近は、インターネット新聞などでこういうプル型の情報取得方法になじんできている。
なぜiPad専用?
“The Daily”を利用できる機器は、少なくとも当初1~2年はiPadだけだという。
しかし、オンラインで配信される新聞を読む人は、時と場合によって、デスクトップPC、ノートPC、タブレットPC、電子書籍端末、スマートフォンなど、いろいろな機器で読みたい。今年は、アップルのiPad以外に、OSにグーグルのAndroidを使ったタブレットが多数出現する。これらを使って読みたい人も多いはずだ。
コンテンツ提供者が、それを利用できる機器を厳しく絞るのは、自分で自分の首を絞め、利用者の拡大を抑えることになる。
なぜテキスト情報を提供しない?
“The Daily”は記事をテキストとして提供しない。テキスト情報で提供されるオンラインの新聞・雑誌についてはコピー&ペースト機能で他の文書に貼り付けることができるので便利だが、“The Daily”が提供するのはテキスト情報ではないので、この機能が使えない。そのため、記事の一部を引用したりするときに不便だ。
現在はiPadだけを配信対象にしているが、将来は他の端末にも配信するという。しかし、違う画面サイズが違う端末に配信するとき、テキスト情報でないと1行の文字数を画面サイズに合わせて自動的に調整することができない。そのため、各種端末への対応の柔軟性に欠ける。
検索サイトが使えない
現在、各種メディアがある出来事をどう扱っているかを知りたいとき、検索サイトで探すのが一般的である。しかし、有料サイトの記事は検索で見つかっても、契約してないと読めない。
これは当然と言えば当然なのだが、現在のように、ウェブで手に入る全世界の情報の中から、必要なものを検索して利用することが日常化している世の中では大変不便だ。
これを解決する方法として、有料サイトには記事単位でも販売するサービスが望まれる。
従来の提供形態からの決別が必要!
小生は、オーム社の「OHM」2010年9月号のコラム「電子書籍は新聞・雑誌にはなじまない?」に、一般的に電子書籍という情報の提供方法は、新聞や雑誌の記事の配信には適さないと記した。残念ながら “The Daily”もその部類に属するようだ。
インターネット新聞を有料化するのは結構なことだ。インターネットの広告料収入の増大には限界があり、現在の印刷物の新聞の全売上をこれでカバーすることはできないと思われるからだ。
しかし、オンラインで配信するなら、そのメリットを十分に生かさないと競争に負けてしまう。従来の日刊紙の、1日1回全情報をまとめて手元に届けるという配信形態は捨て去るべきだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿