2010年3月4日木曜日

中国の携帯電話事情:雲南省の山村と第4世代の携帯電話

雲南省の山村で

先日、ケーブルテレビのディスカバリー・チャネルで「中国・5億人の携帯電話事情」という番組を見て、驚いたことが二つある。

一つは、携帯電話が雲南省の山村の夫婦の生活に大変化をもたらしたという話だ。彼らは険しい山に入って薬草を採取し、それを売って生活している。今までは仲買人の言い値で売るしかなかったが、最近は携帯電話で市場価格を聞くことができるようになったので、仲買人の言いなりにならずに済むようになったという。

従来これができなかったということは、この地方では固定電話が使えなかったのだろう。中国政府の発表によると、2009年末の中国の固定電話の契約者数は3億1,000万人ということなので、13億人という総人口を考えると、農村地帯には固定電話が使えないところが多いようだ。

そして固定電話は、2006年の3億6,800万人をピークに減少を続けていて、昨年も2,700万人減ったという。ということは、現在固定電話がないところに今後固定電話が引かれることは少なく、こういうところでは永久に固定電話が使えない可能性がある。

こういう地方では電話といえば携帯電話を指すことになる。昨年末の携帯電話の契約者数は全中国で7億5,000万人ということなので、固定電話の2.4倍だ。この比率は今後ますます大きくなるだろう。

この番組には、大勢で山の上に通信機器を担ぎ上げてケーブルを敷設し基地局を建設している場面があった。人海戦術が得意な国とはいえ大変な作業だ。基地局と基幹回線を無線で接続する技術(無線バックホール)のニーズの高さを感じた。

街を走り回る「TD-LTE」と大書したクルマ

もう一つ驚いたのは、「TD-LTE」とボディーに大書したクルマが街を走り回っているところが何回か映し出されたことだ。TD-LTEというのはLTEという第4世代(日本では第3.9世代とも言う)の携帯電話の国際標準規格の中国版である。

LTEは昨年末に北欧で世界初のサービスが始まったばかりで、それに続いて日本のNTTドコモが今年12月にサービスを開始する予定である。世界中でサービスが広まるのは2011年以降だ。まして中国では第3世代の携帯電話のサービスが2009年に始まったばかりだ。

中国最大の携帯電話事業者である中国移動の今年1月末の第3世代の契約者数は390万人で、全契約者5億2,700万人の0.7%に過ぎない。現在はまだ第2世代が圧倒的に多く、第3世代が主流になるには相当な時間がかかるだろう。

こういう時期に第4世代を匂わせれば、第3世代への切り替えをやめて第4世代の出現を待とうという顧客が現れるため、第4世代については積極的にPRしないのが普通だ。それにもかかわらず「TD-LTE」と大書したクルマを走り回らせているのはなぜだろうか?

中国では三つの通信事業者がそれぞれ違う方式の第3世代の携帯電話のサービスを提供している。中国移動がTD-SCDMA、中国聯通がW-CDMA、中国電信がCDMA2000だ。

このうちW-CDMAとCDMA2000は国際標準で世界中の携帯端末メーカーが端末を販売していて実績も豊富だ。しかし、TD-SCDMAは中国独自規格で昨年サービスが始まったばかりであり、端末の種類も少ない。そのため、中国移動は現在不利な戦いを強いられている。

他の国では第3世代でW-CDMA、CDMA2000を採用している事業者とも第4世代ではほとんどLTEに移行する。そのため、中国移動は早く第4世代に移ることを望んでいる可能性がある。それは、中国では第4世代で3社ともLTEの中国版であるTD-LTEを採用するように働きかけて、3社の競争条件を同じにすることが考えられるからだ。

これは、中国独自規格の採用によってロイヤルティの海外流出を極力抑えたいという中国政府の意向とも合致する。

もう一つ考えられる可能性は、中国では第3世代のサービス開始が遅れたので、第3世代の設備を第4世代になってもできるだけ使えるようにするために、第4世代の計画も並行して進めようとしていることである。

また、雲南省の山村の例のように、山岳地帯や人口密度が低い地方では基地局建設の負担が大変なので、通信距離が長く基地局の数を減らすことができる第4世代に早く切り替えたいということもあるかもしれない。

もっとも、このクルマを走り回らせているのは、実は中国移動自身ではなく、中国移動にTD-LTEの通信機器を売り込もうとしている企業かもしれない。それは、たとえ中国移動がTD-LTEの導入を急いでいるにしても、TD-LTEを一般大衆にPRするニーズはまだないと思われるが、中国移動に対するTD-LTEの通信機器の売り込み競争はすでに始まっていると思われるからだ。

[関連記事]
「IT界の異端児、中国!?」、OHM、2009年8月号、オーム社

0 件のコメント:

コメントを投稿