2015年5月9日土曜日

任天堂とDeNAの提携が意味するもの


任天堂とDeNAが提携

2015年3月17日に、任天堂とDeNAが業務・資本の提携を発表した。任天堂が所有するゲームの知的財産(IP)を、DeNAが持っているネットワーク・インフラの技術を使ってスマートフォンなどに配信する新事業を共同で始めるという。

その配信先には、スマートフォンのほか、タブレット、パソコンが含まれ、これらを総称してスマートデバイスと呼んでいる。これにはゲーム専用機は含まれない。

この共同事業の成果は、両社の貢献度に応じて按分されるという。両社は、主としてIPとネットワークインフラというまったく性格の異なるもので貢献するので、売上の按分は相当難しそうだ。

本提携に伴い、両社は、それぞれ所有する自社株の約220億円相当を相手に渡すという。その結果、任天堂はDeNAの株式の10%を所有し、DeNAは任天堂の株式の1.24%を所有することになるということだ。

果たしてゲーム専用機は生き残れるか?

今回の業務提携の内容は大きく二つに分かれる。その第1は、任天堂が持っているIPを活用して、スマートデバイスにゲームを配信するものだ。

但し、任天堂がゲーム専用機用に開発したゲームアプリを、単にそのままスマートデバイス用に移植することはしないという。あくまで、従来のIPを「活用」したアプリを新規に開発して、スマートデバイスに配信するということだ。

任天堂は、スマートデバイスにも配信することで、ゲーム専用機の売り上げが減少することを非常に恐れている。ゲーム専用機のビジネスを任天堂の「本業」として死守しつつ、本提携で、その上にスマートデバイスでの売り上げを積み上げようという考えだ。

そのため、今回の発表が、任天堂はゲーム専用機の市場から力を抜くのではないかという印象を与えることを非常に警戒している。それを防ぐため、来年「NX」という新しいゲーム専用機を発表すると予告した。

しかし、このNXの予告だけでゲーム専用機に対するダメージを軽減できるかどうかは疑問である。ゲームの中には、碁、将棋、カードゲーム、パズルなど、必ずしもゲーム専用機を必要としないものも多いからだ。現に、電車の中でスマートフォンで遊んでいる人が軒並みいる。

そして、現在でも、スマートフォンの画面をHDMIケーブルでテレビの大画面につなぐことができるが、近年中にこれが無線でつながるようになるだろう。そうなれば、据置型ゲーム機の一部もスマートフォンやタブレットで置き換えられるようになると思われる。

マルチプラットフォームに挑戦

上記の第1の提携内容だけで、任天堂が現在持っているIPを生かし、スマートデバイス上でも新規に顧客を獲得できれば、任天堂にとっては一番ハッピーかもしれな。しかし、これはそう簡単にはいかないことを同社も承知しているようだ。

そのため今回の提携の第2の内容は、スマートデバイスとゲーム専用機をすべて対象とする新サービスを2015年秋に開始することを目指すという。新サービスはこれらの多様なデバイスの「架け橋」の役目を果たし、これら複数のデバイスを統合した新しい一つのプラットフォーム上で新しいソフトを提供するという。

このプラットフォームには、スマートフォン、タブレット、パソコンなどのスマートデバイスと、携帯型ゲーム機、据置型ゲーム機、新ゲーム専用機NXがすべて含まれるという。個々のデバイス上のソフトがどこまで一本化されるのか不明だが、少なくともユーザーに対しては「一体型サービス」として提供されるということだ。

これは、ゲーム専用機とスマートデバイスを切り離して扱う第1の提携内容と矛盾するものだ。今後任天堂は両者をどう並立させていくのだろうか?

ITの多くの分野で、個々のハードごとに個別に開発されたソフトが、市場が成熟するとマルチプラットフォーム対応に変化してきた。スマートデバイスの出現で、今後は任天堂に限らず、ゲームソフトのマルチプラットフォーム化が進むものと思われる。ソフトがマルチプラットフォームになるということは、ソフトとハードの市場が分離することにもつながる。 

そして、ITの各分野で、ソフトとハードの市場の分離はアーキテクチャの事実上の標準の確立へと進んでいった。ゲームの市場には他の市場と異なる点もあるが、今後事実上の標準の確立への圧力が増すものと思われる。

「スマートフォンありき」を前提に戦略策定要!

 1983年に任天堂がファミリーコンピュータを発売したときは、ほとんどの家庭にテレビ受像機があった。任天堂は、この「テレビありき」を前提にゲーム機を開発・発売して大成功を収めた。

一方、2007年にアップルがiPhoneを発売して以来、スマートフォンが急速に普及し、今では中高生もみんな電車の中でスマートフォンのゲームに熱中している。今や「スマートフォンありき」の時代になったのだ。

そして、スマートフォンはタブレットやパソコンと共通のアプリの世界を構成し、もはやゲームもこのスマートデバイス群の一大世界を無視しては前へ進めない。これはゲームに限らず、デジカメ、電子辞書、電子書籍リーダなどの市場でも同じである。

では、ゲーム専用機は不要になるのだろうか?

そんなことはない。加速度センサを備えたコントローラやWiiのバランスボードのようなもの、マイクロソフトのKinectのようなジェスチャー認識機能などは、現在のスマートデバイスだけでは実現できない。

したがって、これらのセンサ機能とスマートデバイスを組み合わせて、いかに安く、面白い遊び方を提供するか、そして、そこからどういう方法で対価を受け取るようにするかが、今後のゲーム各社の大きな課題であろう。

任天堂は、2008年度のピーク時には、売上が1.8兆円以上、営業利益が5,500億円以上あった。しかし、2014年度には、売上が約5,500億円と1/3以下に減り、営業利益は4年ぶりにやっと黒字なったところだ。

市場環境がまったく変わってしまったため、従来の延長線上に解を求めようとしても、もはや昔日の栄光を取り戻すことは難しいだろう。「スマートフォンありき」の新市場環境の下で、どうビジネスを展開すべきかを考える必要がある。

そういう意味で重要なのは、第2の提携内容の今後の展開だ。今回は具体的な内容の説明がなかったが、今後の発表が期待される。

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(1) 「任天堂株式会社と株式会社ディー・エヌ・エーの業務・資本提携合意のお知らせ」 、2015年3月17日、任天堂株式会社、株式会社 ディー・エヌ・エー
  


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