The Dailyが廃刊に
ニューズ社が2011年2月に創刊した、The Dailyというインターネットで配信される日刊紙が、2012年12月に廃刊になった。
The
Dailyは、ニューズ社の創業者のルパート・マードック氏が、明日の新聞のモデルになるものを作るのだと、巨費を投じてまったく新たに発行したものである。それが2年弱で廃刊になってしまった。まず、当初の目論見とその後の展開を見てみよう。
廃刊への道
マードック氏は創刊時の記者会見で、100万人以上の定期購読者を想定していると語った。(1) 年間購読料が40ドルなので、購読料だけで年間4,000万ドル以上の売り上げになる。初期投資に3,000万ドルを投じ、年間経費は2,600万ドルの見通しだという。(1)
したがって、100万人規模の読者が確保できれば、3年目には黒字になるはずだった。
ところが、2012年7月の定期購読者は10万人に過ぎないという。(2) 目標の10分の1以下である。これでは購読料収入は年間400万ドルに過ぎず、初期投資の回収どころか、年間経費にも遠く及ばない。年間約3,000万ドルの赤字だそうだ。(2)
これでは経営が成り立たないため、2012年7月には170人いた要員の3分の1弱を減らした。(3) それでも今後の経営の見通しが立たないため、撤退を決断したのだろう。
The
Dailyの廃刊に当たってマードック氏は次のように言っている。(4)
「創刊時から、The Dailyはディジタル出版での大胆な実験であり、革新の実現手段だった。しかし、不幸にして、このビジネスモデルが長期間にわたって継続可能であることを確信するに十分な購読者を、早期に獲得することはできなかった。」
どうしてこのように当てが外れたのだろうか?
当初から予想された苦戦
(a) インターネットで配信されるニュースは常時最新情報に更新されることが期待されるが、The Dailyは基本的に1日1回しか配信されない。
(b) インターネットで新聞を読む人は、読みたい記事だけダウンロードして読み、不要なダウンロードを避けたいが、The Dailyは全記事を一括して配信する。
(c) 使用できる端末がiPadだけである。
これでは読者に受け入れられないのではないだろうかというのが、小生の率直な感想だった。
本件から何を学ぶべきか?
上記の記事に次のように記した。
「オンラインで配信するなら、そのメリットを十分に生かさないと競争に負けてしまう。従来の日刊紙の、1日1回全情報をまとめて手元に届けるという配信形態は捨て去るべきだ。」
ウェブで新聞のニュースが読めるようになって、人々のニュースの読み方が変わった。従来は紙の新聞の記事を受動的に読むだけだったが、ウェブでは能動的な読み方が可能になった。
「政治」、「経済」、「スポーツ」などのカテゴリーから読みたい分野を選び、各カテゴリーの目次から読みたい記事を選んで読むようになった。最新情報を知りたい人のために、各記事には、スポーツの試合の得点状況、台風の進路や被害状況などが刻々と反映される。そして、関連する記事を読みたい人のために、過去の関連記事のリストが添付されていて、いくらでも詳しく調べられる。
もはや、従来の新聞のように、平均的読者を想定して、一定のスペースに記事を詰め込んだものは読者の要望に応えられなくなった。読みたくない読者は記事を受け取らずに済み、詳しく知りたい読者には詳細情報を提供することが求められている。
(1) “Murdoch: The Daily Will Cost ~$56Million To Run In Year One”, Business Insider, Feb. 2, 2011
(2) “Murdoch’s the Daily won’t take off”,
The Guardian, 16
July 2012
(3) “Rupert Murdoch’s tablet The Daily laysoff nearly a third of its staff”, The Guardian, 31 July, 2012
(4) “Press Release 12.03.2012 ”, News Corporation
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